一粒
アルファポリスにて、バレンタインに投下した話です。
番外編になります。
お母様がなくなってるので、暗い話が苦手な方は、読みとばして下さい。
番外編です。
ブルーテスとヴィクトリアのお話。
「ねぇ。おにぃしゃま。かーしゃまどこ?」
ヴィクトリアが、僕に笑いかけてくる。
流行り病で・・・・母様が亡くなって、僕は部屋に籠って泣いていた。とても綺麗で、優しくて大好きな母様。三歳になったばかりのヴィクトリアは、母様が死んだ事が理解できないみたいだ。毎日毎日、僕の元にきて、何度も何度もたずねてくる。
かーしゃま、どこ?
かーしゃま、なんでないの?
うっとおしい。僕がききたいよ。母様は、なんでいないの。なんで僕を残して死んじゃったの?
「うるさい!どっかいけよ!ヴィクトリ!」
ヴィクトリアの顔なんて見たくない。
だって、思い出すから。綺麗でサラサラと流れる金色の髪。くりっとした大きな濃い碧瞳。少しツンとした顔が、笑うとすごく優しくてあったかい気持ちになる。大好きな母様にそっくりな顔。
ヴィクトリアは、母様の生き写しだ。だから、今は会いたくない。この顔で微笑まれると、嫌でも会いたくなるから。せっかく我慢してるのに、涙がまたでてきてしまうから。
妹の前でなんて泣けない。だってヴィクトリアは、泣いてないから。僕だけだ。僕だけがずっと引きずっている。
「どっかいけって!僕はお前の顔なんて見たくないんだ!」
近寄ってきたヴィクトリアの手を払い除ける。大体、僕はヴィクトリアなんて大嫌いだ。大好きな母様を僕から奪った。ヴィクトリアが生まれてから、母様は僕だけの母様じゃなくなった。僕の母様だったのに!僕だけに向けていてくれていた笑顔を、母様はヴィクトリアにも向ける。僕より小さい事を理由に、ヴィクトリアはたくさんたくさん母様を独占する。
そこをどけよ!そこは僕の場所だ!あとから来たくせにズルイぞ!
「優しいお兄ちゃんね。」
母様が嬉しそうに言うから、僕はその気持ちに蓋をして、良いお兄ちゃんでいた。
でも、もう母様はいないから。僕が良いお兄ちゃんでいても、もう笑ってくれないんだ。
ヴィクトリアにどう思われたっていい。嫌われたっていい。一緒にいたくない!
だから、たくさんたくさん酷い言葉を言った。傍にいた、侍女が困ったように慌てていたけど、構うもんか!ヴィクトリアも傷つけばいいんだ!母様が死んだのに、笑ってるお前なんか大っ嫌いだ!
「おにぃしゃま・・・・。」
震えた声。泣き出しそうな声。目尻に涙を浮べながら、ヴィクトリアが僕に近付いてくる。・・・・そんな顔で僕を見るなよ。慰めてなんてやらないからな!
「おにぃしゃま。・・だいりょーぶ?」
「は?」
「おにぃしゃま。いたいいたい?」
そう言って、一生懸命背伸びして、僕の頭に手を伸ばす。届く訳ないだろ?僕とお前の身長差。どれだけあると思ってるんだ?
「おにぃしゃま。かーしゃまいなくて、いつもかなしそう。いたしょうなの。ヴィーかーしゃまさがしてゆの。ヴィーがみつけるから、おにぃーしゃま、なかないで?」
舌っ足らずな口で、一生懸命僕を慰めようとしてくる。
は?ヴィクトリア。お前、もしかして・・・・僕の為に母様を探してたのか?
「かーしゃまひどいの。おにぃーしゃま、たいたいのにがんばってゆのに、ないの。かーしゃまじゃないとだめのに!」
プンプンと怒りながら、僕のおでこに手を伸ばすヴィクトリア。
「母様は、もういないんだよ。ヴィクトリア。」
それまで湧いていた怒りや苛立ちが、消えていく。
「母様は、今ね、遠い遠いとこにいっちゃっんだ。」
膝をつき、顔を合わせ、ヴィクトリアにゆっくり言い聞かせる。
「ないの?もうないの?かーしゃま。」
小首を傾げて、僕に尋ねる。うん。もう会えないんだ。探しても、居ないんだよ。
「うーん。おにぃーしゃまが、こんなにいたそうなのに?」
ヴィクトリアは、母様に会えない事より、僕が辛そうなのが心配みたいだ。
「うん。でもね。会えないけど空から見守ってくれてるんだって。」
父様が僕に言った言葉。全然納得できなかった言葉だけど・・・・今ならわかる気がする。
「いないけど、いるの?」
「そう。会えないけどずっと見てくれてるよ。」
ゆっくりとその金色の髪を撫でると、ヴィクトリアは目を細める。
「ヴィクトリア?」
「よしよし。いーこいーこ。」
ヴィクトリア、なんで僕の頭を撫でてるの?
「かーしゃまがいないのなら、ヴィーがおにぃーしゃまをなでなでしたげる。」
「いたいたいのとき、ヴィーがよしよししたげる。」
「だから、おにぃーしゃま。ヴィーのまえでもないていーよ。」
「・・・・・・ヴィーっっ」
視界があっという間にぼやける。鼻がツンとする。ボロボロと熱い涙がたくさん溢れてくる。馬鹿だな。ヴィー。僕はお前を傷つけようとしたんだぞ?なんでお前が僕を慰めようとするんだ。お前の・・・・お前のまえでだけは、泣かないって決めてたのに。
「ーっひっ。ひっく。グスッ。」
「おにぃーしゃま。たいたいのーとんでけー。たいたいのーとんでけー。」
「うっ・・・・うわーん。ああーーー!!」
その小さな身体で、僕を抱きしめながら、ぽんぽんと肩を叩くヴィー。僕が拗ねて泣いてた時、よく母様がこうして宥めてくれたっけ。
「おにぃーしゃま。これどーじょ。」
ひきりなしに泣きじゃくった僕。落ち着きを取り戻した頃、ヴィーが僕に包み紙を差し出した。
「・・・・・・チョコ?」
ヴィーの体温で溶けかけてるソレ。満面の笑みで差し出してくる。
「あのね。つらいときは、あまいものがいーの。かーしゃまがおしえてくれたの。ヴィーかーしゃまなの。」
得意気に言う妹。そういえば、母様は僕が落ち込んだ時、チョコを一粒くれたっけ。
「ヴィーは、母様なの?」
「うん。おにぃーしゃまがなきたいときは、ヴィーがかーしゃまになゆの。」
「ヴィーは、僕の傍にいてくれるの?」
「そーよ。よしよししてあげゆ。たくさんたくさんぎゅーしたげゆ!」
母様と同じ顔で、僕に笑いかけ、ギュッとハグをしてくるヴィー。ヴィーの高い熱に、溶けちゃいそうだよ。口の中と奥で溶けるチョコと僕の心。
ヴィーから始めてもらったチョコ。僕はこの甘さとほろ苦さを、生涯忘れる事はないだろう。
◇◇◇
補足
バレンタインの話ではありませんが、チョコが絡んでるので、投下させていただきました。
父のロウバーは、仕事が忙しく二人との時間を、あまりとってあげられませんでした。
これをきっかけに、ブルーテスはシスコン化していきます。天然人誑しなヴィクトリアの才能は、三歳で既に開花していたようです




