なんでも屋・花霞(前編)
〜あらすじ〜
現代社会に転生して少女の姿となった大魔法使い・花宮桜都。
桜都は前世で良かれと思って魔法を広め、争いを助長してしまったという苦い経験があった。
しかし兄の桜介の怪我を魔法を使って治した結果、魔法使いであることが知られてしまう。
桜都は小学生の子供1人に知られるくらいなら大丈夫だろうと、たかを括っているが…?
「桜都…魔法見せてよ!」
あれから数日。
兄の桜介は幾度となく「魔法を見せて」とねだってきた。
そもそもは、兄が自分で魔法を使いたいと言い、習得できなかったことが原因だ。
この世界では魔力を掴む感覚が弱く、初めて習得するには厳しい環境だった。
前世の世界の子供達を思い出しながら、簡単な魔法を見せる。
「じゃあ今日は庭にお花を咲かせるね」
我が家の小さな庭には芝生と木が生えている。
庭に出て、何も生えていないところに2人でしゃがみ込んだ。
「行くよ。フェーティルタス!」
土に手をかざしながら呪文を唱えると、一本のたんぽぽが生えてきた。
ふわり、と花開く。
「おおお!すごい!生えてきた!」
兄は大喜びだ。
魔法自体は何度か見せたのに全く飽きない様子。
ここまで喜んでもらえるとこちらも嬉しくなってくる。
「そういえば、なんで桜都は魔法使いになったの?」
純粋な疑問をぶつけられた。
困った。前世のことを言うべきではないだろう。
言ってしまったら、きっと今の兄妹の関係が壊れてしまうから。
兄のことを信頼していないわけではないが、あくまで12歳の子供と考えると、かつての自分のことを伝えるのは躊躇われた。
「うーん」
なんと言い訳したらいいのだろうと考える。
「もしかして、言っちゃいけないみたいな約束があったりするの?」
言い淀んでいると、兄が勝手に予想し始めた。
「ええと、うん、そんな感じ」
「うおお!すげえ!漫画みたいだ!」
勝手に感動し始めてくれた。
小さな心苦しさを感じつつも、ほっとした。
「いいな、俺もなりたかったな」
小さな声で兄は呟いていたが、この時の私は聞き取れなかった。
家の中に戻った。リビングに入ると兄はソファに座った。私も隣に座る。
しばらく黙ってから、兄が喋り出す。
「あのさあ、ずっと考えてたんだけど、秘密結社を作ってみない?」
「秘密結社?」
「そう!それで依頼を受けて、桜都の魔法をみんなの役に立てるようにするんだよ!」
ごっこ遊びのつもりだろうか。
前世のことを思い出すと、流石に許容できない。
兄にセンスがないだけで、他の人が魔法を使える可能性だってあるのだ。
「ええと、私の魔法、あんまり人に見せちゃいけない約束になっていて」
「えー!また約束?」
機嫌が悪くなり始めた。
「うーん、でも、せっかく魔法が使えるんだし、活用しないのは勿体無いよ。怪我や病気が治せるんでしょ!?」
「もちろん私だって役に立てたい気持ちはあるんだよ。だからこの前は、魔法を使ってお兄ちゃんを探しに行ったわけだし」
「じゃあ!」
「でも駄目なの!」
「…わかったよ」
私の覇気に押されたのか、不貞腐れながらも了承してくれた。
ごめんねお兄ちゃん。でも、これだけはダメなんだ。
それからさらに数日。
兄はいつものように、学校から帰ってくるとすぐにどこかに出かけていく。
外遊びがそんなに楽しいのだろうか。
たまに魔法を見せてとねだられるが、秘密結社云々の話があってから、極端に頻度が減った。
次の日学校に行くと、車椅子の女の子が目に入った。体格的に高学年だろう。
こんな児童がいただろうかと記憶を掘り出すが、出てこない。
とはいえ、あまりジロジロ見てもいけないと思い、すぐに目を逸らすと、その目線の先には兄がいた。
どうやら車椅子の彼女とは友人らしく、近づいていく。
「あ、お兄ちゃん」
「桜都」
声をかけるとその子を紹介してくれた。
「この子は同じクラスの山田さん。こっちは妹の桜都。」
「初めまして」
