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やがて世界は黒く染まる  作者: どこかの黒猫
第2章 旧共和国領解放作戦
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第9話 天使のような塵灰


「タケミカヅチ、ヒノカグツチ、オホワタツミ、オホヤマツミ!」


出雲の右手に炎がまとわりつき、左腕が木で覆われ、右足に稲妻をまとい、左足を水が覆う。

四属性を全て同時に使うその魔術に、やはり未だ属性という観点に囚われているアリス達は驚嘆する。


「火よ、赤く彩り燃え上がれ!」


アリスが後ろから魔法を放ち、援護する。

しかし、直撃したにも関わらず、天使は傷1つない。


「うそ、きかない……?」


アリスが驚きの声を上げるのを後目に、最速で駆け抜ける出雲のやや後ろをクロエが追いかけ、異能の右腕を呼出す。


「うぉおおおおりゃぁぁあ!!」


クロエが雄叫びを上げながら右腕を振りかぶる。


元々気の強い性格とはいえ、貴族の娘として育ってきたクロエがこんな雄叫びをあげるようになったあたり、黒音の訓練の厳しさと激しさが伺えるがそれはさておき。


振り抜かれた拳は天使を真っ直ぐ捉え、殴りつける。

殴りつけたのはその巨体の、右肩の位置。ほんの小さな場所でしかないが、それでも天使はよろめいた。


「え、これは効いてる!?」


何故か効果的な異能の攻撃に、クロエは驚く。


「………位の低い魔法はおそらく無効化される。アリス、高位の魔法……大魔法を使え。」


「大魔法なんて使ったことなんてありませんよ!?どんなものがあるのかすら知りません!」


「何とかするんだ。オリジナルの魔法で構わない。術式を組んで、より世界の中心に接続しようとすれば、式や詠唱が雑でも威力はだせる。」


「世界への接続、ですか!?」


黒音のやつはまだ魔法の仕組みについて詳しく説明してないのか、と出雲は内心舌打ちをするが、それならお前が説明しておけ、とでも言われそうでうんざりとした気分になった。


というか、確実に言われるだろう。


「理の外にあるものよ、汝はこの世ならざるものなれば!」


巨大な魔法陣がいくつも浮かび上がり、魔力の稲妻が溢れ出す。

輝かしい光と共にいくつもの魔法陣が天使を覆い尽くす。


「あるべき所に帰りたまえ!!」


その言葉と共に、より一層魔法陣が輝きを放つが、何も起こらない。


「ちっ、やっぱ払えないか。」


この天使はこの世界に呼び出された訳ではなく、世界ごと呼び出された、つまりこの場所がこの天使のあるべき場所なのだ。

だから、天使や悪魔などといった存在を払うための魔術は、効果がない。


(どうにかするには、あれを倒すか……この空間をどうにかするしかない。)


術者を倒すという手段もあるが、その術者がどこにいるのか分からないので今回は除外する。


(一体なにもんだ、こんなことをしでかせるのは………?)


出雲は内心でこの魔法を分析しつつ、術者の頭のイカレぐらいにうんざりしていた。

何をどうしてこんなキメラのような訳の分からないものを作り呼び出そうと思ったのか。


下位の魔法が聞かないということは、この世界においてかなり高位だと言うことだが、こんな神や天使や精霊やらをごちゃ混ぜにしたものが高位の存在とは到底思えない。


(こいつを呼び出した目的はなんだ……?あと、クロエの異能はなんで通じる?)


敵の思惑も気になるが、クロエの異能が効果的なことにも驚いている。

とすれば、クロエのあの巨腕は………


「グルゥァアアアアアァアアアア!!!」


天使という名を冒涜するかのような叫び声をソレはあげる。

翼から結晶がマシンガンのようにばらまかれ、辺り一面を更地に変えていく。


「クソがっ!」


後退しつつ、雷で羽の結晶を撃ち落としていく。

幸い、範囲は広くても連射性は大したことがないのである程度撃ち落とせる。


が、撃ち落とせたのは自分の周囲のみ。

クロエやアリス達は何とかなったが、他の兵士たちはダメだった。


と、そこで通信魔術が展開された。


『聞こえるか?出雲。』


「黒音か?」


通信用魔術で、黒音が出雲に話しかけてくる。


『あぁ、その人口天使だが、予想が正しければ弱点は翼の付け根だ。』


「それは、本当か?」


『本当だ。その後が面倒になるだろうがとりあえず弱点はそこだ。』


いうだけいうと黒音は通信を切った。

それだけ向こうにも余裕が無いのだろうか?

というか、なにか大切なことを隠してる感じがしたが……まぁいいか。


とりあえず、目の前のこいつを………いない!?


