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柚井史四朗のご関係

 俺こと柚井史四朗は柚井家現当主の長男の息子として生まれてきた。具体的に言えば今現在の柚井家当主は俺の爺様である。何か俺は爺様の若い頃に生き写しらしく、その所為か周りから期待されまくって育ってきた。

 まあ、期待されていると言っても破天荒だけれど人徳のある爺様みたいに有能で人から信頼される人間になれよ。との事だ。

 勉強とかは、勉強するという行為が後々に良いからと結果はどうであれ頑張りなさいと言われていた。スポーツは体動かせるうちに動かしておきなさい。とか、まあそのぐらいだ。

 だから俺はどっちかって言うとコミュ力、というか人を見る力とかを重点的に養わされていた。

 爺様の仕事場に幼い頃からよく連れていかれていたし、そこで自分なりの考え的なものを言わされた事もあった。周りは微笑ましいものを見る目で見てくれていたので、そこまでトラウマにはなっていない。

 だからまあ、俺は別に自分の家が結構裕福で、ある事も、時々爺様の仕事場に連れられて行くのも、特に不思議とは思わなかったし、父さんも母さんも、叔父さんもみんなみんな俺が爺様の跡を継ぐんだと思っていたし、俺自身もそう思っていた。それが当たり前で、それ以外の道って言っても特に興味はなかった。



 そんな流されやすい俺には幼稚園の頃からの婚約者がいる。

 皆川乃乃。俺はの「のの」と呼んでいるふわふわ小さく、リスとかハムスターを連想させるこの婚約者を、俺は案外気に入っていた。

 見た目と反してガッツがあり、正気の沙汰じゃないと思える数のお稽古事を自らやり始め、それを楽しみながら自分の糧とか武器にしているののは、結構格好いい。

 やるからには徹底的に楽しむ。とののは俺に言っていたが、俺は自分で自分のやりたい事とかを決めた事があっただろうかと考えた。

 ののとの婚約だって、親、っていうか爺様が決めた事だ。いや、別にののが好きじゃないって訳じゃない。ただ、大人に連れていかれたパーティーで偶然ののと仲良くしていたら婚約者として決まっただけだ。変な事じゃない。俺の婆様だって母さんだって幼馴染である爺様と父さんと結婚したんだから、こういう流れで結婚する事もあるだろう。しかも、気心が知れていて、結婚生活も結構ストレスがなくて良いかもしれない。

 ののが自分の将来の夢を教えてくれた時も、自分がそれを叶えてやりたいと思ったのだから、俺はののとの結婚を結構好意的に、前向きに考えていたのだ。



「私ね、素敵なお嫁さんになりたいの。だから、お稽古頑張って、史四朗くんに相応しい女の子になるね!」



 少し舌足らずで、それでいて自分をしっかり持っている婚約者を、俺は本当に気に入っていたのだ。

 でも、俺たちの関係は婚約者ではあったけれど、お互いを異性としては見ていなかったのではないかとある時気づいた。



 ののの好みは結構分かりやすい。俺の叔父さんみたいな、大人の男が好きなのだ。多分。

 絵を描くという共通の趣味もあるから、俺が爺様に連れまわされて折角ののが家に来てくれても俺がいない時、ののと一番話すのは叔父さんだ。

 だからなのか、多分ののは叔父さんみたいなタイプが理想の異性なんだと思う。俺の髪を後ろに撫で上げて叔父さんと同じオールバックにしたり、パーティーとかでおめかしする時は大人っぽい恰好をしていくと目を輝かせる。うん。分かりやすい。

 多分のの本人はバレてないつもりだろうが、というか口に出そうとしない上にいつもぽやぽやとした表情を浮かべているから関係が浅い人には気付かれないだけで、俺が将来叔父さんみたいにダンディになれば良いとか思っているのは分かりやすい。そこも可愛いと思うけれど、4年生になるかならないかぐらいの頃から手を繋ぎたがらないのは寂しい。ちょっと歩くのが早くなると転びそうになって、でも転ばないようにしているののはめちゃくちゃ可愛い。動画サイトにアップすれば結構閲覧数が得られる気がする。癒し動画だ。癒し動画。