「初めまして!妹ちゃん何年生?かわいいね!」
話を聞くと、車椅子の彼女は事故に遭って、怪我をしてしまったらしい。
ちょうど昨日までの2週間、入院をしていたそうだ。
そしてこれから最短2ヶ月の間、車椅子が取れないらしい。
なんとなく、兄がやりたかったことを察した。
きっと彼女をかっこよく治してあげたかったに違いない。
自分が骨折を治してもらったから、彼女の怪我だって治せるはずだろうと。
そして兄が私の魔法に思ったように、すごいと思って欲しかったのだろう。
帰宅してから、兄に予想した通りのことを説明された。
最近、学校から帰ってすぐに外に出かけていたのも、彼女の病院にお見舞いに行っていたのだそうだ。
「お兄ちゃんの気持ちはわかるけど、やっぱりダメだよ」
「…修学旅行があるんだよ、来週に。人生で一度しかない小学校の修学旅行なのに、自分の足で歩けないなんて悲しいじゃんか」
修学旅行か。若い頃の思い出は一生ものだ。私だって魔法学校時代の友人との研修旅行は鮮明に覚えている。
歩かせてあげたい気持ちは十分あるが、だからと言って2ヶ月かかるものが1週間で治ったら、怪しまれてしまうだろう。
しかし。
「治してあげることはできない。けど、できることはあるかもしれない」
「どういうことだ?」
あまり要領を得ていない様子。
「車椅子の不便さってなんだろうって思ったら、あんまり使わない腕の筋肉を使って進むことや、段差を越える時に複数人に持ち上げてもらわないと進めないところだと思うの」
魔法使いの基本、因果の分解だ。何が原因でどんな不利益があるのか。その不利益は本当にその原因を改善することでしか改善できないのか。
例えば前世における豊穣の魔法だ。種が悪いのか、土壌が悪いのか、天候が悪いのかを分析することで、豊穣の魔法を使えない人でも不作を改善することができた。そういう感覚に近い。
「あとは小回りが効かなくて周りについていけないところとか、視点がみんなと違うとことか、ジロジロ見られることもあるな」
兄が原因を追加した。
「確かに、そういうのもあるかも。それで、これは魔法で軽減できるんじゃないかって思うの。直接的に治すわけじゃなけば、人に気づかれずに魔法で助けてあげられるかなって」
兄の顔が晴れた。
「やってくれるのか!?」
帰宅して初めて、兄の口角が上がった。
「本当に山田さんのためになるかはわからないけど…」
「いや、きっと何もしないよりずっと楽しんでくれるよ!ありがとう!」
そうして1週間が経ち、修学旅行当日の朝になった。
「お兄ちゃん、起きて」
時刻は午前4時。まだ街は眠っている時間。
「そろそろ出ないと山田さん起きちゃうよ!修学旅行の日だから早め早めで動かないと!」
「あと5分…」
「お兄ちゃんが言い出したんでしょ!早く起きてよ!」
渋る兄を叩き起こして、2人分の飛行と透明化の魔法をかける。
2人ともパジャマのまま、兄の手を握ってから外に飛び出した。
上空30mほどまで上昇する。
「うわあああああ」
「ちょっとお兄ちゃん!声は聞こえるんだから静かに!」
初めて飛行魔法を体験した兄は、絶叫マシンさながらの反応を見せた。
私の体にしがみつこうとしてくる。
中身はそれを気にするような歳ではないので、とりあえずやりたいようにさせた。
今回は兄がいるため、前回とは違い、超低速移動をする。
歩いたほうが早いかもしれないほどに。
「山田さんの家はどこ?この辺だよね」
「そこ!黄色い家!」
兄は左腕でがっしりと私の腕をホールドしながら、右手で指差した。
そちらに視線を送ると確かに黄色い一軒家がある。
「わかった。部屋はわかる?」
「玄関の上の部屋!2階の!」
行き先がわかったので下降する。
「ひいいいっ!」
歯を食いしばりながら兄が下降の浮遊感に耐えている。
初めて飛行魔法を使った人を見るのは面白い。
山田さんの部屋のすぐ前に着くと、壁の一部に透明化魔法をかけて、部屋の中に侵入した。




