第三話 くじの儀
太鼓の音が、朝から止まなかった。
国中が浮き立っている。
神託が下り、次代の統治者を定めるくじの儀。
祝いであり、安堵であり、長く張りつめていた空気がようやく緩む合図でもあった。
境内には露店が並び、子どもたちははしゃぎ、大人たちは笑う。祭りの空気に、わずかに緊張が混ざる。
「なあ、もし当たったらどうする?」
同級生の一人が、興奮した声で尋ねる。
「決まってるだろ、国を良くするんだよ!」
別の子が胸を張る。田畑を増やす、大国に負けない船を作る――夢のような話を笑いながら語る。
私はその輪の中にいた。
笑い、相槌を打つ。
でも少しだけ、距離を置いていた。
大人たちが順にくじを引く。
肩を落として戻る人、歓声を上げる人。
祭りの音は鳴り続けるが、少しずつ、間が空くようになった。
年長の子どもたちも呼ばれる。
当たらない。
ざわめきが、波のように引いていく。
私は自分の番が来るまでの時間を妙に長く感じていた。
逃げたいわけではない。
引きたくないわけでもない。
──ただ、自分には関係ない、と心のどこかで思った。
巫女の家に生まれたからといって、必ずしも選ばれるわけではない。
今までだって、そうだった。
「ミコ!」
名前を呼ばれ、無意識に一歩前へ出る。
木箱に手を入れ、たくさんの紙の中から一枚を引く。
開いた瞬間、何も起こらない。
──あ、はずれだ。
そう思った、その瞬間だった。
ざわめきが、消えた。
風が止み、太鼓の音も笑い声も、一斉に息を潜めたように感じる。
境内を満たしていた気配が、押しつぶされるように静まり返った。
ミコの手の中の紙だけが、やけに重い。
誰かが小さく息を呑み、誰かが無意識に頭を下げる。
──理由は分からない。
ただ、ここに何かがいる。
それだけが確かだった。
自分の手元を見下ろす。遅れて理解する。
紙に記された印。神紋。
当たりだ。
頭の中が真っ白になる。
「……え?」
自分の声が、やけに小さく聞こえる。
同級生たちの表情が、一斉にこちらを向く。
喜び、羨望、戸惑い――混ざり合った視線。
でも、心はまだ追いつかない。
誇らしさも、恐怖も、後からやってくる。
ただ一つ、はっきり分かる。
──また、役目だ。
遠くで太鼓が、控えめに鳴り直す。
祭りは続く。
でも私の中で、何かが静かに終わった。