 小さい頃も「女の人は男の人の三歩後ろを歩くんですよ!」とか言って俺の後ろ歩いていたら段々間が開いてきて、ちょっと待ってやったら嬉しそうにして、それでも手を繋ごうかと言ってみたら三歩後ろ歩く事が出来ないって考え込んだので、俺は服の裾を掴ませてやった。



「ありがとう。史四朗くん!」

「……おう」



 叔父さんを意識してそう言えばののの瞳は輝くばかりなので、俺は結構満足していた記憶がある。



 そんな風に仲良く、けどあんまりイチャイチャ?とかはしないで生きていたら、いつの間にかののの様子がおかしくなった。

 具体的には、「わろす」とか「ぐぅかわ」とかよく分からない言葉を言い始めていた。その上、小学校上がってから余計に被るようになった、ふわふわ仮面(俺的ネーミング。いわゆるキャラ作りだと思う)がより強固なものになった。ふわふわなのにな。



 流石に学校の勉強と一緒にあの正気の沙汰じゃない数のお稽古事はストレスなのだろうとそっとしておく方法を取ったのだが、中学に上がって初めてテストでのの以外が順位表で俺の上に名前を連ねた事から、ちょっとずつ色んな事が変わり始めた。



 俺は別にそこまで勉強に拘っている訳じゃないけれど、ののが頑張っているんだから俺も頑張んなきゃののの旦那として駄目だろう。と思って、同率1位をキープしてた訳だ。

 だから、桃川一子という外部生が気になった。

 小動物っぽいののとは正反対の、俺とあまり変わらない身長で、クールビューティ系である桃川を見た時、俺は何か運命的なものを感じた。

 それが何なのかは分からないし、もしかしたら最近のののの様子を知る為に何か気付いたのかと思ったけれど、図書室で勉強している桃川を見て、話しかけて、ツンケンされて、それでもライバルっぽく問題を出し合って、楽しかった。

 ののとはこういう事をあまり出来なかったから、多分、新鮮だったんだろう。男友達とでもすれば良いと思ったりもするけれど、多分、同性だとこの感じは出せない気がする。

 俺も爺様の仕事場について行く事ばっかりしてないで、ののともっと話をしたりしたい。そう思った。

 だって、ののは俺の家に忙しい時間を縫って何度も遊びに来てくれているんだから。



 ののに、俺の友達として桃川を紹介したいって、そう思った。



「史四朗じゃない。何しているの?こんな所で」

「……桃川。お前こそこんな所で何してるんだ」

「お父さんを手伝ってたのよ」



 爺様がスポンサーをしている最近目が出始めた画家の個展で桃川に会って、その言葉を聞いた時、確かにその画家の苗字は桃川だった。と思い出した。



「そっか。俺も爺様の仕事について来ただけだ」

「……柚井さんは史四朗のお爺様なのね」

「変な爺さんだろ?あんなにハチャメチャなのに、人に好かれる」

「私も分かるわ。柚井さん、何に対しても真剣だものね」

「サンキュ。……そうだ、桃川。お前宝塚好きだったのか」

「……は?」



 桃川が付けているネックレスを見て言えば、桃川は目をカッて見開いて、ツカツカ近付いてきたと思ったら、勢いよく俺の胸ぐらを掴んだ。



「誰かに言ったら殺すわよ」

「……言いません」

「本当に?」

「本当デス。誰にも言いません」



 あまりの剣幕に何故か敬語になって返せば、納得した、というよりも諦めた。という様な表情で俺の胸倉から手を離した。

 別に苦しくはなかったが、空気が重かったので、ようやく息が吸えると思い、俺は深呼吸をした。



「分かってるわよ。似合わないって事ぐらい。でも、良いじゃない。格好良いんだから。憧れるぐらい、良いじゃない」



 目元を真っ赤にしている桃川に俺は慌てた。

 女の子を泣かせた事なんて今までなかったから。ののに対して虫を見せびらかすとかいう王道的な意地悪はした事ないし、というか俺虫嫌いだし、そんな風にして気を引かなくても、ののは俺の事見ててくれているし。

