117 男の策・クレハの策
「なるほど、仕方ありません。そういうことならあなたや他の方が見ている目の前でしか証拠品の醤油に触れません。ですので、ご友人が飲んで倒れたという醤油を見せていただけませんか?確認したいことがありますので。」
「けっ、いやだね、そんなものを見せる義理はねぇ!無理やり奪われるかもしれないからな!」
「皆様の目の前でしか触れないと言ったはずです。約束は守ります、ここまで譲歩しているのに明け渡さないとは何かやましいことでもあるのですか?そもそも、本当に倒れたという人はいるのでしょうか?
醤油を食べて倒れた人がいるというのは今ではあなたの証言だけです。私からして見ればお金欲しさに毒が入っていないものを毒と言っているだけにしか見えませんが?」
クレハがそう告げると男はニヤリと笑みを浮かべながら怒り出す。
「なんてことを言うんだ!俺はうそなんかついてねぇ、嘘だと思うのならみんなの見ている前でこの醤油を食べてみろよ!こいつがその醤油だ。あんたが毒じゃないというのなら食べられるよな?」
そう、男の本当の目的はクレハに毒入りの醤油を食べさせることであった。普通では領主に毒を食べさせるというのは非常に難しいことであるが今回は異なる、今の受け答えでクレハは醤油を食べなければならない。そのうえ、今は醤油が毒ではないと言い張っている状態だ。本来であれば、差し出した醤油を食べて苦しみ出したら男は瞬く間に領主の殺害未遂で捕まってしまうだろう。
しかし、現在の状況ではたとえ食べて倒れたとしても毒の醤油を売っていた男爵が悪いということになる。そのため、男にとって今の状態は絶好のチャンスであった。
男の口から毒という話を聞き、クレハはあることを思いつく。店長にあるものを用意してほしいと告げたのだ。また、先ほどから騒ぎ立てている男にはこう告げる。
「分かりました、そこまで言うのであれば私も体を張りましょう。今からあなたの持ってきた醤油の中身を飲みます。」
「良い度胸だぜ、せいぜい後悔しないことだな。」
いつしかクレハが領主ということも忘れ、男は無礼ともいえる態度をとっていた。そんなことをしていると店長に頼んでいた品物が届く。
「クレハ様、食器とお皿をお持ちしました。」
「ありがとう。それから、そこの棚に置いてある醤油もとってくれるかしら?」
クレハは店の棚に置いてある醤油を持ってくるように店長にお願いする。
「おい、そんなものを持ってきてどういうつもりだ?飲むのはこっちの醤油だろ?」
クレハの行動の意図が理解できず、男はただ怒鳴りつけることしかできなかった。
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