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基礎魔導原論 序


 魔導の始まりは、輝かしき英知の才人たる叡智神クロル・ファナ・シーデリの恩寵によるものである。太古の昔、人は忘却されし始原神の8人の子のうち、万物の生命の母たる聖母神ラナ・ディル・ジーエーナによって生み出され、世界の運行の担い手としての命を与えられた。しかしながら、始原神に弓引きし万夜と終焉の反逆神ディット・グー・ドーズが、神々に、世界に、争いを挑み、千年の闘争が始まった。神々の先兵として人は戦うが、反逆神の眷属に堕ちたる、万夜の一族に力及ばず、無為にその命を散らしていた。叡智神は神々に奉じた人の献身に心打たれ、立ち向かうための力として、世界の真理の一部を、魔導として人に教えたのであった。


 魔導の論理を学んだ人は、真理の端緒を知り、己が力と変え、神々のために、反逆神を万夜の一族を世界から滅するべく、千年の戦いを戦い抜いたのであった。果たして、神話にあるように、反逆神とその眷属は、至天の光輝たる第一の座に座する聖嵐神シャナル・コーハル・ヴェルフィナにより、闇界の最下層、光届かぬ混沌の底に封じられ、長きにわたる戦は終焉を迎えたのであった。


 神々は、戦で傷ついた神体を癒すため、もとは一であった世界を、輝界・現界・闇界に分け、それぞれに門を置き、関りを切り離し、輝界にて世界の生末を見守ることとし、荒廃した現界の復興を人の手にゆだねたのであった。現界をゆだねられた人は、魔導の力をもって、荒れた地を豊かにし、氾濫をする河川を治め、荒れ舞う風を整え、生命を繁茂させ、穏やかな世界へと戻していったのである。しかし、神々による千年の戦いの傷跡が癒されるのには、魔導の力をもってしても、人の浅薄な力では、数万年の時を必要とし、いつしか神々の威光を忘れ、自身が世界の主と思い違う愚行に至るまで、おごり高ぶってしまっていた。


 我々が知りうる最後の王国、すべての世界を統治し、世界の一切をその手においた、栄光と虚栄の第3期エルムント王国 カーディナル朝は愚かなることに人の分を忘れ、神々の域に達せんと試み、神々の怒りにふれ、10日10夜に渡る、崩滅の日を迎え、その歴史を閉じたのであった。生き延びた人々は、自らの愚かさ、傲慢さをしり、魔導の利用に制限をかけ、人としての侵さざるべき領域を定め、禁忌とし、国家の垣根なく管理することを決めた。これが今の人類魔導管理統一機構の始まりである。人としての分をわきまえるも、真理の探究というこの耐え難い誘惑にまた逃れることもできず、機構はその後も魔導解明を通じて、世の真理を明らかにせしめ、私心ではなく、万民のために魔導を使うことを誓ったのであった。


 本書を今手にしているあなたは、今まさにこの悠久の魔導の海にその身を投げ出さんとし、過去無数の先達が踏破してきた道の果てを見んと願うものであろうと思う。魔導はときには希望であり、ときに絶望でもある。若き魔導の徒よ、魔導を信じ、真理を願い、栄光を求めるがよい。しかして、魔導を疑い、真理を恐れ、破滅に怯えなければならない。魔導の道は、光と闇のそのはざまの淡いを歩くがごとき道であり、正しき道も、人心一つで悪しき道に転がり売るものである。崩滅の日を戒めとし、我々は常に悩み続けなければならない。真理を知りたいという渇望、あらゆる物事を魔導で御したい熱望、それこそが魔導を進める力ではあるが、過ぎたるときそれは身を滅ぼすことを忘れてはならない。故87代オレストリアン王国 筆頭宮廷魔導師のロートッレック・ダーブラニは後進を戒めてその墓標に次のように遺した。


常に足元を見続けよ、その道が破滅の道でないことを願うのではなく、確証をもって進め。


 本書は現代における魔導の基礎を網羅したものである。基礎はこれからの道を進んでいく際の足場となり、迷った時の立ち戻る起点でもある。基礎をおろそかにしたものに魔導の真理がほほ笑むことはない。若き魔導の徒よ、けして倦むことなく、日々の研鑽を続けよ、それこそが魔導を修める、最短の方法である。そしていつしか、先達の到達せしえなかった、魔導の果てに汝がいたることを強く願い祈るものである。




王国歴1685年 花冠の月 25の日

王立第3魔導学園 主任研究員 フレック・マーベック記す


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