130 ご愁傷様
クレハは早速、二人に食事を提供するために屋敷の料理人に料理を作ってもらう。この屋敷の料理人はクレハに仕えているのだ。クレハが考案した料理は日々の食事でも提供されるため作り方は既にクレハから伝授されている。
しばらくするとクレハが頼んだ豚の角煮が三人の元へと届けられる。メイドが料理を運んでくると部屋中に料理の美味しそうな匂いが広がる。
王妃はその匂いに目を輝かせており、サラに至ってはよだれを垂らし、料理を間近で見つめている。その距離はなんと5cmだ。今は何とか耐えているが、すぐにでも良しと言ってあげなければがっついてしまいそうな勢いだ。
「お二人とも、召し上がって下さい。」
クレハが声をかけると王妃は肉を一口、ナイフで切り分け食べるのに対してサラは肉厚な豚肉にかぶりつく。サラが王妃と共に食事を行っているのは今更だろう。今では当たり前となっている風景のせいで王妃すらも咎めることはなくなっていた。
そこからというもの、サラを抑え込むのに大変だった。いつものように、クレハの料理を称賛するのは良い。しかし、料理に対して頭を下げ、奉ったのだ。
「なんと神々しいことでしょう。ここにおわすのは王か!そうに違いないです、これからは敬い、奉らなければなりません。ははぁ~~。」
「いや、あなたも毎度のことだけど、訳の分からないことばかり言うわね。あなたの王は私の夫であり、この国の王である陛下のみですよ。流石に不敬が過ぎるわよ。」
「何をおっしゃいますか、こちらのお肉様こそ、称えるべき真の王です。私はお肉様以外に王を認めません!もしも、これが認められないのであればこちらにも考えがあります!」
この時点でクレハは嫌な予感がしていた。毎度のこと突拍子もないことを連発しているが今回ばかりはサラが何を言いたいのか予想することができた。そんな未来にクレハができることと言えば白い目で見つめることだけだ。
「そう、お肉様が王と認められないのであれば、革命の時です。陛下には戴冠していただきお肉様を王位に、へっぷ。」
もう聞いていられなかったのだろう、王妃はサラの背後から頭を鷲掴みにし、そのまま地面へとたたきつける。サラが沈黙しても王妃は目もむけなかった。こんな異常ともいえる状態に何もツッコまないのはこの風景を見慣れてしまったためだろう。
一国の王妃に仕えるメイドがそれでいいのかとため息も出なかった。
「これ、美味しいわね。帰りに少しもらっていいかしら?」
「はい、問題ありません。レシピのほうも商会で無償公開しておりますので、そちらもお渡ししておきます。」
視界の端で先ほどから床に頭をめり込ませバタバタと動いていたサラがおとなしくなり、動かなくなったころだろうか。三人がいる部屋にルークが訪れる。
「オーナー、失礼します。あっ、失礼いたしました。お二人がいらしていたとは、後ほど出直します。」
二人が来ていることを知ったルークが部屋を退出しようとするがそれを止めたのは王妃であった。
「あら、気にしないで頂戴。別に私は気にしないから、入ってきてちょうだい。見た感じ大事な用なのでしょう?私はこの豚の角煮を味わっているから。」
王妃の配慮にお礼を言い、ルークはクレハに耳打ちで報告を行う。その報告を聞いたクレハは嬉しさのあまりルークに抱き着いてしまうのだった。
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