身に降りかかる不遇1
式も終了し、新入生は教室へ戻るように促されましたわ。
ハンスったら、結局一度も式場に入りませんでしたのよ。ブルーテスお兄様の祝辞も聞かないなんて…なんて愚か者なんでしょう。
そこまで体調が悪かったのかしら…。
あのまま放置してしまって…悪い事をしてしまいましたわ。
早くハンスの元に戻らないと…。
急ぎ外へと駆け出す私の後方から、無遠慮な声が響きましたの。
「おい!お前!」
なんと横柄で傲慢な呼び掛けでしょう!?
ー私は、オマエという名前ではありませんから、きっと他の方ですわね。ああ、ハンス。大丈夫かしら。せめて救護室に連れて行っておけばよかったですわ…。
「おい!そこの金髪!」
まぁ!名前も呼ばず髪色で呼びつけるなんて…人格否定も甚だしいですわ!
金髪も数人いますもの。私の事では、なくってよ。それよりも、ハンスはどうしてるかしら?早くハンスの所に行かなくてわ。
「俺様の声が聞こえないのか!?このドリルツヴァイ!」
「うっさいですわね!聞こえてらしてよ!山猿皇子!!」
金髪でドリル…私しかいないじゃありませんか!!
ええ、最初からわかってましてよ!
この声、この態度、この呼び方…
ドリルが2つでツヴァイ。ドリル使用者でドリル使い。私をそのように形容姿する阿保は、ひとりしかいませんわ!
オズワルド!!!
私の天敵!!!
「俺様を山猿と呼ぶな!このドリルツヴァイ!」
「私は、ヴィクトリアですわ!そのような名前ではなくってよ!!」
「なら、ヴィクトリアと呼んでいいんだな。ヴィクトリア!」
「何を勝手に呼び捨てにしてらして!?呼び捨てされる程、私、貴方と親しくなくってよ!」
「俺様は、お前の婚約者だ。親しみを込めてヴィクトリアと呼んで何が悪い!」
「婚約者候補ですわ!私、貴方の婚約者になる気はなくってよ!そして、その言葉遣いの何処に親しみが込められてまして!?憎しみしか感じられませんわ!!」
「当たり前だ!俺様は、お前を屈服させるために婚約者に指名してるのだからな!」
あーもー!!一年前とまったく同じやり取りに辟易しますわ!
私が、山猿をひっぱたいてからというもの…オズワルド皇子は、私を屈従させようと、あれやこれやと絡んできますの!
あの件は、お互いに謝って終わった筈ですのよ!?あの時、お互いにごめんなさいして、握手して、にこっと笑いあいましたわよね??
ですのに、何故かその後、顔を真っ赤にして怒りだし、事あるごとに我が家に襲来するようになりましたわ!?
かと言えば、何も言わずにじっと見つめてきて…炎魔法を込めた視線を寄越すものだから、私の髪が何度焦げ臭くなったか!!!
ほんっっと陰湿な嫌がらせばかりするのですわ!この山猿皇子は!!
「私の事が嫌いな癖に、何故私にいつもいつも絡むのです!嫌なら無視すれば宜しいのではなくって!?」
イライラとし、オズワルド皇子を睨み付けますわ。ここは、アルファフォリス学園。皇子も貴族も平民も、身分差なく等しく学ぶ場。不敬罪などなくってよ!オホホ!
「嫌なモノ程、視界に入るからな。仕方ないだろ。」
むっきー!!なんですの!その人を見下し、馬鹿にした態度は!!
「嫌なモノなのでしたら、即刻、私を婚約者候補から外して下さって結構ですのよ!お互いの為にも、さぁ、すぐに!」
王家からの申し入れには、私、眩暈がしましたわ!あんなにフラグをへし折ったというのに…何故、婚約者候補に!?どう頑張ってもシナリオの強制力が働き、私はこの山猿皇子の婚約者になってしまうのかしら?そして訪れる断罪イベント!!斬首!没落!追放!幽閉!
一体どれですの!?この残念ウキペディア!肝心な所で使えなくってよ!!