 だから、俺は泣きそうな顔をしている桃川に対してどう接していいか悩んで、とりあえず頭を撫でるという結論に至った。

 ののは頭撫でられるの好きだしな。



「似合わないなんて言わねーよ。女なんだから、別に宝塚好きでもおかしくねーだろ。ダチの趣味笑うなんてするかよ。馬鹿」

「……ダチ?」

「え、ダチじゃねーの?」



 それはショックだ。図書室での一件で友人にはなれたと思っていたんだが。



「馬鹿じゃないの。史四朗。女の子にこういう事したら、普通はダチじゃ済まないんだからね?」



 泣きそうだったから桃川の瞳は潤んでいて、でもののみたいに身長差がある訳じゃないから、目線が近くて、しかも制服以外年中着物なののと違って、ちょっと大人っぽい恰好をしている桃川はなんか、女の子っていうか、女子っていうか、年上のお姉さん的な感じで。



 あ、俺多分小動物系の女の子よりキャリアウーマンタイプが好きなんだな。



 桃川が嬉しそうな顔で俺に笑いかけてくれているのに、俺は内心そんな最低な事を考えていました。





「なあ、叔父さん」

「なんだ。史四朗」



 あの後桃川と少し話をしたりちょっとそこら辺をぶらりと見たりして、ちょっとデート風だなぁ。と思う様な事をした後、俺は家に帰った。……あ、ちゃんと爺様や桃川のお父さんに許可は取ってたぞ。むしろ俺達が知り合いだという事で結構爺様たち話が弾んでた。

 で、人生初、というか大人の付き添い無しで子供二人だけでの買い物というのは初めてで、ちょっと羽目を外し過ぎた感があり、俺は少し疲れていた。

 子供だけで外で遊ぶなんて危ないとか、最近は物騒だとかで、必ず大人数か大人の引率有りで遊んでたけど、まあ、こういうのも悪くない。

 そんな感じで疲れた俺はキッチンで梨を切って貰い、リビングに持ってきたのだが、今日は珍しく叔父さんがリビングで読書をしていた。

 叔父さんは普段自室で絵を描いたり、趣味に没頭したり、趣味である骨董品を探しに街へぶらりと歩きに行っている事が多いので、こうしてリビングで二人きりで出くわす事なんてとても珍しい。



「あ、えっと、ただいま」

「ああ。おかえり。今日も親父にこんな時間まで連れ回されたのか。なみのが来ていたぞ」

「え、ののが?」

「弓道の稽古があるとかで帰った」

「そっか」



 なみのが来ていた。という事で桃川との件により一層罪悪感が増した。

 だからだろう。普段あんまり話す機会のない叔父さんにちょっとした相談みたいな事をしてしまったのは。



「叔父さん、結婚とかしないの?」

「何だ藪から棒に」

「いや、叔父さんまだ30前なのに前々浮いた話ないし」

「親父に何か言われたか」

「いや、爺様は関係ない。何ていうかさ、叔父さんってどんな子がタイプなの?」

「一緒にいて疲れない奴」



 結構喰い気味に聞いてみたら、そんな気のない返事が返ってきた。

 いや、分かるよ。叔父さん寡黙だし。……悪く言えば人との会話を煩わしがる人だからな。例え甥である俺であっても例外じゃないのか。

 ……例外なんて、本当にののぐらいだろうな。



「それってさ、ののと叔父さんみたいに、趣味が合うって感じ?」

「そうかもな。なみのとは趣味が合う」

「だよなー」



 同じように絵を描いていて、多分叔父さんみたいな寡黙なタイプってののみたいな良妻タイプと相性良いんだろうな。ののって言わなくても察してくれる時あるし。醤油取る時とか。



