根拠の無い自信と暴走する思考
演習場をでて、大理石の廊下を進みますわ。
ハンスに抱きあげられたままで。
「・・・・・・」
「ハンス!私、歩けますわ!早く降ろしなさい!」
「・・・・・」
「ハンス!降ろして!」
「・・・・」
「ハンスってば!!」
至近距離にあるハンスの顔。直視する事もできず、その肩口に顔を埋め呻きますわ。恥ずかしい。こんな事で真っ赤になるなんて。こんなのだから、ハンスは私をお子様としか見てくれないのに・・・・。
「何故降ろしてくれないの?聞こえてないの?」
何度命令しても、ハンスは降ろしてくれない。何故ですの?私、このままでは私、心臓が破裂して死んでしまいますわ!
「聞こえません」
ーくっ!貴方ちゃんと聞こえてるじゃない!!何よその『聞こえてなければ、従わなくていい』的な屁理屈!
「大体、立ってるのもやっとな癖に無茶ばかりして・・・・」
「何を言ってるの!?私があれしきの事で立てなくなるなんて・・・・貴方、私を侮りすぎよ!私は一人で歩けますわ!」
「何を意地張ってるんですか。・・・・足が震えてますよ。お嬢様」
「ーっ!」
至近距離で、呆れたように向けられる琥珀色の瞳。ハンス!
バレてる!
貴方何もかもお見通しなのね?私が怖かった事を。血が怖くて怖くて、貴方の傷が怖くて、震えていた事を・・・・全部わかって・・・・。
悔しい。見透かされている事が、悔しいですわ。そうよ!私、貴方の事になると冷静で居られなくなるのですわ。苦手な血だって目にするし、無茶だってしますわ!それの何がいけないの!?
「とにかく降ろしなさい!わっ・・・・私の事は、レオニダスに連れていってもらうわ!貴方は怪我人なのよ!?治癒したと言っても・・それに水晶が破裂した原因も・・・・」
わかっていないのに。貴方に何かあるかもしれないのよ?私なんか放っておいても大丈夫ですわ!私、しぶとさには定評のある悪役令嬢ですの。下手な事では、死んだりなんてしませんわ。
「嫌です」
「へ?」
「俺の怪我で、お嬢様が無茶をしたんだ。だから、俺が連れて行く」
あからさまに不機嫌な顔を向けられ、身が縮みますわ。
「それとも、俺でなくレオニダスがよかったか?・・・・お嬢様は、俺だと嫌なのか・・・・」
「いや?」
ー嫌なわけないじゃない!むしろ嬉しいわよ!嬉しすぎて困ってるのよ!!
ハンスの体温がこんなに近くにあるのが。
こんな風に触れ合う事なんて、ずっと無かったから。
このまま、昔みたいにギュッ抱きしめられたいし、おでこをコツンとして想いを確かめあって・・・・そしていつかその柔らかく緩いカーブを描く唇に、恋人のように甘い口付けを・・・・・・。
ーボフン!
「ーいやぁああぁあ!!私ったらはしたない!なんて事を!!!」
恥ずかしい!恥ずかしい!淑女にあるまじき妄想を!!滝汗ものですわ!ってまた暴走で水が!この至近距離で濡れ透けになるのはアウトですわ!落ち着きなさい!落ち着くのよーーー!ワタクシー!!
「お嬢様。落ち着いて下さい。はしたないって・・・・あーなんとなく貴女が今いっぱいいっぱいなのは、わかりました。もう何も言いませんから、暴走しそうなら降ろします。とにかく落ち着いて」
はあー。っと深いため息が頭上から落ちますわ。呆れられた。ああ。私ったらまた、やってしまったのね。
「ハンス。ごめんなさい。私、いつも貴方に迷惑をかけてばかりだわ」
めんどくさい女でごめんなさいね。
「貴方を振りまわしてばかりだわ。・・・・こんなんじゃいつまで経っても、貴方に意識すらしてもらえないわね」
「あーそうですね・・・・確かに振り回されてばかりですね」
うう。こうもハッキリと肯定されると・・・・流石に胸にきますわね。
「俺・・・・私は、貴女に振り回されてばかりですが、案外それを気に入ってますよ」
くすっと笑うハンス。
「ー?ハンスは、振り回されるのが好きなのね・・・・」
振り回される事に快感を覚えるなんて・・・・もしかしてマゾヒストという被虐性淫乱症をもち合わせているの?ー・・・・大丈夫よ。ええ。例え恋愛対象が男性で、その上、M気質だとしても・・・・私、それくらいで貴方の事を幻滅なんてしませんわ!
「お嬢様。それだと何かまた誤解が生まれそうです。ーっというか誤解してますよね?違いますからね!?」
「ええ。わかっているわ。私、心は広いのよ。貴方がどんな趣味嗜好を嗜んでいても。私の愛は変わりませんわ!」
「お嬢様、違いますって!また貴女は変な方向に思い違いを!!・・・・ああっもう!うちのお嬢様は、なんでこうなんだ!」
ハンスが、眉間に皺を寄せ苦虫を噛み潰したような顔で唸りますわ。
大丈夫よ。私、どんな貴方でも、好きでいられる自信がありますわ!
いい雰囲気になりようがない・・・・




