出会いと別れ
室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!
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『アイドルフェスの会場も飛び回った戦闘機のドッグファイトは、陸上防衛軍の太刀川駐屯地の迎撃で――』
深堀アイが、豪邸のリビングで音量を下げた。
「こちらも大変だったわ! 生存者のお守りが……」
ため息を吐いたアイに、命の危険を感じた様子はない。
話し相手の室矢カレナは、率直に尋ねる。
「誰と合流したのですか?」
「教会の戦闘部隊であるラヴァンダに、案内を頼まれていたけど……。合同演習のせいで、回収してもらうのがやっと!」
「それは、大変でしたね?」
他人事のように述べた、カレナ。
息を吐いたアイは、ジト目に。
「カレナお姉さま? これから、どうするの?」
ティーカップを置いた彼女は、複雑な表情だ。
「帰ります。美須坂町へ……」
「今は、ということね?」
カレナは、無言で頷いた。
その時に、AIのツヴァイが叫ぶ。
『こちらも大変だったわよ! オリジナルは、室矢重遠のデータがないことでブーブー言っていたし』
小さなボリュームで、テレビが応じた。
『宇宙へ飛んで行った青い戦闘機は、依然として行方知れず! 2機の間で交わされた無線では「ツヴァイ」と呼ばれていて、各国は「希望するのなら亡命を受け入れる」と――』
アイが視線で、問いかけた。
苦笑したカレナは、心配いらないと応じる。
「次に出てくるのは、どうせ数世代は後……。その頃には、書類やデータだけ! 人は自分が見たものだけ信じます」
「それもそうね! すぐに登場しなければ、半年後には忘れるか」
納得したアイが、尋ねる。
「そういえば……。アイドルオタのAIは?」
『コクリコなら、「川奈野まどか」の引退で号泣した後に、別のアイドルを推しているわよ?』
ツヴァイの呆れた声で、1つの顛末が分かった。
立ち上がったカレナが、別れを告げる。
「では、アイ? また会いましょう」
「ええ!」
あっさりした別れだ。
『私も帰る! ソシャゲの周回をしないと……』
それっきり、ツヴァイの可愛い声が消えた。
◇
紫苑学園で、制服を着た男女。
「そうか……。地元へ帰るんだな」
あの戦闘で生き残った悠月史堂は、寂しそうに続ける。
「てっきり、高等部を卒業するまでは東京にいると……」
「私たちは、仕事でここにいましたから」
ふと思い出したカレナは、釘を刺す。
「まどかにフォローしてくださいよ? 無理に、とは言いませんが」
「分かってる! 一応、メッセで連絡した。……軍事機密のせいで、俺が引退ライブを寝過ごしたようになったけど」
視線で訴えかけるも――
「さあ? 私は、何も知りませんから……」
惚けることで、史堂の味方をしないと告げた。
後頭部をかいた男子は、嘆息する。
「やっぱり、冷たいなあ……。東京には?」
苦笑いのカレナは、まっすぐに見つめる。
「史堂が生きている間には……」
「そうか……」
それぐらいの年月は、東京の地を踏まない。
理解した史堂は、最後の冗談を言う。
「俺が嫌いにしても、長すぎるぜ?」
けれど、カレナは右手を差し出した。
驚いた史堂だが、おずおずと握手に応じる。
「あなたは重遠の子孫であっても、重遠ではない……。そういう事です」
「なるほど……」
上下に手を振りつつ、史堂は苦笑した。
「じゃ、元気でな!」
「ええ! あなたも!」
紫苑学園の正門で、よくある男女の別れ。
次の登校日になれば、約束をせずとも出会え……ない。
史堂はもう、カレナに会えないのだ。
それを感じさせない、自然な別れ。
後ろ姿で、その長い黒髪が揺れる。
それを見送りつつ、史堂は組んだ両手を上に伸ばした。
「さーて! 俺も、帰るとするか……」
寂しさを隠すように、わざと明るい声で。
◇
東京の高級カフェで、女子会。
集まったのは、ディアーリマ芸能プロダクションの4人。
忙しい『瀬本ゆい』も、担当マネージャーを泣かせつつ、強引に時間を作った。
「2人とも、帰っちゃうんだ……。残念ね! 皐月は東京に残るんでしょ?」
「まーね! ただ神社に籠るから、今までのようには……」
ゆいも気に入っていたようで、ガッカリした顔だ。
次に、カレナを見る。
「私は、遊びに来てもらっても構いませんが……」
「時間がないわ」
ため息を吐いた『ゆい』。
この1時間ですら、他の予定を押しのけて。
地方へ行って宿泊するだけの時間は……。
さっきまで悠月史堂が来なかった愚痴を言っていた『川奈野まどか』も、会話に加わる。
「私は?」
「別に、いいですよ? 交通費は出しませんけど」
高速鉄道を使うと聞いて、唸り出す。
苦笑した槇島皐月が、突っ込む。
「片道で1万円は、辛いよね? 車があれば、話は別だけど!」
ストローを離した『ゆい』が、告げる。
「ロケで近くに寄ったら、連絡するわ!」
「どうぞ」
ゆいも、この2人との別れで、思うところがあるようだ。
その後には、たわいもない話が続き、また会うかもしれない4人は別れた。
送迎車に乗り込む、ゆい。
それを見送った3人は、しばらく一緒に歩いた。
途中で皐月が、東京のどこかにある槇島神社の本殿へ。
東京駅のホームで、『まどか』ともお別れ。
「元気でね! 私……わだし! あなたのおかげで……」
涙を流しつつ訴える女子に、カレナは正面から抱きしめた。
ピロロロロ♪
プシュー!
ヒィイイイン
ゆっくりと、高速鉄道が動き出した。
カレナの自宅がある方向へ……。
泣きながら手を振る『まどか』の姿はすぐに消えて、密集したビルディングから郊外の風景へ。
自分の席に座ったカレナは、背もたれに寄りかかる。
「さよなら、まどか……」
彼女には彼女の生活があり、自分にも自分の生活がある。
今生の別れでも、それは不幸ではない。
また会いたい、という言葉も、嘘にあらず。
「帰りましょう……。私の家へ」
窓の外で過ぎ去っていく景色が、無言で聞いていた。
過去作は、こちらです!
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