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第14話 ときめき度合いは運まかせ 2

「え? 若、なにしたのコレ」


 くじで指定された三十分が経過し、庭からコンサバトリーへ戻ってきた二人を見た瞬間、目を丸くしてユーリスが言った。


 出発時点でのフィオグラウスとルルーシャは、多少の恥じらいはあれどそれも含めて普段通りだった。


 それがどうしたことか。

 戻って来た二人の手は、確かに出て行った時と同様に指を絡ませ繋がれたままだ。


 だが主人達の間には、明らかにお互いを──特にルルーシャがフィオグラウスを意識していることがダダ漏れの絶妙な距離が開き、その彼はと言えば、唇を固く引き結んだままだが何故か満足げだ。


 ルルーシャは見るからに心ここにあらずな状態で、湯気が出るのではという程に赤くなっている。


 しかも戻って来たというのに、二人は繋いだ手を離す素振りがない。


「別に……なにもない。庭を歩いて帰ってきただけだ」


「「「へぇ……」」」


 答えたフィオグラウスの視線が僅かに泳いだことで、声を合わせた『見守り隊』の三人は瞬時に視線を交わし合った。


(おいおいおい、これ絶対あの薔薇のアーチで死角に入った時、何かあっただろ。手離さないぞ)

(そうですね、明らかに様子が違います。原因も若様にありそうですね)

(これはあれですね。ついにルノワ様が特訓以外の行動に出られて、予想外のときめきで距離が縮んだと考えるのが妥当ですね)


(え、お嬢、恋じゃね? 好きになってんじゃね?)

(確実に恋になるには、あと一押し必要なのでは? 若様も我慢の限界のようでしたし、変化が生まれたからには、仲が深まるのも早いでしょうけれど)

(では……指摘して変に拗れても困りますし、このまま何も言わず、次のくじの指令に移ってさらに仲良しになって頂く……でよろしいですか?)


 一瞬で思いを共有しコクリと頷きあう。


 何事もなかったかのように、笑顔のクロエが二枚目のくじを読み上げた。


「では、次の内容は──『十五分間、後ろから抱きしめながら』ですね。抱きしめる担当に指定はありませんが、どちらが──」


「わ、私が後ろがいいです!!」


 それまで呆けていたルルーシャが突然食い気味に言ったため、もちろん自分が彼女を抱きしめる気でいたフィオグラウスは動揺した。


「え、る、ルルーシャが後ろ、ですか?」


 ギョッとして隣の彼女を見れば、ルルーシャは繋いだままの手にぎゅっと力を込め、朱に染まりながら縋るように見つめてくる。


「私がフィオグラウス様を抱きしめたいです! お願いします!!」


 じわと涙が滲む紅茶色の瞳での上目遣いに、たじろいだフィオグラウスの心臓が大きく跳ねた。


(こ……れは、何のご褒美だ? ルルーシャが私を抱きしめたい? 彼女から申し出てくれるなんて、どうして突然……う、嬉しすぎる)


 胸の内に広がる猛烈な喜びで息が詰まり、思わず耳と尻尾が出そうになるのを必死で抑える。


 だがそんな恋する獣人騎士の内情を知らぬ彼女も、同じように必死だった。


(さっきからドキドキが全く治らないのに、今フィオグラウス様に後ろから抱きしめられるなんて絶対無理よ! し、死んでしまうかもしれないわ!!)


 実はクロエがくじを読み上げた時、ルルーシャはすでに脳内で彼に抱きしめられており、耳元で「ルルーシャ」と甘く名前を呼ばれるところまで一瞬で想像してしまっていたのだ。


 一度想像してしまえば、これまで朝の特訓で大量に浴びせられていた愛の言葉がどんどん思い起こされ止まらない。


──大好きです。

──愛しています。

──あなたに触れたい。

──抱きしめたい。

──夢に見るのは、あなただけです。


 記憶の中で優しく囁くフィオグラウスは、半獣化して耳と尻尾がある。

 

 だがその姿を思い出しても、ルルーシャの心は恐怖心がどこへ行ってしまったのか、今までと違う締め付けるような甘い痺れでいっぱいになっていた。


(ど……どうしよう。私、おかしくなってしまったんだわ。特訓で仰っているだけだってわかっているのに……フィオグラウス様が、お庭であんなことなさるから……!)


 額に触れた柔らかな熱を反芻してしまい、乱れた心をどうすればいいのかわからず唇を噛んでしまう。


 それを無理していると勘違いしたフィオグラウスが、おろおろとしながら声をかけた。


「ルルーシャ、無理していませんか? 私が後ろでも──」


「無理していません! 私が絶対抱きしめます!! 抱きしめさせて下さい!!」


 ルルーシャからの嬉しい追撃に撃沈したフィオグラウスは、片手で顔を覆い隠し、手を繋いだままその場でしゃがみこんだ。


「……わかりました。どうぞ、あなたの思うままに」


 彼はただ歓喜に耐えられなくなって小さくなっただけだったが、それを特訓開始の合図だと勘違いしたルルーシャは困惑で瞳を揺らした。


「え、今ここでですか!?」


 サッと『見守り隊』の三人に視線を巡らせ、目を白黒させている。

 見られていることが恥ずかしいのだろう。


 だがそれでも二人の手は離れる気配がなく、さらにルルーシャもフィオグラウスを抱きしめるためか、その場にしゃがみ込もうとしている。


(え、お嬢これやっぱり恋じゃない? 好きじゃない?)

(今なら、若様が半獣化してもいけるかもしれませんね)

(いえ、お嬢様はまだ心境の変化に戸惑ってらっしゃるようですし、もう少し様子を見ましょう)


 再び一瞬で意見を共有した三人は、フィオグラウスを無理やり立たせ、二人を部屋から追い出した。


「せっかく良いお天気ですから、二つ目のくじもお庭でやりましょう! そうしましょう!」

 

 主人達の仲をさらに進展させるため、『見守り隊』は恋の始まりをその目で直接見守らず、二人っきりにさせる道を選んだのだった。

 


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