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第五話 姉たちとの会話

家に戻る頃でも、まだ現実感はなかった。


部屋の前まで来たところで、足が止まった。


「……ミコ」


先に口を開いたのは、長女のイチカだった。

背筋が伸びていて、声も落ち着いている。

いつも通りだ。今日も、頼れる長女のまま。


「大丈夫?」

「……うん」


答えたつもりだったけど、自分の声が思ったより小さかった。

心のどこかで、逃げ出したい気持ちもあった。

でも、逃げたところで面倒ごとは増えるだけだと分かっている。


次女のニナが、腕を組んで鼻を鳴らす。


「そりゃあ、大丈夫じゃないでしょ。

 いきなり“はい、桜守です”なんて」


言い方は軽いけど、視線は真剣だった。


「でもさ」


ニナは一拍置いてから続ける。


「ミコが当たったの、変だとは思わない」


私は思わず顔を上げた。


「どういう意味?」

「そのまんま。あんた、昔から変でしょ」

「ひどい」

「褒めてるんだけど?」


ニナは肩をすくめた。


「みんなが“どうしよう”って立ち止まってる時にさ、

 あんただけ“めんどくさいな”って顔しながら、

 結局一番先に考え始めるじゃん」


心臓が、少しだけ跳ねた。

思わず口の端が緩む。

いや、緩ませちゃいけない。

本当は、めんどくさくて逃げ出したいだけなのに。


イチカが、静かにうなずく。


「責任感が強い、っていうより……

 放っておけない性格、なのよね」


別にそういう訳ではない。

やらなくても面倒なことになるならやらざるを得ないだけだ。


「……別に、なりたくてなったわけじゃない」


ぽつりとこぼすと、二人は同時に、少しだけ困った顔をした。


「知ってる」


イチカが言った。


「だからこそ、無理しないで」


ニナが続ける。


「逃げたくなったら、ちゃんと逃げなさい。

 全部背負う必要なんてない」


「……逃げたら?」


「その時は」


ニナはにやっと笑う。


「姉二人が、全力で怒られる役になる」


思わず、息が抜けた。

本当は逃げたいけど、逃げられないことも分かっている。

結局、やるしかないんだ――。


イチカは最後に、私の頭にそっと手を置いた。


「ミコが選ばれたのは事実。でも――

 “一人”になったわけじゃない」


その言葉に、少しだけ心が落ち着く。

優しい。でも、代わってもらえるわけじゃない。

逃げたいけど、逃げられない。

めんどくさいけど、やるしかない。


戸が閉まる音がしたと思ったら、すぐに開けられた音がする。

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