「じゃあ、俺は駄目か」



 俺みたいなタイプ、多分ののとは合わないんだろうな。とか考えて言ったら、叔父さんが急にガタって動いた。



「……叔父さん?」

「いや、眼鏡落とした」

「いや、眼鏡してないじゃん」

「ああ。じゃあ、あれだ。コンタクトだ。コンタクト落とした」

「え、大丈夫?探すの手伝おっか?」

「いい。手のひらに落ちたから」

「そう?」



 まあ、コンタクトって急に落ちるらしいしな。それにしても眼鏡と間違えるって……もしかして叔父さん部屋では眼鏡してるのかな?絵描く時絵にコンタクト落ちたら大変だもんな。

 コンタクトを戻し終わったのか、叔父さんは一度深呼吸をして俺の方を見た。



「……ああ、そうだな。なみのの事か」

「うん。そうなんだよ。俺とののってさ、特に共通の趣味はないし、俺もののもお互い忙しくてあんま話せてないし。ののだって理想の異性とかいるんだろうなーって思ったんだけど」

「理想の異性。な」

「叔父さんとののって似てるから、叔父さんに聞いてみれば少し分かるかと思ったんだけど、やっぱ俺じゃ駄目だなって思った。俺たちって一緒にいて疲れないどころか、一緒にすらいないんだから」



 叔父さんとの方がよっぽどお似合いだ。ののの理想は叔父さんみたいな大人の男で、俺の理想はキャリアウーマンタイプ。まあ、似てるっちゃ似てるけど、それだけだし。



「何があってそんな事を考えているのかは知らんが、なみのはお前を好いている。お前だってなみのが好きだろう。お前達の想いに違いや差があるなんて、俺は思えんがな」



 そう言って俺から梨を一切れ取り、叔父さんは読書に戻った。



 想いの差、か。俺はののが好きで、可愛いと思う。ののは俺の事、多分好きだよな?婚約者やってるし、忙しいのに結構な頻度で会いに来てくれてるし。

 でも俺って、俺たちって、お互いを異性として見ているのか?



 考え出すときりがなかった。俺がののを好きなのは当たり前の事だと思ってた。

 ののの夢を聞いた時、それを叶えてやりたいと思った。

 いつも頑張っているののを、誇らしく思うし、尊敬している。

 でも、ののが叔父さんと一緒にいるのを、俺は特に気にした事はなかった。

 構ってやれない事を情けなく思いながら、それでも婚約者として、男として、嫉妬したりした事はなかった気がする。





「なあ、桃川はどう思う?」



 考えが煮詰まり過ぎて、俺は桃川に相談をしてみる事にした。

 桃川とののが特別親しいとかそういう話は聞いた事がない。だから第三者として意見を、と思ったけれど、よくよく考えたら俺と桃川って結構親しいよな?友人だし。じゃあ、第三者にならないか。

 でも、誰に相談しようって考えた時、思い浮かんだのは桃川だった。



「私はあの子と話した事ないわよ」

「ののは殆ど見た目通りだ。それ以外は、まあ、誤差の範囲というか、なんというか」

「妙に気になる事を言うのね。まあ、でもそれって多分、恋愛感情ではない気がするわ。どちらかというと、妹とか、そういう関係の相手に対する感情に近いんじゃないかしら」

「……妹?」

「憶測だけどね」

「妹ねぇ。妹。妹……」



 口に出して考えてみると、確かに妙にピッタリとピースがはまる様な、そんな気もしないでもない。

 そうか。俺はののの事を妹として見てたのか。



「なら、尚更ののを大事にしなきゃな」

「はぁ?」

「いや、だってそうだろ?妹みたいに思ってても、いや、思ってるからこそ俺とののは婚約者で、いずれ夫婦となるんだ。もっとちゃんとののとの時間を取りたい。そう思えた。ありがとう。桃川」



