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基礎魔導原論 第4章 第8項

第8項 真名しんめい


 本章の締めくくりに、コルの究極にして、初学の徒がはるか先に目指すべき高みについて、その概要だけを記しておく。真名である。


 標準の詠唱が、意思部と詞部を一語ずつ並べて一文を成すのに対し、真名とは、その一文まるごとを、ただ一つの新たな語に封じ込めたものをいう。一度その真名を定めれば、以後はその一語を唱えるだけで、一文ぶんの理がそのまま発動する。熟達者が意思を語の内へと溶かし込み、ついには詠唱を限りなく短くしていく道――第1章第5項にいう詠唱短縮、その果ての無詠唱――の、行き着く先に結ばれる一語こそが真名である。


 これは、第1章第6項に述べた、一語にして多義であり、理の一面をまるごと言い当てる、かの原初の言葉そのものへの到達にほかならぬ。万語の魔導士グランドが生涯に百も明かしたのは、まさにこの真名であった。真名を一つ得ることは、火球を百放つよりもはるかに遠く、魔導の海を進ませる。


 心せよ。真名は、術者の理解の深さに応じて、結ばれる像がまるで変わる。同じ真名でも、未熟者と熟達者とで結果が天と地ほども異なるのは、第2章第4項に説いたとおり、一語の背後の理をどこまで知るかの差ゆえである。ゆえに真名は、語根と品詞、活用と意思部とを骨肉とし、標準の詠唱を千度繰り返した者が、はじめて手にしうる境地である。基礎の像が曖昧なまま一語に縮めるは、目を閉じて崖際を駆けるに等しい。


 若き徒よ、いまはまだ、真名を急いてはならぬ。一語ずつ、確かに。常に足元を見続けよ。それこそが、いつの日か汝を、おのれの真名へと導く、ただ一つの道なのである。


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