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深淵のアリス2 星系を継ぐ者  作者: 沢森 岳
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17.儀レオン

なんとか一命を取り留めたけど、まだ危機は去ってはいないんですよね。

 ともあれ、レオンはタンクベッドから起き上がり、儀体といえども裸のままという訳にもいかず、服を着た。鏡を様々な角度から睨んだが、がっかりするほどに自分の顔だった。髭剃り跡まである。ほんと、見分けがつかない。アリスもそうだが、これが儀体とは誰も気づかないだろう。たぶん、凄く高価な儀体のはずだ。


「これって高くつくんだろう? いいのか、俺そっくりになんか調整しちゃってさ」

「予備の素体はまだ幾つもありますし、せっかく詳細データの取得できる人体サンプルがありますので」

 いつの間にか、サンプルとして扱われていましたか。

「俺としては、違和感なく使わせてもらえるのは有難いけどね」


「レオンに関するデータなら、私と同様のヒトシミュレータを稼働できるレベルまで揃っていますから、手相や指紋、毛根の位置までほぼ再現していますよ」

「やけに楽しそうに言うけど、俺のプライバシーはどこへ行っちゃったの?」

「そんなもの、ラーグリフのアドミニストレータを承諾した瞬間から、ありませんよ」

 アリスはビシッと、と冷徹に言い切った。


「俺のプライバシーを軽々しくそんなもの、とか言うな。まったく、……どうせなら、もっとイケメンに補正してくれればいいのに」

 軽く冗談を飛ばしたつもりで振り向くと、不意にアリスの両掌がレオンの顔を包むように挟み込んだ。

 真顔のアリスがすぐそこに。

「私はこの顔が気に入っているんです」


「あ、そう? ……そりゃどうも」

 面と向かって美人に言われると照れるね。お互いに儀体だけど。

「ところでアリス、礼を言うよ。ありがとう。おかげで助かったよ」

「どういたしまして。これからはずーっと、私への感謝を忘れずに生きて行ってくださいね?」


「あ、ああ、まあ、……うん」

 感謝の気持ちはちゃんとあるけどさ。

「でも、まだ治ってはいませんけどね」

「そういやそうだよな」

 アリスはレオンから手を放し、視線を隣の部屋へ向けた。

「危険なレベルまで失血しています。身体の修復完了までは、ざっと三週間といったところでしょうか」


 §


 儀体は基本的に飲食をしない。少量の水を飲むだけだ。正確には経口補水作業を行う、というらしい。落ち着いたついでに珈琲を飲もうとしたレオンは、そのささやかな満足を得ることが出来なくて軽く落ち込んだ。

「全治三週間かあ。その間は飲んだり食べたりはできないんだな。食い物の恨みは恐ろしいぞチクショウ」


「その、元凶のガストンの件ですが、良からぬ動きがあります」

 ガストンとの遭遇後、ラーグリフとプロミオンは全力でガストンの動向を探っていた。追加で観測ドローンを幾つか飛ばしてブラウンヒルの街全体を監視下に置き、徹底的な捜索と追跡を既に行っている。


 またガストン個人の追跡のみならず、各種送受信、通信内容をはじめ連動して動く熱源、電磁波源、購入明細なども調べ上げる。一味の構成員や資金などもある程度調査が進み、どうやら正常に運用できる宇宙船も保持していることを掴んだ。


 しかし、宇宙海賊の彼らが地上でどう行動するのかは、まだ不確定要素が大きく予測しきれてはいなかった。

「武器弾薬と、地上での移動手段や人員を集めています。レオンが倒れた今を、好機と捉えているのでしょう」

「メルファさんを狙ってくるのか? ……俺が役立たずだから、こうなっちまうのか?」


 確かにあの時、ガストンに対してレオンは全く歯が立たなかった。喜び勇んで警護役を引き受けたというのに、何もできず自分は倒れ、アリスに助けられた。悔しいというより、不甲斐ない自分に腹が立つ。そして焦りのような気持ちがこみ上げる。

「役立たずだなんて。ちゃんと時間を稼いだじゃありませんか」

「それしか出来なかったな。……リサさんの言う通りか」


 アリスが、そんなレオンをじっと見つめながら呟いた。

「私とレオンが扱える程度の小火器は準備できます。ガストンを迎え撃ちますか?」

「迎え撃つ、って言ってもな。俺、VRゲームなら結構いいスコア出せるけどさ……」

「やめておきますか?」


 やめておく、とは他の対策をとる、ということになるが、今のところ腹案はない。

 だが、手をこまねいていてもガストンは向こうからやって来るのだ。ふてぶてしいあの顔が!

 何もせずにいる、という訳にはいかない。


「……いや」

 うつむき加減で珍しく怒りをにじませたレオンが、拳を握り意を決してアリスの方を向いた。

 目が合った瞬間、先にアリスが口を開いた。その魅力的な唇から紡がれた言葉は殊のほか冷静で、尚且つ熱かった。

「そう、VRゲームですよ。それで行きましょう」


「え、なに?」

「ゲームです。思考を切り替えましょう」

「どういうことだ?」

「文字通り、切り替えるんです」

 アリスは、レオンに向かって少しだけ微笑んだ。というより、口角を少しだけ釣り上げた。アリスを見慣れない人なら、怖さを感じたかもしれない表情だった。


真顔のまま口だけ微笑むと、ハーマイオニーだって怖く見えるんですよ。

ミラ・ジョヴォヴィッチなら言わずもがな。

メグ・ライアンでも。

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