116 醤油は毒?
クレハの元を訪れたのはクレハ商会の従業員の1人であった。最近では醤油の売れ行きも順調で特に問題が無いと認識していたクレハであったが、わざわざクレハを呼びに来たということは何か問題があったのだろう。
本来であれば店長を任せている従業員がいるため、大抵のことはその者だけで解決できるはずだ。そのため、クレハを頼りに来たということは大抵のことではないということだろう。
「領主様、お店に変なお客様が!商会で売っている醤油が毒であると言い張って騒ぎ立てているお客様がいるのです。店長が手に負えないとこちらに来るように言われました。どうかお助け下さい。」
「わかりました。ことは急を要するようですね、すぐにお店に向かいましょう。」
クレハは商会へと足を運ぶのであった。
クレハが商会に到着すると人だかりができていた。騒ぎが気になるのか、店の中で騒ぎを見ているもの、店の前で騒ぎを見ているものと様々だった。
クレハはやじ馬たちをかき分け、店長の元へと向かう。店長の元へと向かおうとすると大きな騒ぎ声が聞こえてきた。
「お前の店の醤油を食べたやつがいきなり吐き出したり、腹が痛くなったりして倒れたんだぞ!分かっているのか、責任取れよ!」
男は店長に向かって責め立てており、店長は今にも泣きそうな顔をしている。しかし、責め立てている男の顔を見てみると知り合いが倒れたなんて言うような顔をしていない。むしろ今の状況を楽しんでいるような節もあり、口角が上がっている。
男の様子を見てクレハは確信した。彼の言っていることは嘘ではめられたのだと。そうとなれば話は変わってくる。店の商品にケチをつけただけではなく、店の従業員たちにも迷惑をかけられたのだ。
今回ばかりはクレハも容赦しない。しかし、はたから見れば彼は被害者だ。ここでいきなり彼を捕らえてしまえば権力をかさに立て、自らの失敗をもみ消そうとする最悪の権力者にしか見えないだろう。
あくまでも彼らの行いが仕組んだものであるということを証明しなければならない。クレハはどうすればこの騒ぎをうまく収めることができるのか慎重に考えるのであった。
「この騒ぎは何ですか!店長、説明しなさい。」
「クレハ様!お越しいただきありがとうございます。私の力のみではどうすることもできません。申し訳ございません。」
店長は謝罪と共に、今回の騒ぎの経緯を説明する。どうやら彼の友達がこの店で買った醤油を食べた途端に吐き気をもよおし、意識を失ってしまったらしい。それから医者に見せてみれば倒れた友人は何かの毒の中毒症状を起こしていると言われたらしい。
先ほどから、まるで劇でも演じているように男は友人の症状を語っているがクレハにとっては胡散臭いような行動であるだけだった。
「お客様、この度は大変申し訳ありませんでした。ご友人の方には最大限の補償をさせていただきます。症状が完治するまではすべての治療費をこちらで出させていただきます。」
「誰だよ!俺は領主を出せって言っているんだ!ここの店が領主の店だって聞いたからこそ見た目が悪い醤油っていう調味料を買ったんだぞ!それなのに、毒を売っているなんてどういうことだよ!この街の人間を一人残らず殺したいのかよ!なんて領主だ、こんな街にいたら殺されちまうぞ!」
「私が領主であり、この商会の代表であるクレハです。ご友人の治療はこちらで行います。問題の醤油を確認させていただけますか?」
その言葉を聞き男はニヤリと笑みを浮かべる。
「そう言って、証拠の醤油をすり替えるつもりじゃないんですか!毒を売りつけるような商会なんですから、それくらい平気でやってくると思いますが!」
男はあくまでも強気に騒ぎ立てる。周りのやじ馬たちは今は被害者である男の味方だ。このように言われてしまえば見えないところに醤油を持っていくだけであることないことを騒がれてしまう。
しかし、これこそがクレハの狙い通りだったのだ。思わず笑みを浮かべそうになるが、必死ににやける顔を我慢するクレハであった。
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