 色々と吹っ切れたなぁ。とか思っていたら、桃川が信じられないものを見る様な目で俺を見ていた。



「も、桃川?」

「信じられない」

「……は?」

「そんな感情を持ったまま結婚しようとしているだなんて、信じられない。そんなの、女として許せない」

「え?でも、俺はののを大事にしたいし」

「そんな感情で、妹としか見れないくせに結婚するんだったら、私にしなさいよ」

「……は、い?」



 今、結構衝撃的な事を言われた様な気がする。

 一旦冷静になろうと思った俺の思考を奪う様に、桃川は言葉を重ねた。



「それとも何!?私の事も妹にしか見えないの!?だったら金輪際話しかけてくるのはやめてよね!私は史四朗の妹じゃないんだから!」

「見えるよ」

「……え?」

「俺は桃川を女の子として見れる。妹じゃない。だから、その、話しかけるのはやめない。俺は、桃川の事、大事なダチだと思ってるから」



 俺の言葉に桃川は止まった。泣き出しそうな赤い瞳に、震える唇。それら全部、俺には妹には見えない。

 桃川は俺にとって、理想の女の子なのだから。



「友達じゃ、やだ。私は史四朗の恋人になりたい」

「俺はののを大事にしたい。桃川は友達だ」

「それじゃやだ」



 今目の前にいるのは、いつもの強気な桃川じゃない。桃川一子って言う一人の女の子だ。



「俺の特別は、ののだけだ」

「私を特別にしてよ。史四朗は、私を女の子だって言ってくれたんだから」



 そのまま桃川に抱き着かれて、唇と唇が触れ合いそうになった時、俺は桃川をぐいっと押し返した。



「も、桃川」

「そっか。本当に、脈ないのね。馬っ鹿みたい。はしゃいじゃって、馬鹿みたい」



 ボロボロと涙を零す桃川を見て、俺はきっと、もう自分の中で桃川一子という少女が特別な位置にいるのだと悟った。

 俺の特別はののだけれど、多分、それはきっと婚約者に抱く様な、そういうものじゃなくて、きっともっと近いものだ。

 俺とののは、きっと家族だけど、夫婦にはなれない。

 今、その事にようやく気が付いた。



「桃川」

「何よ。馬鹿」

「俺の特別はののだけど、ちょっとやり直してみたい。婚約者とかじゃなくて、柚井史四朗として、皆川乃乃と向かい合ってみたい。俺と桃川の気持ちは、その時ゆっくり話し合うとかじゃ、駄目か?」



 婚約者っていう肩書を一旦下ろして、ののが俺をどう思っているのかちゃんと確かめたかった。

 婚約者じゃなくなって、俺がののをどう思えるのかも、知りたかった。

 だから、桃川の事をまるでキープするみたいにこんな事を言うのはズルいだろうし、駄目だろうけれど、桃川とはちゃんと向き合いたいって思った。

 桃川は、大事な友達だし、失いたくなかったから。





「叔父さん。俺さ、ののともうちょっと向き合ってみたいんだ」

「そうか」

「だからさ、ののにももうちょっとお稽古事減らしてもらいたいし、俺も爺様についてくのしばらくやめようと思う」

「そうか。頑張れよ」

「おざなりだな。叔父さんは。だからさ、俺、ののに明日言ってみるよ。卒業パーティーの時」



 卒業と言っても、うちの学校はエスカレーター式で、中学生はほぼ100%敷地内にある高校に進学する。ちなみに幼稚園から大学まで同じ敷地にあるのだから、うちの学校はマンモス校どころじゃないと思う。

 まあ、そんな訳で入学式とか卒業式とかの準備の所為で普通3月中に行われる筈である中等部の卒業式がずれにずれ、4月中旬に果てしなく近い初旬に行われる事になった。卒業パーティーで呼ばれる芸能人とかのスケジュールの問題もあったのだが、それはそれ。

