1. 秦始皇VS織田信長
円形闘技場の黄砂は真夏の日差しで灼けつき、五万人の観衆の喧騒は海嘯が岸を打つがごとし。東西の鉄格子がゆっくりと上がり始めたとき、千七百年の時を隔てた二つの魂が、同じ砂の上で出会おうとしていた。
円。
砂。
五万人の呼吸。
西側の鉄格子はまだ完全には上がっていない。
先に出てきたのは影だった。
人の影があんなに長いはずがない。だがその影は確かにあんなに長かった。鉄格子の隙間から染み出してくる——墨のように、囚われることを拒む何かのように。
その男が完全に陽光の下に立ったとき、すべての者が同じことを悟った——
——この男は、生まれついて他人に頭を上げさせる存在である、と。
陰を踏み出した瞬間、まず目に飛び込んできたのは漆黒の革鎧——墨に近い黒で、秦の地の犀の皮を幾層も重ね縫い合わせてある。革片には青銅が鏤められている。飾りではない。革鎧にさらなる骨を加えたものだ。鎧は華美ではないが、それ自体に議論の余地を許さない威厳を備えていた——あたかも全ての縫い目が一つの帝国の意志を宣言しているかのようだった(始皇の生きた時代は、鎧の材質が皮革から鉄へと移行する過渡期にあった。秦陵の石鎧や兵馬俑の将軍俑からわかるように、当時の鎧は依然として革鎧が主流であったが、設計は精良で、一部には金属の甲片が用いられていた可能性もある)。
腰には長剣を佩く——その剣身は優に四尺を超えていた。青銅鋳造の鍔にはかすかに雷文が透かされている。剣はまだ抜かれていない。しかしその長大な鞘はすでに人にその鋒を避けさせた(高度な合金技術のおかげで、秦の剣は靭性と硬度の完璧な均衡を達成し、長剣を折れにくくしていた。考古学で発見された銅車馬の御手俑の佩剣を拡大すると、原型の長さは1.2メートルを超えるという)。
身長は驚くほど高く(『太平御覧』の記載によれば、秦始皇は「長八尺六寸」で、換算すると身長約1.98メートル。『礼緯』もこの数値を裏付けている)。闘技場の中央に立ったとき、その全身は鞘に収められた古剣のようだった——身長八尺余、肩幅広く背も厚く、背筋はまっすぐで、まさに秦直道。黒い戦袍の下、胸の輪郭がわずかに盛り上がっている——『史記』に記された「鸚鳥膺(猛禽のような胸骨)」が、この瞬間、不安をかき立てる圧迫感となって具現化した。
高い鼻梁、深く窪んだ眼窩。視線は正面をまっすぐに見据え、五万人の喧騒などまるで一陣の風に過ぎないかのようだった。それは暗殺、滅国、天下統一を経験してきた眼——決して凶悪ではないが、人が直視することを許さない。なぜなら誰もが知っているからだ。その外見の下にある魂が、いかに残忍で邪悪であるかを。
ラッパが低く響く。遠くの山を転がる雷のように。
「西側入場——大秦始皇帝、嬴——政——!」
束の間の沈黙の後、読み上げる者の声が一気に高まる。
「八尺六寸の躯、虎狼のごとき姿!」
「六合を掃き、八荒を併せ、書を同じくし、車を同じくす!」
「荊軻、図に窮して匕首見るも、王その股を殿上に断つ!」
「天下一統、この一人のみ!」
「寡人——此処にあり」
東側入場・織田信長
東の鉄格子が上がると、嬴政より半頭低い影が光の中に踏み入った(来日した宣教師フロイスは、織田信長を「痩せた身体」と記し、身長は約1.70メートルとする)。
西側のあの沈黙の圧迫感とは異なり、この影は人を寄せ付けない鋭さと、世を拗ねたような輝きを放っていた。彼が纏う当世具足は黒漆を下地に、赤い絲を編み込んでおり、胸の前の磨き抜かれた「南蛮胴」が陽光を反射して刺すような光を放つ。甲片には点々と弾痕と刀傷が散っている——それは飾りではない。本能寺の夜の刻印である(日本の戦国時代の甲冑は、より実用性を重視した「当世具足」へと発展していた。信長は「胴丸」式の甲冑を好み、西洋の板甲の影響を強く受けた「南蛮胴」を所有していた可能性がある)。
