繋げない
パカポコ。パカポコ。
赤味がかった空。少しひんやりとした風が野の草を撫で、馬車がその間を駆け抜けていきますわ。行きと違い、乗り合いでなく個人所有の馬車。そして、一緒に乗っているのはレオニダスでもハンスでもなく・・・・オズワルド皇子・・・・。
「あの。私、ひとりでも学園に帰れますわ・・・・」
何故か向かいでなく隣に陣取るオズワルド皇子。隣からひしひしと伝わる圧迫感。居心地が悪すぎて、に げ だ し た い。
ーっといっても、手を繋がれているので逃げれないのですけれど・・・・・・。
いや、何故繋ぐ必要があって??街中はまだわかりますわ。危険な事がありましたし、前科のある私を野放しにできない。というオズワルド皇子の主張もわかりますわ。ええ、ふ ほ ん い ですけれど!!
でもね?
今、馬車の中ですのよ?
しかも、オズワルド皇子所有の!!
繋ぐ必要なんてないじゃないですの!
ナニコレ!手錠!?私、レオニダスじゃありませんのよ!?捕縛だなんて納得いきませんわ!
「そろそろ外して下さる?」
ジトっとした目で横を見ると、「ナニを?」っといった顔でこちらを見ますわ。
「手。貴方の体温が高すぎて、手汗が酷いのですわ。」
貴方、無駄に体温が高すぎですのよ。赤ちゃん?赤ちゃんの体温って高いっていいますわね。ええ。きっとそんな感じ。そして濡れやすい私と肌が合わさると・・・・見事に湿ってきますのよ。ううっ。なんとなく心にダメージがっ。私、汗かきでなくってよ!?人より濡れやすい。それだけですわ!
「あっ?ああっ!!手か!なんで繋いだままなんだ!早く離せ!馬鹿!」
「は?貴方が繋いできたのでしょう!?離してくれなかったのも貴方じゃないですの!私の所為ではありませんわ!失礼ね!」
私の指摘に、顔を真っ赤にして怒るオズワルド皇子。ちょっと!怒りたいのは私の方ですのよ!手を見つめ、渋い顔をする皇子。くっ!気持ち悪い思いをさせて申し訳ないですわね!そんな顔をするくらいなら、最初から手なんて繋がなければいいのに。
「私、人より(汗で)濡れやすいのですわ!貴方に触れられると(暑くて)濡れてしまいますのよ!ですからお離しになって!」
「・・・・!!!;ぉふっ!んんっ!?ぶはっぁあ!!」
ちょっと!なんですの!?いきなりむせて・・・・やだ!?オズワルド皇子、血が!!
「ちょっと!?どうしましたの!?大丈夫!?」
「おまっ!!俺を殺す気か!!」
「はぁ!?」
「もういい!とにかく近寄るな!俺様に近寄るな!頼むから!!」
血に塗れたオズワルド皇子。手当しようとしたら、拒否されてしまいましたわ。えっと、馬車の中、密室、血だらけ皇子。
私、これ王族に危害を加えたとかなんとかで、捕まりませんわよね?
ね?
◆◆◆
「着いたぞ。」
会話という会話もなく、気付けばアルファフォリスへと戻りましたわ。ああ、なんという拷問。オズワルド皇子と馬車という密室の中で2人きり。ありえませんわー。やっと解放される。本当に今日は、散々な一日でしたわ。溜息無しでは語れなくってよ
馬車から降りようとした所、すっと手が差し伸べられましたわ。ああ、オズワルド皇子ね。一応、レディとして扱ってくれるのね。腐っても皇子。俺様でもエスコートくらいはできるのね。
手を添えようとして、身が固まる。
「お帰りなさいませ。お嬢様。」
差し出された手の先。そこに立つ人物。柔らかな茶色の癖っ毛が、風に揺れる。目を細めこちらを見つめる琥珀色の瞳。いつもと違う服装。街中で見かけたあの服。
目があった瞬間、ギュッと胸が締め付けられ、苦しくなる。
「ーハンス。・・・・どうして。」
何故貴方が此処に。
夕焼け色に染まるハンスの頬と鼻先。触れた手の冷たさに思わず驚く。
「あっ。すみません。手袋するのを忘れていました。」
「私の手・・・・冷たかったですよね。」っと言って、慌てて手を擦るハンス。いつからそこにいたの?貴方、私を此処で待っていたの?ずっと・・・・待っていてくれたの?
ーその手を暖めたい。私の手で。
そう思い、伸ばした手を慌てて引っ込める。
だめよ。ヴィー。ハンスのこの手を暖めるのは、私じゃない。
脳裏に過ぎるのは、ルビアナの後ろ姿。
私は、この手を握れない。




