異世界に転生した大魔法使い
初投稿です!
お手柔らかにお願いします!
「おぎゃあ、おぎゃあ」
なぜだろう?言葉が喋れない。体も自由に動かない。
私は老婆ではあるが、ここまで体が不自由だった覚えはない。行動阻害の魔法をかけられているのかもしれない。
白色の服に身を包まれた女性が私の体を持ち上げる。
私の体は、汗ばみ、髪を乱している別の女性に渡されたようだ。他には男性も覗き込んでくる。攻撃するそぶりはないようだ。
私の体と比較するに、彼らは体が大きい。巨人族か?
「おぎゃあ」
離せと言っているはずなのに全く言葉が出ない。
ならば、かくなるうえは実力行使しかない。魔法を───。
「おぎゃおぎゃ」
魔法の詠唱もできない。想像以上に彼らは強敵なようだ。
私の老体では暴れたところで意味がないだろう。
諦めて状況観察をしていると、ある可能性に思い至った。
私の体は赤子の状態になっているかもしれない。
この体の不自由さは、昨日までの私の肉体とは似て非なるものであった。
輪廻転生という概念自体は知っているが、こんなことが本当にあり得るのだろうか。
しかし、現実とは不思議なもので、それがあり得てしまっていた。
生まれ落ちて半年もした頃、私はこの世界について色々と理解できるようになってきた。
この世界というのは不思議なもので、剣も魔法も存在しない。それどころか戦争とも縁遠い、天国のような世界だった。もしかしたら本当に天国に来られたのかもしれない。
この世界の私には兄がいた。
名前は花宮桜介。
齢は4つ。
私が母に世話を焼かせていることに大層嫉妬しているにも関わらず、私にこの世界のことを教えてくれる、愛らしい子供だった。
顎や首の筋肉がついてきて、ある程度言葉が喋れるようになってきたある日のこと。私はかつていた世界で使用していた”魔法”を使ってみることにした。
対象は兄が壊してしまったおもちゃだ。
兄はこれにひどく動揺し、泣き喚いて母を困らせていた。
魔法が使えれば治せるかもしれない。
衣食住を提供してくれている家族に、たまには恩を返してみるのもいいだろう。
まぁ、使えるのならば先人たちが使っているだろうし、正直期待していないが……。
周りに人がいないタイミングを見計らって修復魔法の呪文を唱えた。
「レーパラーレ!」
武装した人型キャラクターのおもちゃに手をかざし、魔力をこねて注ぎ込む。
修復魔法特有の黄緑色の光が手から溢れ出し、おもちゃがひとりでに動いて元通りの姿に直った。
この世界でも、魔法は使える!
かつての世界の技術がこの世界でも通用するということがわかり、ひどく興奮した。
けれど、これが分かったとしてどうしようか。
魔法を人々に広げ、使ってもらうことは私の人生の幸せになるのだろうか。
───前の世界では、私は大魔法使いと呼ばれていた。
若い頃は魔法使いとして戦争で大きな戦果を上げ、年老いてからは研究者として魔法の研究に勤しんだ。
私が研究していたのは魔法の汎用化だ。最も評価されたのは治癒魔法の一般化。
元々、熟練の魔術師の長い詠唱と魔力コントロールを必要としていた魔法を、1週間程度の訓練と2秒ほどの詠唱で使えるように簡易化した。
これによって人々の死亡率は大きく改善された。
晩年には国王から名誉国民として爵位を賜るほどの功績であった。
しかし私は自分の人生に満足できなかった。
所詮、魔法は戦いの道具にしかならなかったからだ。
治癒魔法は人間を無限の戦争に駆り出し、修復魔法は一度しか使えないはずの大量破壊兵器を何度も使えるようにしてしまった。
私のおこなってきたことは、人々の幸福にはつながらなかった───
そんな経験もあり、今回のおもちゃ修復を最後に、私は魔法を隠すことに決めた。
修復したおもちゃをハイハイを駆使して兄の玩具箱に入れて、何も知らないふりをする。
直ったおもちゃを見つけた兄は喜び、母は不思議そうな顔をしていた。
この世界では魔法を使わずに生きていこう。
この天国のような世界で、私は平和に第二の人生を謳歌するのだ!