腰には大小の刀を佩く。長い太刀の鞘にはかすかに「不動国行」の銘が見え、短い脇差は帯に挟まれている。刀はまだ抜かれていないが、その反りはすでに恐るべき斬撃力を示していた(信長は多くの名刀を収蔵していた。桶狭間の戦い後に戦利品として得た「宗三左文字」など。また画期的な鉄炮(火縄銃)戦術を導入し、本能寺の変では自ら弓も使用した)。
体躯は痩身だが精悍で、四肢は長く、黄砂の上に立つその姿は、いつ襲いかかってもおかしくない鷹のようだった。立ち姿は弛緩しているがだらしなくはない——足をわずかに開き、重心をやや低くしている。それは無数の乗馬と剣術の訓練が骨の髄まで刻み込まれた本能だった。
顔立ちは嬴政とはまったく異なる。痩せ細った顔、くっきりとした頬骨、高い眉山、唇は一文字に結ばれている。伝説によれば、彼は若い頃、その奔放な振る舞いから「尾張の大うつけ」と呼ばれていた——しかしこの瞬間、その瞳に愚者の面影は微塵もなかった。それは狂気に近い自信。そして「もし世に道なきなら、我がこれを再び造らん」という決意そのものだった。
突然、彼は口元を歪めて笑った。
太鼓が驟雨のように短く激しく打ち鳴らされる。
「東側入場——第六天魔王、織田信長——!」
「尾張の風雲児、天下布武の梟雄!」
「桶狭間の一役、寡をもって衆を破り、扶桑に名を轟かす!」
「三段撃ち、長槍林のごとく、鎧を破ること枯れ木を摧くがごとし!」
「もし本能寺の変がなければ、天下は既にその手に!」
「人間五十年、夢幻のごとく——」
闘技場の砂地に、二つの影がそれぞれ立つ。
西側のその影は長く沈み凝り、あたかも秦の地に千年そびえる碑石のごとし。黒革鎧と青銅の長剣——それは帝国の標準化された軍需産業の産物である。華を求めず、しかしその一寸一寸が血と火で鍛えられている。
東側のその影は痩せて鋭く、あたかも尾張の野原を席巻する野火のごとし。黒と赤の織り交ざった当世具足と腰の大小——それは戦国武士の個人の意志の延長線上にある。その傷跡のひとつひとつが物語を語っている。
数十歩の黄砂を隔てて、彼らの視線が初めてぶつかった。
一方は長剣で刺客の左足を断ち切った。一方は火の海から生還した。
五万人の観衆が突然静まり返った。
なぜなら彼らは同時に気づいたからだ——この二つの沈黙は、嵐の前の最後の平穏であると。
彼はそこに立っている。
八尺六寸。
この四文字は紙の上ではただの数字に過ぎない。しかしそれが一人の人間として目の前に立つとき、空気が足りなくなる。
彼は何もしていない。ただ立っているだけだ。
胸がわずかに盛り上がっている。筋肉ではない。猛禽の胸骨——あの急降下して獲物を肉塊に叩き潰す猛禽の。
その目は前方を見ている。向かいの男を見ているのではない。もっと遠くを見ている。
咸陽宮。六国の玉座。東海の浜辺の朝日。
すべて、彼が獲ると決めたもの。
そして彼の視線が戻ってきた。
あの痩せた顔の上に落ちる。
「倭国の島夷か?」
声は大きくない。しかし闘技場の環状の石壁はそれを確実に隅々まで届け、反響がさらに繰り返す。
「寡人が六国を掃討せし時、そが先祖は——まだ泥の中で這い蹲って食い扶持を探しておった。跪け。寡人が無傷のまま死を賜る」
風が止んだ。
本当に止んだのではない。誰もが息をすることすら怖じらったのだ。
なぜなら黒鎧の巨人の話し方は、脅しのようには聞こえなかったからだ。
まるで今日中に必ず起こる出来事を述べているかのようだった。
だが織田信長は首を傾げた。まるで鷹が蛇を品定めするように。
そして——笑った。
「面白し」
魔王が一歩前に踏み出す。ブーツの底が灼けた黄砂に沈む。
「六国を掃討したとな? たかが六国」
指をだるそうに嬴政の方へ向ける。
「尾張一国にて、天下を呑むこと能わず。汝が十年を要した——我は二十年を用いた」
「速度において、汝は負けだ」
さらに一歩。
「もっとも、その背丈、なかなか面白い。斬り甲斐がありそうだ——坊主を斬るより手応えがあろう」
嬴政の目じりが微かに引き攣った!
