124 伯爵家の救世主
伯爵の命で応接室に通された商人とは見た目は老人のようであったが杖も使わず足取りははっきりとしていた。
「初めまして、伯爵。私はアイール商会の会頭を行っておりますアイールと申します。本日は貴重なお時間を頂きありがとうございます。」
「うむ、かまわん。だが、アイール商会などという商会は聞いたことがないな。」
伯爵は今まで様々な商会を相手にしてきたが、アイール商会という商会は耳にしたことさえなかった。
「我々は主に他国で活動している商会です。そのため、伯爵のお耳にも入らなかったのでしょう。我々はさらなる事業の発展を行うために、コーカリアス王国にも商会を拡大しようと考えた所、ご高名な伯爵様にお会いしたいと考えこちらにお伺いさせていただきました。」
「ワシに一番に挨拶をしてきたのは誉めてやろう。しかし、商人がワシに何の用だ?」
伯爵は機嫌を良くしたのだろう。先ほどの執事とのやり取りの際に比べ非常に物腰が柔らかくなっている。
「はい、本日は伯爵にお願いがあってまいりました。当商会に伯爵が生産されている羊皮紙を卸していただけないかと思いまして。」
「お前たちは羊皮紙が欲しいのか?そんなものワシの所にわざわざ出向かなくてもいいだろ。お前たちの国でも生産は行われているはずだ。何故、わざわざ他国まで来て羊皮紙を求める。」
「何をおっしゃいますか!伯爵が作られる羊皮紙の質は非常によく、わが国でも有名なものです。なかなか手に入れることができないと大人気なのですよ。我々に任せていただければ他の商会よりも色を付けて取引させていただきます。どうかお願いできないでしょうか?」
伯爵にはすでに羊皮紙を取引してくれるような紹介など一つもないがアイールの目からすれば他の商会に取られたくないと思うほど人気の商品なのであろう。自分の作る商品が人気で売り切れてしまうと告げられた伯爵はさらに機嫌をよくする。
「うむ、そうであるな。わしもお前たちのようなやる気のある商会に商品を卸すのはやぶさかではないのだが、なにせ欲しがる商会は多いからな。」
その様な商会はいないが、アイールからできるだけ金を引き出すために人気の商品であるということをにおわせる。
「伯爵、これは少ないですが我々の気持ちです。これで、今後とも仲良くさせていただければと思います。」
そう言いながら伯爵に渡されたのは少なくない金が入った袋であった。伯爵は中身を確認すると自分が思っていたよりも中身が多かったため、さらに機嫌をよくする。
「しかたないな、お前たちがそこまで売ってほしいと頼み込むのであればおろしてやろう。その代わり、ほかの商会でも欲しいものはたくさんいる中、お前たちに卸してやるのだ、その分は色を付けてもらうぞ。」
「ありがとうございます、伯爵。精一杯お勉強させていただきます。」
アイール商会の登場によって何とか伯爵家は羊皮紙の買い取り先を見つけ出すことができるのであった。今の状態が続けば金が無くなってしまうのは明白であったため、伯爵としても羊皮紙を買い取ってもらえることができたのは渡りに船であったと考えていたのだろう。
商談をまとめ、今までのお抱え商人たちに羊皮紙を売りつけていた価格よりもさらに高い価格でアイールに売りつけることができて、伯爵は上機嫌なまま自らの屋敷から彼を送り出すのであった。
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また、本日から始まりました作者の新作小説「カクレユメ~かくれんぼは夢の中で~」のほうも少しでいいので覗いていただければ幸いです。
短いものですのでお時間は取らせません。どうぞよろしくお願いいたします。