 仕方ないと言えば仕方ないけど、来週入学式だって事を考えると、嫌になる所の話じゃないんだが、まあ、大人の事情だから仕方がない。



 ああ。明日は桃川がファンをしている宝ジェンヌが来るらしく、テンションが上がり過ぎてキャラが壊れない様に見張っていてくれと言われたんだった。

 流石にののと話す時には別の場所にいて貰わなければならないけれど、それでも、友人として、それぐらいはやってやりたいと思った。





 卒業式当日。卒業生全員が全員名前を呼ばれた為、かなり時間がかかった卒業式の後の卒パではやはり桃川のテンションが上がりまくりだった。

 誰かに縋り付いていなければ叫び出して突進しそうだと言っていたので、俺は腕を貸した。

 そして一人暇そうに、卒業式で疲れているであろうののに近付いた。

 俺たちの婚約について、話す為に。



 けれど、ののが疲れまくっている事と、主に醤油を取る時に発せられるののの気遣い、というか察知能力を俺は舐めていたらしく、ののの方から、明らかに取り返しのつかない事態に持っていかれたのだった。



「あ、すみません。婚約破棄したいんですけど」



 その結果、ののに腹を括らせてしまい、俺とののの婚約は予定とは違い、俺ではなく、ののの方から破棄され、俺の隣で桃川が衝撃の一言を漏らしているのを聞いてしまったりした。

 女同士だから問題ない……いや、問題あるのかもしれないけれど、問題はない。多分。というかそう思っておこう。

 抱いて。はないだろう。抱いて。は。桃川のキャラが崩れるのを回避しようと思っていたのに、結果ののと桃川両方のキャラが崩れた。



 ああ、そういえば、こっちの会場って保護者側の会場に中継されてるんだっけ?

 ははは。叔父さんに怒られる。昨日あんな事言ったばかりなのに、ののに全部押し付けちゃったからな。

 叔父さんはよく女の子は丁重に扱えって言ってたから、こんな事になったんだから、多分殴られるの覚悟しなきゃ駄目だな。殴られた事なんて一回もないけど。



 俺がそんな覚悟を決めていた間、叔父さんもちょっとした人生の大勝負を行っていたらしく、次の日朝起きたら食卓にののが普通にいた事に俺は驚いた。



「の、のの?」

「……あのね、史四朗くん。私、史也さんと結婚するから」

「……え?」



 叔父さんと俺たちは15歳しか離れていない。だからそこまで叔父さんがロリコンだとかそういう風には言えないのだけれど、まあ、なんだろうな。この、横から掻っ攫われた感は。

 叔父さん、手が早いじゃ済まないだろ。



「ちなみに、手はまだ殆ど出してない。なみのはさっき来たばっかりだ」

「……叔父さん。結婚するならさっさとしちゃってね。ののの世間体とか考えてあげて。ののはまだ16なんだから」

「ああ。だから今日中に役所に提出しに行く予定だ」

「そっか」



 俺はののを妹としか見れなかった。うん。それで良い。というか、ののは腹を括ったんだし、俺も腹を括ろう。



「桃川がののと仲良くなりたそうだったから、今度一緒に遊びに行かないか?ダブルデート、ってやつ?」

「本当?一子ちゃん私の事嫌ってるんだと思ってた」

「話すタイミングがなかっただけだろ。お稽古事とか、少しやめたらどうだ。のの。俺も爺様にくっ付いて苦頻度減らすし」

「そうだね。お嫁さんになるんだもんね。えへへ」



 お嫁さん。という言葉に照れるののを見て、とりあえず俺じゃなくてもののは幸せなお嫁さんにはなれるんだと気付いた。

 というか、俺より叔父さんの方が色々と合ってるだろう。

 俺とののの関係は、昔と変わらず、家族とか、兄妹とか、そういうので良いだろう。多分。

とりあえず、これで本編は完結です。

ブックマークしてくれた方々。評価してくださった方々。ご感想をくれた方々。物語の矛盾点を指摘してくださった方々。ありがとうございます。

これは婚約破棄をする気満々の男が逆に婚約破棄をされるという話です。

しかし、あんまりザマァにならない様にしていました。

そういうのは見てて楽しいけど、自分で書く程好きじゃないんで。

最終的にはちゃんとハッピーエンドだし、まあ、あれです。

続きを書くとしても、特に話を考えていませんし、一子ちゃんとののの関係の変化とか書いてもいいけど、短い話になりそうだなぁとかは思っています。

まあ、後日談みたいな風なのは書く予定です。

でも、とりあえず、本編は終了です。

ありがとうございました。

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