それは猛獣が怒りに触れたときの微細な前兆だった。
「坊主」
彼はこの二文字を極めてゆっくりと噛み締めた。腐った肉を咀嚼するように。
「坊主だと?」
「寡人は焚書坑儒を行い、天下の儒生をことごとく焦土と化した。そなたは数人の経を誦する禿頭どもに火海に閉じ込められた——」
「臣下の手によって滅びた」
「よくも寡人と兵を論ずる資格があるな」
彼の右手の指節が音もなく剣の柄に掛かった。
しかし信長の笑みはさらに深まった。その笑みには一片の温かみもなかった。
「焚書坑儒?」
突然仰天して大笑した——笑い声が環状の石壁に跳ね返り、耳障りな鉄炮の斉射のように響く。
「はははは——書を何冊か焼いたくらいで、己が腕があるとでも思ったか?」
笑い声がぱったりと止む。彼はうつむき、その表情が一変する。底知れぬ暗い愉悦が瞳の奥から広がっていく。
「我が比叡山を焼いたとき——老若男女、三千余人」
「山頂から山麓まで焼き尽くした。山ごとな」
声は優しい。まるで花の散るさまを語るかのように。
「汝は人を殺してなお史書に記させ、後世の評価を仰ぐ」
「我は人を殺す——生き残りは決して残さぬ」
彼は両手をゆっくりと腰の大小に掛けた。左手で脇差を押さえ、右手で太刀の柄を握る。
向こう側で一拍の沈黙があった。
そして彼が口を開いた。声は地の底を流れる溶岩のように平穏で、赤黒くうねり、灼熱を放っていた。声は胸の内から碾かれ、喉を碾かれ、歯を碾かれて出てくる。
「魔王」
「寡人が天である」
「天の下——全て焦土」
彼の親指が鍔を押し上げた。青銅の剣身が鞘口と摩擦し、長く澄んだ金属音を発する。
四尺の長剣が鞘から半寸滑り出る。親指が鍔を押し開く。
青銅の剣身と空気が擦れ合う音は、蛇が冬眠から目覚めるかのようだ。
四尺の長剣が鞘を抜ける。
半寸。
陽光が刃にぶつかる。砕けた。
「倭国の魔王よ——」
「寡人がそなたに死を賜る」
信長は重心を低く沈め、両膝をわずかに曲げ、右手で太刀の柄を握り締める。口元には依然としてあの狂気の笑みを貼り付けている。
「死を賜るだと?」
「天下に我を賜死し得る者は——」
突然躍り出た。
「——まだ生まれていない!」
鉄格子のような沈黙が引き裂かれる。
太刀の抜刀音が稲妻のように空気を斬る。
信長の姿はすでに三歩の内にあった。
黄砂が彼の足元で炸裂する。
勝負は始まった!
黄砂はまだ落ち着いていない。
刀はすでにそこにあった。太刀! しかし鞘から抜かれたその瞬間、それはもはや刀ではなかった。あまりに長く閉じ込められていた光だった。それが空気を斬るとき、空気は逃げた。切り裂かれたのではない——自ら道を開けたのだ。なぜなら、避けなかったものはすべて両断されることを知っているからだ。
狙いは嬴政の左頸。
三十歩の距離。瞬きひとつの間に、刀鋒はすでに間近に迫っている。
この一刀には、桶狭間の雨夜が、比叡山の火が、本能寺の壁がある。彼が殺してきたすべての者たちが、この一刀に宿っている。信長の刀法は学んで身につけたものではない。死んでいった者たちが代わりに完成させたものだ。一刀一刀に、名前がある。この一刀の名は——終わり、という。
そしてそれは止まった。
止まったのは、それが止まりたかったからではない。何かがそれを遮ったのだ。
青銅。
四尺の青銅。秦の剣がいつしか首の側に横たわっていた。刀鋒が剣の峰にぶつかる。火花は上がらない。ただ鈍い響きだけが——遠くの山の鐘が、一度打ち鳴らされたかのようだった。
信長の笑みが百分の一瞬、硬直した。
防がれたからではない。防いだあの剣が——微動だにしなかったからだ。四尺。秦の剣の長さは太刀をはるかに凌ぐ。これはつまり、信長が相手の剣圏に踏み込んだ瞬間から、彼の刀が相手の革鎧に届くより前に、相手の剣先が彼の喉を貫けるということを意味していた。彼は攻撃していたのではない。彼は死に向かって突進していたのだ。
彼は気にしなかった。笑った。そして二刀目がすでに繰り出されていた。
嬴政は退かなかった。
八尺六寸の躯は、退く必要がなかった。ただ半身をひねっただけだ。動きは極めて小さく、ほとんど動いていないかのようだった。しかしそのわずかな角度によって——太刀は彼の肩鎧をかすめた。黒革鎧に白い傷跡がひとつ加わった。破れてはいない。
彼は動いた。回避ではない。攻撃だ。
秦の剣は受け止めた位置から反転した。叩き切るのではない。斬りつけるのではない。突くのだ。秦の剣は生まれつき突くために鋳造されている。叩き切るのは刀の役目だ。剣の役目はただ一つ——最も短い距離から、最も速い速度で、最も致命的な部位を突くこと。
剣先はまっすぐ信長の喉を狙う。