───そして、そう心に決めて8年。私は”小学生”になっていた。
兄の花宮桜介はやんちゃで活発な性格の小学6年生になった。
転生由来の精神年齢の高さもあって、落ち着いた性格の私・花宮桜都とは馬が合わず、一緒に遊ぶことも減ってしまった。
今日は外遊びにちょうどいい春の陽気ということもあり、今日も学校から帰ってくると、ランドセルを玄関に放り投げて外に駆け出して行く。
母が仕事から帰ってきた時にこのままだと、兄が怒られてしまうので、散らばった教科書をランドセルに入れ直して、兄と私の部屋に持っていってあげた。
最近はこの国の言語を大方理解し、読書が趣味となっている。
今日もいつも通り、本を読むことにした。
長く伸ばした髪を邪魔にならないように縛ってから、読書に集中する。
およそ5時間が経った頃、帰宅時刻が過ぎたのに、兄が帰ってこないことに気がついた。
いつの間にか帰宅していた母が心配している。
夜8時といえば、4月で日が長くなってきているとはいえ、すでに暗くなっているのに帰ってくる気配はない。
こんなことは初めてだった。
魔法は使わないと決めたが、さすがに兄が心配だ。探知魔法を使おう。
兄の布団から抜け毛を探し出し、それを元に同一個体を探す魔法を使用した。
「クアイリーレ!」
持っている髪の毛の先端が北の方角を指した。
透明化の魔法と飛行魔法を使い、こっそり窓から飛び出して、髪の毛の指し示す方向に浮かび上がる。
長い髪と膝下までのワンピースを靡かせながら空を進んだ。
辿り着いた地点は家から自転車で20分ほど離れた林道だった。
その先は小さな山につながっている。
道から10メートルほど入ったところの木の根元で兄の桜介は座っていた。顔は疲れ切っていて元気がない。
よく見ると左足があらぬ方向に曲がっていた。おそらく木から落ちて骨折してしまったのだろう。
さて、どうしようか。
このままでも警察が探せば見つかるかもしれないが、この山に野生動物がいないとも限らない。
しかし私が助けを呼んだら、なぜここにいるんだという話になってしまうだろう。
匿名で通報できれば話は早いが、あいにくまだ携帯を持たされていない。
仕方がないので、兄には魔法を見せることにした。
小学6年生にもなれば、秘密を持つことくらいできるだろう。
飛行魔法を解除してから透明化魔法も解除した。
兄に近寄る。
「お兄ちゃん、何しているの?」
ちなみに、この世界の私の声は可憐で透明感があり、我ながら可愛いと思うタイプだ。
兄は何もないところから私が現れるのを見て、目と口をあんぐりと開いて驚いていた。
「え、俺もう死ぬのかな。幻覚が見えるなんて」
「幻覚じゃないよ。私、魔法使いだから」
兄の前に跪いて左足に手を触れる。
「見ていてね。クーラティオ!」
治癒魔法を唱えると、みるみるうちに骨折した足が元の方向に向き直り、兄の表情からも痛みが見て取れなくなっていった。
「うわぁ…俺夢見てるのかな。もうわけわかんないや…」
兄は体育座りのまま丸まってしまった。
「だーかーら!私は魔法使いなの。現実だよ」
「魔法なんてあるわけないだろ!」
「さっきの見てたのに、どうしてそんなことが言えるの?」
「これは夢なんだよ」
「夢じゃないんだってば!」
どうしても魔法が信じられないようだ。
「じゃあさお兄ちゃん。もう2つ、見せてあげるよ。一緒に魔法で家に帰ろう?」
しゃがんで手を差し伸べた。
「わけわかんないし怖いよ…」
「これは夢だって思ってるんでしょう?夢なら怪我しても死んでも大丈夫。だったら魔法も怖くないんじゃない?」
「…そうだけど」
いまいち納得できないようだ。
となれば作戦を変えるべきか。
「…私、こんなに暗いところ怖いよ。早く家に帰りたいな。お兄ちゃん」
上目遣いで兄を見つめる。甘える作戦だ。
「桜都…そうだよな。兄ちゃんが家まで連れてってやるからな」
「いや、私の魔法ですぐに帰r」
兄はさっさと乗ってきた自転車に跨った。
「魔法はよくわからないから、夢じゃないならまた家で見せてよ。こんな暗いとこじゃよくわかんないしさ。ほら、後ろ乗って。早く帰ろう」
自転車の荷台を指して私を呼んだ。
さっきは意地を張ってしまったが、よく考えたら兄に魔法を信じさせる理由もないし、まあいいか。
兄の後ろに乗ると、1つしかないヘルメットを頭に被せてきた。
「ありがと。お兄ちゃん」
しっかりと背中に掴まった。
自転車が進みだす。
まだ肌寒い春の夜を、2人が乗った自転車が進んだ。
2人とも無言だが、居心地は悪くない。
20分ほど進んで家に着いた。
「お兄ちゃん、魔法のことはみんなには秘密にしてね。」
「そんなこと言い出したら気が狂ったと思われるから、言わないよ」
「じゃあ私は家にいる設定だから、先に戻ってるね」
飛行魔法と透明化魔法を使って、浮かび上がり、事前に開けておいた自室の窓から部屋に戻った。
後ろからなので、どんな反応をしていたかはよく分からなかったが。
兄が玄関から何事もなかったかのように家に入ってくると、両親にとんでもなく怒られていたが、あまり気にしていない様子だった。
これだから、親の気を知らない子供は。
呆れながら見ていると、兄と目が合った。
怒られているところを見られているのが恥ずかしいのか、バツの悪そうな顔をする。
かわいそうなので早々に自室に引き上げた。
翌朝。
昨日、兄は夜遅くまで父に絞られていたようだ。
幼いこの身体の睡魔に勝てず、部屋に戻ってくるまで待てなかった。
「おはよ、桜都」
「おはようお兄ちゃん」
寝起きの私に対し、兄は少し前から起きていたようで、何かいいたげにモジモジしている。
「どうしたの?」
「いや、うーん。変なこと聞いてもいい?」
「うん」
覚悟を決めて、真剣な顔で聞いてきた。
「桜都って、魔法使いなの?」
起きてすぐ聞かれるとは思っておらず、思わず笑ってしまった。
この様子だと、両親に怒られている時も「なかなか夢が覚めないなあ。あれ、夢じゃない?魔法使いってもしかして本当?」とか思っていたのかもしれない。
「ふふふ」
笑っていると兄は恥ずかしそうに目を逸らしながら言った。
「そうだよな。そんなわけないよな。俺ほんとにおかしくなっちゃったのかも…」
「ふふふ、どうだろうね。案外夢じゃないかもしれないよ」
ベッドから立ち上がりながら答えた。
「え?」
「でも、2人だけの秘密だから」
兄のすぐ前で自分の唇に人差し指をあて、「しー」のポーズをする。
そしてすぐに振り返って、朝食をとりに部屋から出た。
「ちょ、がち?」
兄は驚いたのか、すぐには着いてこなかった。
こうして私の秘密の1つが兄に知られることとなった。




