126 魅惑の投資話
「これは、さるお方の屋敷で聞いたお話なのですが、最近の陛下は働きすぎで疲労がたたっているようなのです。そこで、そのお屋敷の当主様が陛下のためにリゾート施設の設計を計画しておられるのです。
リゾート施設ですので、陛下の目に留まれば他の貴族たちも利用するようになり、かなりの収益が見込める施設となります。
しかしながら、ここで問題が起きたのです。陛下が使用されるかもしれない施設です、使用する設備はどれも一流のものでなければなりません。そのため、建設費用に非常に大きな額が必要となります。
そこで、さるお方、いえ、侯爵様は他の貴族たちから建設後の利益の一部と引き換えに融資の話を持ち掛けることを考えました。しかしながら、いくら侯爵と言えども数多くの貴族たちに金を融資されるのは対面上よくありません。
つまり、出来るだけ今回のことは内密かつ、一人で多くのお金を融資できる人間を捜しておられるのです。」
伯爵はアイールの話をここまで聞いたが彼が一体何を言わんとしているのかが理解出来なかった。
「それで、そんな話をワシに持ち掛けて何がしたいのだ?」
「伯爵、ここで侯爵に融資の話を持ち掛ければ、さらなる富を得ることが可能になりましょう。私は日ごろからお世話になっている伯爵にこの国一番の富を持つ貴族になってほしいのです。」
伯爵はアイールの、この国一番の富を持つ貴族という言葉に心が揺れるが、事はそう簡単ではない。侯爵が一人では賄いきれない金額を伯爵である自分が果たして用意することが可能なのかという不安を抱いたのだ。
「しかしな、侯爵様が用意できないほどの金なのだぞ、ワシが用意することは難しいと思うぞ?いや、平民どもの税をとりあえず増やせば何とかなるやもしれぬ。」
「伯爵、それには及びません。実はですね、我々は美術品の販路も他の商会と比べ優秀でして、前々から、こちらの部屋に飾られている調度品は高値で売れるのではないかと考えていたのです。
これらを売りさばいて、お金を作り、侯爵様の事業に投資してさらなる富を得ることを私は愚考いたします。我々に任せていただければ、伯爵が購入した金額の5倍、いや、10倍で売りつけて見せましょう。
伯爵、ぜひ、私たちにお任せいただけないでしょうか?今ある古い調度品は芸術を分からないものに高値で売りつけて、投資でお金を増やし、伯爵はさらに貴重な新しい調度品を購入されるほうがよろしいかと。
それこそが、伯爵のあるべき姿です。今あるものよりもさらに貴重な調度品のほうが伯爵にはお似合いです。」
アイールに力説される伯爵は次第に今の調度品では自分に似つかわしくないと感じ始めるようになる。伯爵である自分にはさらに貴重な調度品こそが似つかわしいのだと。
「いいだろう、先ほど貴様の言った通り、10倍にしろ。」
「かしこまりました。それで、伯爵、よろしければ侯爵様の融資の件が成功しましたら、仲介料として少しばかりお恵み頂けないでしょうか?
お任せしていただけるのであればお金の輸送など、面倒なことは当商会で責任をもって行わせていただきます。伯爵は、何もしていただく必要はありません。すべて我々にお任せください。」
伯爵はアイールの狙いに気づき、少しばかり嫌な顔をするがすぐに元の顔に戻る。
「まったく、これだから商人というものは気が抜けん。まぁ良いだろう、これも貴様の持ってきた話があってこそだ。だが、仲介料をもらうのだ、その分金の引き渡しや運搬など面倒なことはお前たちにすべてやってもらう。
途中で盗賊に遭遇してワシの金を失うようなことがあればすべて貴様たちの責任だ。その時は全額弁償してもらうぞ。」
「もちろんでございます、伯爵にご迷惑をおかけすることは絶対にございません。」
「なら良い、それでは後ほど売買する調度品と侯爵に融資する金を渡すからそれまではくつろいでいると良い。」
それから、屋敷の者に手配させた調度品や金がそろうとアイールは伯爵邸を去るのであった。
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私の他の作品、カクレユメ~かくれんぼは夢の中で~もよろしくお願いいたします。完結済みで、軽く読めるのでぜひご覧ください。