この一突きには、六国を滅ぼした兵鋒が、焚書坑儒の煙塵が、荊軻が断たれた左足がある。彼が殺してきたすべての者たちが、この一突きに宿っている。しかしこの一突きに名前はない。彼は自分の殺意に名を付けない。彼は天だから。天が人を殺すのに、理由もいらなければ、名前もいらない。
信長は剣先が喉に触れるより先に消えた。
いや、違う。側身だ! 刀鞘が横に防御した。脇差の鞘だ。剣先が鞘口にぶつかる。またしても鈍い響き。信長の手のひらは痺れた。その力は人間のものとは思えなかった。まるで山がお前にもたれかかろうと決めたかのようだ。
彼は退かなかった。退けば死にたくなる。この距離で、あの四尺の長剣はあと一寸前に送り出せば、彼の喉を貫くことができる。だから彼は進んだ。退かずに進んだ。
これが信長の剣術だった。そして信長の人生でもあった。誰もが彼が退くと思うとき、彼は進む。誰もが彼が死ぬと思うとき、彼は生きる。誰もが彼が跪くと思うとき——彼は山ごと焼き払う。
彼は嬴政の懐に飛び込んだ。太刀はすでに戻って斬りつけるには遅すぎる。だから彼は柄を放した。右手が腰に伸びる。脇差。短刀の抜刀音は太刀よりも軽かった。そしてより危険だった。太刀は人を殺すためのもの。脇差は近くの者を殺すためのもの。特に、自分より半頭高く、五十斤も重く、自分より長い剣を手にしている相手には。
短刀は嬴政の脇腹を突こうとした。革鎧の継ぎ目だ。甲片が重なり合った縁。どんなに良い鎧でも、継ぎ目は隙間だ。隙間はすなわち弱点。
感じた。
彼はそれを見るために頭を下げなかった。必要ない。彼は剣の柄を放した——左手。
そしてその手が信長の右手首を掴んだ。
掴むのではない。握るのだ。五指が閉じられた瞬間、信長は自分の手首の骨の音を聞いた。折れたのではない。警告を発しているのだ。その手の力は——握力ではない。秦の重みだ。函谷関の重みだ。万里の長城の重みだ。
信長の右手は、握った脇差と共に、宙に止まった。嬴政の脇腹まであと三寸。三寸。この二人の間では、三寸は天と地の距離だった。
信長はもがかなかった。もがくのは弱者の反応だ。彼はただ顔を上げて、嬴政の眼を見た。その眼もまた彼を見下ろしていた。
「倭国の魔王よ——」
嬴政が口を開いた。右手に握った秦の剣がゆっくりと上がり、剣先が信長の喉を捉える。刃が肌に触れている。まだ突き刺してはいない。
「寡人が言ったであろう——」
信長が突然笑った。
先ほどの笑いではなかった。別の種類のものだった。桶狭間の夜、今川義元の数万の大軍を前にして、あの二十二歳の青年が浮かべた笑いだった。誰もが彼は狂ったと言い、誰もが彼は必ず死ぬと言い、誰もが尾張の大うつけがついに戦場で死ぬと言った——その瞬間の笑いだった。
彼の左手が動いた。太刀は彼の手にない。太刀は彼が柄を放した瞬間、砂地へ落ちようとしていた。まだ落ちてはいない。信長の左足が柄を引っ掛け、上へ跳ね上げる。太刀が空中で反転する。左手に落ちる。
そして彼は突き出した。嬴政を刺すのではない。その右手首を掴む腕を刺すのだ。あなたは私の右手を掴んでいる。しかし私の左手はまだ動ける。そしてあなたの右手は——私の喉を捉えた剣を握っている。
この一刀は、あなたに選択を迫る。
私の手首を握り続けるなら——あなたの右腕に刀が当たる。私の手首を放すなら——あなたの剣はまだ私の喉にあるが、私は自由になる。選べ。
嬴政は選ばなかった。
彼は信長の右手首を放した。強制されたのではない。自発的にだ。なぜなら彼は同時にもう一つことを行ったからだ——右手の秦の剣を前方に突き出した。喉を刺すのではない。信長の左手の太刀を刺すのだ。
剣先が刀身にぶつかる。太刀が手から離れる。宙を舞う。そして彼の左手は手首を放した位置から上方へ、五指を広げて信長の喉を一気に掴み上げた。
片腕で。信長の全身を砂地から持ち上げた。
五万人がこの光景を見たとき、同時に自分がまだ呼吸をしていることを忘れた。八尺六寸の始皇帝が、片腕で痩躯の男の首を吊り上げている。信長の足は地面から三寸浮いていた。三寸。それは先ほど脇差が嬴政の脇腹に届くまであと三寸だった距離と同じだった。
信長の顔は紅潮し、青筋が浮き出る。しかし彼の眼は——その眼は笑っていた。両手はまだ空いている。太刀はない。脇差はまだ腰に差してある。しかし彼はそれを抜こうとしなかった。ただその喉を掴む手を見下ろした。
そして彼は手を伸ばし、その手首を握った。もがくのではない。握るのだ。その手の形を記憶に刻み込むかのように。そして彼は口を開いた。喉を掴まれているので、声は掠れて途切れるはずだった。しかし彼の声は非常に安定していた。茶室で茶を喫しているかのように安定していた。
「やはり——」
彼は息を吸った。喉が嬴政の親指と人差し指の間で上下する。
「——強い」
嬴政は答えなかった。彼の指が一分ほど力を込めた。
信長の目が細くなった。
「だが、お前の手は——大きすぎる」
どういう意味だ?