目の前にいた敵が消えている。

意識がそれていた、ほんの一瞬だった。

それが、命取りになると出雲は重々承知していた。


こういう時、大抵どうなるのか。

その考えに行き着いたとき、出雲の意識は暗転した。



―――――――――――


「イズモっ!?」


クロエが悲鳴のように出雲の名前を呼ぶ。


一瞬の出来事だった。

何をされたのかはよく分からなかったが、気づいた時には出雲が吹き飛ばされていた。


あの天使は、見た目と中身以上に知能はあったらしい。

この中で、1番手練である出雲を集中的に狙ってきた。


「どうする、どうする……?」


出雲が戦闘不能になった今、ここにいるのは素人3人組だけ。

兵士たちもいるにはいるが、先程の攻撃で指揮系統が混乱している。

それに、負傷兵も多い。


「アリス、大魔法は……」


後ろを振り返ると、真っ青な顔をしたアリスが焦りながら魔法の構築をしたいた。

どう考えても無理をしている。


アレでは、もし大魔法を構築出来たとしてもきちんと扱えるか分からない。


「まずいよクロエ。アイツ、街の方を見てる。」


天使をよく観察してみると、確かにアルバートの言った通り少しずつ移動し始めている。

しかも、共和国の方向に。


「アイツ、この結界内でしか動けないんじゃなかったの?」


「それなんだけど、少しずつ結界が広がっているみたいなんだ。……まるで、あいつに呼応するかのように。」


だとしたら、アレが街に向かっているのは間違いない。

クロネはもう1人の化け物にかかりっきり、余裕はなさそうだ。


どうする、どうする……?


「付け根だ。翼の、付け根………。」


「イズモっ!」


「俺のことはいい。おれはアリスと一緒に後方支援に回る。」


ボロボロになった出雲が、よろよろと歩いてくる。

魔術で応急処置はしているものの、焼石に水のようなもので、治療に専念しなければあまり意味はなさそうだ。


「……!イズモさん、大丈夫ですか……?」


「ん、反応が遅かったな……精神を摩耗させすぎだ。もっと楽に気を保て。」


アリスの不調に、出雲はすぐに気づく。

やはり、この土壇場でオリジナルの大魔法を作らせるというのはアリスにとって精神的負担が大きかったか、と出雲は反省する。


いずれはできるようになってもらわなければならない訳だが、今回だけ手を貸すことにする。

状況が状況なのもある。


「クロエ、アルの2人で前衛だ。羽の付け根を狙え。」


「わかった!」


クロエが魔法陣を展開する。

脚力を大幅に高める魔法陣だ。

本来ならこんな分かりやすく発動させたら黒音にドヤされるのだが、相手は天使。

知能はあるみたいだが魔法陣に関してどのような知識、または思考を持っているか分からない。

なら、コソコソ使うよりも簡単に使って無駄を省く。


「狙うは羽の付け根………!」


クロエが異能の右腕を大きく振りかぶり、ぶん殴る。

だが、天使はその巨体に似合わない速度でそれを避ける。


「………?今……」


私のことを、避けた?

出雲達の魔法や、兵士たちの砲撃を意にも介さなかった天使が、避けた。


翼の付け根を狙われるのが余程嫌だったのか、あるいは………?


「AAAaaaaAaaaa!!!!」


おぞましい咆哮が響き渡り、空気がビリビリと震える。

見たこともない魔法陣がいくつも展開され、閃光が放たれる。


さすがに、この量となると避けきれない。


『其は力ある言の葉。我が発する言葉、その口の囀るがままに唄い踊れ。』


アリスの声が響き渡る。

巨大な魔法陣が展開され、周囲の魔力に影響を及ぼす。


なにか、とてつもない力が働いている。


『動くな!!』


その言葉……いや、命令に従うかのように天使がピタリと動かなくなる。


アリスが作り上げたオリジナルの大魔法、『力ある言葉。』

対象に一つだけ命令を下すことが出来るというとてつもなく強力な魔法だ。


「まさか、こんな魔法ができるとはな。」


こんな魔法、いくら大魔法とはいえ出来るはずがないと出雲は考えていた。

人に有無を言わさず命令を出すというだけでもかなりの高等魔術なのだが、天使などの高位の存在にも命令を出せる。


別に、命令を出すこと自体は珍しくない。

天使を召喚したからには、命令を出すように仕掛けを施すのが当然だし、人の行動を強制的に操作する魔術なんていくらでもある。


だが、この魔法の恐ろしい所は、なんの事前準備も要らず、また相手の妨害を全て無効化するという所にある。


行動を強制される魔術があるのなら、当然、それに対抗する魔術もある。

だが、この大魔法はそれらを全く意に介さない。


もはや異能と言っても過言ではないレベルだ。

こんな魔法を作れたというのは、アリスの才能にほかならない。

一体この少女は……?


「グルゥァアアアアア!!!!」


動けなくても、天使は己の肉体を駆使して攻撃を行おうとする。

その目、顔と言っていいのか分からないような頭をしているが、その目に当たるであろう部分が、異様に変化する。

恐らく、魔眼、邪視の類。

とすれば堕天使、邪龍、ドラゴンの特性か。


天使でありながら神や精霊など色んな種族を混ぜ合わせたような冒涜的な姿、特性をしているのだ、今更どんな訳の分からない特性があっても驚きはしない。


だが、不味いのはその邪視がクロエの方を向いているということだ。


竜種や精霊種の出来損ないのようなものを討伐した経験があるので、出雲にはわかる。

アレの直撃を食らうのはまずい。

しかし、防御や回避が間に合うような状態ではない。


「クロエっ!」


「―――っ、アルっ!?」


クロエを突き飛ばし、アルが防御魔法を展開して邪視を受け止める。

が、防御に使う障壁には亀裂が入り始めている。

あと10秒も持たないだろう。


「早く行けっ!」


アルに促され、一瞬迷うもののすぐに意識を切り替える。

こういう切り替えは黒音との訓練の賜物だ。


「はぁぁぁぁぁぁっ!!」


その拳は、吸い込まれるように天使の翼の付け根を殴り付ける。

そして、天使の羽が粉々に破壊され、天使が断末魔の方向をあげる。





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