五万人はその意味を考える暇さえなかった。
信長の両足——宙に浮いた両足——が突然上方に引き寄せられ、嬴政の胸の甲鎧を踏んだ。そして彼は力を込めた。手ではない。全身を使って。両足をまっすぐに伸ばす。全身が弓のようになり、嬴政の手のひらから弾け飛んだ。喉が親指と人差し指の間から滑り抜ける。皮膚が青銅の甲片に削られ、血痕が残る。
彼は空中で反転した。着地。黄砂が舞い上がる。十歩の彼方にしゃがみ込み、片手で喉を押さえている。血が指の間から滲み出る。彼は笑っている。
太刀が彼の足元に落ちている。彼はそれを拾い上げる。
「もう一度」
喉を傷めている。声は嗄れている。しかしその笑みは——微塵も変わっていない。
嬴政は彼を見た。長い間見ていた。そして——彼は秦の剣を身体の前に横たえた。左手で柄を握る。右手で柄を握る。両手で剣を握る。これが秦の剣の標準的な握り方だ。彼はそれまではずっと右手だけを使っていた。今——彼は本気になった。
「倭国の魔王よ!」
「寡人は」
「本気を出す!」
信長の瞳孔が収縮した。恐怖からではない。期待からだ。なぜなら彼はふと気づいたからだ——これまでの全ての応酬は、あの男にとってはただの探りだったのだと。今。始まる。
黄砂の上空、日差しはなおも烈しい。
二つの影が同時に消えた。
太刀が振り下ろされる。秦の剣が突き出される。何が起きたのかをはっきり見た者はいなかった。ただ音だけがあった。金属がぶつかり合う音。一声ではない。七声だ。瞬く間に、彼らの武器は七度衝突した。七度目の音が静まったとき、二人は砂地に立っていた。互いに三歩の距離を隔てて。太刀は信長の前に横たえられ、秦の剣は嬴政の前を指していた。
そして信長がうつむいた。彼の胸の南蛮胴に、一筋の剣痕が増えていた。鎖骨から肋骨の下まで。甲片が切り裂かれている。切り口は定規で測ったように整っている。中から血が滲み出る。深くはない。しかし長い。
嬴政の黒革鎧には——二筋の刀痕が増えていた。一つは左肩。一つは右脇腹。どちらも鎧を破ってはいない。しかし跡は残った。
沈黙。
そして信長が突然大笑した。
「はははははは——」
彼は腰を折って笑った。笑い声が石壁にぶつかり、砕け、砂地に落ちた。
「面白い!」
彼は身を起こした。瞳の中の喜悦は炎のようだった。黒い炎。
「もう一度!」
彼は突進した。
嬴政も突進した。
砂の上に、二筋の煙塵が向かい合って激突した。
黄砂が静まったとき、二人は三歩の距離に立っていた。
信長の胸の血はまだ滲み出ている。鎖骨から肋骨の下まで、その剣痕はまるで赤い蜈蚣が南蛮胴の切り口に這っているかのようだった。彼はそれを見るためにうつむかなかった。必要ない。血は熱い。熱いということは、まだ生きているということだ。
嬴政の身の二つの刀痕からは血は出ていなかった。黒革鎧の上に二つの白い跡が這っている。左肩。右脇腹。何かが舐めたが、舐め切れなかったかのように。
信長の笑みは変わらなかった。しかし彼の瞳孔は変わった。収縮したのではない。もっと深い何かが焦点を調整しているのだ。彼は再び計算し始めた。距離を。角度を。あの四尺の長剣が様々な方向から突いてくる速度を。
そして彼は一つ気づいた。
——計算できない。
あの剣は長すぎる。彼の太刀がどの角度から振り下ろしても、剣先の方が先に彼の身体に届く。これは技量の差ではない。兵器の法則の差だ。一寸長ければ、一寸強い。一尺長ければ、一寸命を奪う。
彼はかつて三間半の長槍で戦国の法則を書き換えた。今、四尺の長剣が彼の法則を書き換えようとしている。
信長が動いた。進まない。退かない。横に移動する。
彼は嬴政の周りを回る。ブーツの底が砂の上に弧を描く。嬴政は振り向かない。ただわずかに剣先の方向を調整する。まるで日時計の針が太陽を追うように。
信長が止まった。
彼は突然理解した。彼が追いつけないのではない。あの男はそもそも振り向く必要すらないのだ。あの剣の長さと、その腕の長さがカバーする範囲は大きすぎる。あまりに大きいため、信長がどの角度に立っても、剣先の脅威の下にある。
これは彼が戦場で初めて感じる感覚だった——
——息苦しい。
そして嬴政が動いた。
移動ではない。攻撃だ。秦の剣が突き出される。探りではない。虚仮ではない。ただの一突き。まっすぐな突き。狙うは信長の胸。あのまだ血の滲む剣痕の真上。
信長の太刀が迎え撃つ。防ぐのではない。引き寄せるのだ。刀身が剣の峰に貼りつき、その勢いに沿って横へ滑らせる。これは柔をもって剛を制する。柔術の化勁だ。彼はこれまで何度も使ってきた。相手の力をそらして、そのまま反撃する。
今回は、そらせなかった。
嬴政の力が大きすぎたからだ。瞬発力ではない。持続的な、絶え間なく湧き出る、まるで山崩れのような力。信長の刀身が剣の峰に貼りついた瞬間、全身が一側に押しつぶされた。彼の刀はその剣に導かれて動く。彼が剣を導いているのではない。剣が彼を導いているのだ。
剣先が逸れた。胸から右肩へ逸れた。逸れた。しかし完全には逸れなかった。刃が彼の右腕の鎧をかすめる。南蛮胴の肩鎧が切り裂かれ、口が開く。中から血が滲む。二つ目の傷口。
信長はその勢いで後退した。三步。五步。立ち止まる。右腕の血が肘を伝って黄砂に滴り落ちる。
彼はまだ笑っている。しかし呼吸が変わった。胸の上下が先ほどよりやや大きくなっている。あの一突きを受け止めた。しかし自分があと何度受け止められるかはわかっていた。体力の問題ではない。あの剣の問題だ。あの剣が突いてくるとき、彼は一人の人間と対峙しているのではなく、秦という国全体と対峙しているように感じるのだ。
嬴政は追撃しなかった。ただ剣を収め、剣先を再び信長に向ける。
沈黙。
五万人も沈黙する。
彼らは理解した! あの痩身の男が、一寸一寸押し潰されつつあることを。技量によってではない。速度によってではない。長さと力によってだ。最も純粋な、何の作為もない長さと力によって。
あの黒鎧の巨人は、足を動かしたことさえなかった。ただそこに山のように立っている。そして彼の剣が残りの距離を歩んでくれる。
信長はうつむき、自分の右腕の傷を見た。そして彼は誰も予想しなかった行動をとった。
太刀を砂地に突き刺した。
手を放す。
五万人の呼吸が同時に止まった。彼は諦めたのか? 第六天魔王が、諦めたのか?
信長は彼らを見なかった。彼は嬴政を見ていた。
そして彼は笑った。先ほどの笑いではない。先ほどは狂気の、燃え盛る、天に穴を開けんばかりの笑いだった。今回の笑いはとても軽い。とても淡い。まるで子供がふと思い出したように、自分のポケットにまだ飴玉が隠してあった、というような笑いだった。
「お前の剣は、長い」
傷ついた喉から絞り出した声は嗄れている。しかし非常に安定している。
「俺の刀は、短い」
彼は手を後ろに伸ばす。
「だが——」
その動きは非常に遅かった。誰もが彼の手が向かった先をはっきりと見ることができるほど遅かった。腰ではない。背中だ。当世具足の背面に、一つの物が掛かっている。黒い布で包まれた何かが。それまでは誰も気づかなかった。あまりにも目立たなかったからだ。黒い布。黒い鎧。混ざり合って、鎧の一部のように見えた。
彼の手がその物を握る。
「——これをまだ持っている」
黒い布が彼の手で一気に引き裂かれた。
五万人の瞳孔が同時に収縮した。
それは彼らが見たことのある武器だった。刀ではない。剣ではない。長槍ではない。鉄の管だ。木台に嵌め込まれた鉄の管。尾張の鍛冶屋はそれを鉄炮と呼んだ。後に火縄銃と呼ばれる。さらに後には、戦国を変えたものと天下人が呼ぶようになる。
しかしこの瞬間、この闘技場の中で、五万人が見たのはただ一人の痩せた男だった。右手に黒い鉄の管を握り、それを左腕の上に構えている。鉄の管の先端は、八尺六寸の始皇帝を指している。
信長の眼が鉄の管を越えて、嬴政の顔に落ちる。
彼の笑みはようやく元の形に戻った。狂気に満ち、傲岸不遜で、目中無人の。
「三段撃ち、聞いたことがあるか?」
彼の指が引き金に掛かる。
「俺が編み出した」
そして彼は引き金を引いた。
火縄が落ちる。薬が燃える。銃腔の中の火薬は千分の一瞬のうちに、極限まで膨張した灼熱の気体と化した。
鉄の管から一条の火の光が噴き出した。その音はまるで雷が竹筒に詰め込まれたかのようだった。
五万人の中で、悲鳴を上げる者、耳を塞ぐ者、席から飛び上がる者。
しかしその弾丸を見た者はいなかった。
速すぎた!
黄砂が反応するよりも速かった!
嬴政の剣が身体の前に横たえられた。
弾丸が剣の峰にぶつかる。
青銅の剣身に、一つの窪みが増えた。
嬴政が一歩後退した。
これが彼の初めての後退だった。
黄砂がまだ空中にある。
嬴政が一歩後退した。
これが彼の初めての後退だった。
五万人がこの光景を見た。八尺六寸の始皇帝が、黒い鉄の管から噴き出した火の光によって、一歩退かされたのだ。剣身の窪みは陽光の下でくっきりと見え、まるで一つ盲目になった目のようだった。彼の手のひらは痺れた。青銅の剣が手の中で震え、その余韻は消えず、まるで雷霆に撃たれた後の銅柱のようだった。
そして嬴政は顔を上げた。その瞳には恐怖も驚きもなかった。ただ、徹底的に怒りを買った後の平静だけがあった。それは焚書坑儒の時の平静だった。六国を滅ぼした時の平静だった。一人、一城、一国の生死を決する時のあの平静だった。
彼は言葉を発さなかった。彼は突進した。
八尺六寸の躯が砂の上に一条の溝を碾きながら進む。一歩ごとに黄砂が炸裂する。四尺の長剣を脇に引きずり、剣先が砂の表面を切り裂き、一直線の跡を残す。その線は西から東へ、信長を指していた。彼はこれまで積極的に突進したことはなかった。必要なかったからだ。彼の剣が距離を歩んでくれた。しかし今、彼は突進した。なぜなら一つのことを知ったからだ——あの鉄の管に二度目の火の光を噴出させてはならない、と。
信長は動かなかった。鉄炮は一発撃った後は、ただの鉄くずだ。装填には時間がかかる。火薬。弾丸。通し棒。突き固める。再び構える。この時間があれば、嬴政は彼の前に駆け寄り、あの四尺の長剣で彼を三度も砂地に打ち付けられるだろう。
しかし彼は装填しなかった。鉄炮を捨てた。
五万人が呆然とした。そして彼らは信長の手が腰に向かうのを見た。刀を抜くのではない。帯に結んだ皮袋の緒を解くのだ。皮袋から転がり出たもの。もう一つの鉄炮。短い。先ほどよりも半分の長さだ。しかしやはり鉄炮だった。彼はそれを手に握る。火縄はまだ燃えている。先ほどの一発の後、彼は火縄を消さなかった。火縄を口に銜えていた。
今、それを短い鉄炮の火薬皿に押し当てる。
動作は一気呵成だった。一万回練習したかのように。実際、彼は確かに一万回練習した。尾張の野で。清洲城の壁の上で。本能寺の火の光の中で。彼はこの動作を骨の髄まで刻み込んだ。
鉄炮が構えられる。
嬴政はすでに七歩の内にいた。
秦の剣がすでに振り上げられている。右下から左上へ斜めに切り上げる。この一撃が決まれば、信長の左股を切り裂き、胸腹を通り抜け、右肩から突き出るだろう。この一撃の後で生きている者などいない。誰も。
信長が引き金を引く。
二度目の銃声。一度目よりも近く、大きく、避けることなど不可能だ。
七歩。近すぎた! 弾丸が銃口を離れたその瞬間には、すでに嬴政の眼前にあった。
嬴政は避けなかった。避ける時間はなかった。彼に唯一できたことは、振り上げた秦の剣を押し下げることだった。剣身を胸の前に横たえる。弾丸がぶつかる。
今度は窪みではない。青銅の剣身に、亀裂が衝突点から四方八方に広がる。氷の表面のひび割れのように。亀の甲羅の卜文のように。剣は折れなかった。秦の工匠はそれを鋳造するとき、銅と錫の割合を極限まで調整していた。靭性と硬度のバランス。しかしそれは二発の弾丸を受け止めた。二発の、七歩の内から撃ち出された弾丸を。
嬴政の動きが止まった。彼が止まりたかったからではない。彼の身体があの力によってその場に釘付けにされたのだ。八尺六寸の巨人が、親指ほどの大きさの弾丸によって打ち止められた。彼の手のひらが裂けた。親指と人差し指の間から血が滲み、柄を伝って滴り、黄砂に落ちる。しかし彼は手を放さなかった。彼は決して手を放さない。
そして嬴政は一つのことを行った。
剣を前方に送り出した。
突くのではない。送るのだ。彼の身体は弾丸の力によってその場に釘付けにされたが、彼の腕はまだ前に伸びている。剣先が信長の胸を刺す。七歩。剣の長さ四尺。腕の長さ三尺。七歩の距離、彼は届かない。しかしそれでも彼は突いた。
剣先は信長の胸の前三尺で止まった。
止まった。彼が刺すのをやめたからではない。彼の身体がようやく彼の意志に追いついたのだ。手のひらの裂傷。剣身の亀裂。弾丸の衝撃による胸の震え。これら全てが同時に彼に追いついた。彼の手が震え始める。恐怖ではない。筋肉がストライキを起こしているのだ。
信長は彼を見ていた。胸の前三尺で止まった剣先を。剣身に広がる亀裂を。剣の柄を握るその血の滴る手を。そして彼はうつむき、腰の皮袋から、三本目の鉄炮を取り出した。
短い。先ほどと同じくらい短い。
五万人はようやく理解した。彼の腰には二本の短い鉄炮が掛かっていた。先ほど捨てた長いのと合わせて、全部で三本。三段撃ち。三人が順番に撃つのではない。一人で。三本の鉄炮を順番に撃ち放つ。彼は自分自身を一つの軍隊に変えていた。
火縄が薬皿に押し当てられる。
嬴政はその黒い鉄の管が三度目に自分を指すのを見ていた。彼の手はまだ震えている。剣はまだ胸の前にある。亀裂はまだ広がっている。彼は退かない。彼は決して退かない。彼は秦の国の王だ。天下の皇帝だ。焚書坑儒の天だ。天は退かない。
彼は一歩前に踏み出した。
この一歩に彼の全ての力を注いだ。手のひらの血はさらに早く溢れ出る。剣身の亀裂はさらに一寸延びた。しかし彼は踏み出した。そして二歩目、三歩目。一歩ごとに砂の上に血の足跡を残す。
信長の瞳孔に、迫り来る巨人の姿が映る。黒鎧。長剣。血。亀裂。決して頭を下げない一対の眼。彼の手は震えなかった。引き金に掛けた指は清洲城の基礎石のように安定していた。彼は待っていた。あの巨人が最も近い距離に来るのを。
嬴政はそこまで来た。三歩。剣先がようやく信長の胸に届く。彼は突き出した。
銃が鳴った。三度目。
三歩。弾丸が銃口を離れ、剣身にぶつかる。青銅の剣が——折れた。二発目の弾丸が命中した位置から折れた。四尺の長剣は、二つに分かれた。前半分は回転しながら空中に舞い上がり、陽光の下で弧光を反射する。後ろ半分はまだ嬴政の手に握られている。柄。一尺にも満たない折れた刃。
嬴政は手の中の折れた剣を見た。無表情だった。ただ見ていた。まるで自分に関係のないものを見ているかのように。
そして彼は折れた剣を握り締め、続けて突いた。
折れた刃が信長の喉を狙う。一尺。長さが足りない。しかしそれでも彼は突いた。
信長は避けなかった。彼の右手はまだ撃ち終えたばかりの鉄炮を握っている。左手は空いている。彼は左手を伸ばした。五指を広げる。折れた刃を握った。
刃が手のひらに食い込む。血が彼の指の間から流れ落ちる。彼は手を放さなかった。彼は嬴政の眼を見ていた。二人の手が血を流していた。一人は手のひら。一人は親指と人差し指の間。二人の血が同じ一片の黄砂に滴る。
そして信長は折れた刃を放した。左手が腰から脇差を抜いた。短刀。彼は刃先を嬴政の喉に当てた。先ほど嬴政が彼にしたのとまったく同じように。
沈黙。
嬴政は退かなかった。折れた剣はまだ手に握られている。剣先は信長の喉まであと五寸。信長の脇差は、すでに彼の皮膚に触れている。
五万人がこの光景を見つめた。一人の巨人。折れた剣を手に。剣先は敵まで五寸。一人の痩せた男。短刀を手に。刃先は巨人の喉に触れている。
どちらが勝ったのか? 彼らは同時に思った。そして彼らは笑い声を聞いた。信長のものだった。
「お前の剣は」
彼は話すとき、喉の傷からまだ血が滲み出ていた。声はヤスリが鉄板を削るように嗄れていた。
「折れた」
嬴政は答えなかった。彼の眼は信長を見ていた。憤怒ではない。敗北の認識でもない。確かめるように。目の前のこの男が、確かに自分を殺す資格を持つかどうかを。
「天下」
嬴政が口を開いた。声は喉の奥から碾き出された。低く、平坦に。まるで咸陽宮の鐘の音のように。
「寡人の剣を折り得る者——」
彼はうつむき、手の中の折れた剣を一瞥した。そして顔を上げた。その瞳に初めて、暴虐とも威厳とも違う何かが現れた。それは認可だった。
「——そなたのみなり」
信長の笑みが一瞬止まった。そして彼はまた笑った。今回の笑いは違っていた。それまでの笑いはすべて、狂気の笑いだった。山を焼くときの笑い。死に赴くときの笑い。魔王の笑い。しかし今回の笑いには、尊厳のような何かが含まれていた。
「第六天魔王」
「お前を認める」
彼は脇差を収めた。一歩後退する。二歩。三歩。脇差を腰に差し戻す。そして彼は腰をかがめ、砂の上から嬴政の折れた剣先を拾い上げた。それを掲げる。太陽に向かって。青銅の剣先が陽光の下で鈍い幽かな光を放つ。
「この剣は」
「俺が貰い受ける」
嬴政はその場に立ったままだった。折れた剣はまだ手に握られている。血はまだ手のひらから滴り落ちている。彼は突然顔を上げた。笑った。彼が入場して以来、初めての笑いだった。
「寡人の剣は」
「誰にでも持てるものではない」
信長はその折れた剣先を自分の帯に差し込んだ。そして彼は背を向けた。嬴政に背を向けて。東側の鉄格子へ歩き始める。三歩歩いて止まった。振り返らない。
「次は」
「折れぬ剣を持って来い」
嬴政はその背中を見つめた。あの痩身の影が鉄格子の陰に消えるまで。そして彼はうつむき、手の中の折れた剣を見た。
「次は」
彼の声は自分だけに聞こえた。
「寡人は——火薬をも貫く剣を持って来よう」
黄砂の上に、二筋の血痕が、それぞれ西と東へと続いていた。




