115 陰謀渦巻く伯爵邸
とある伯爵家の一室にて伯爵家当主とその執事が向かい合っていた。
「おい!例の件はどうなっている?今頃はあの小娘の領内で例のうわさが広がっているころか?」
伯爵のその問いに執事は冷や汗をかきながら現状を答える。
「それが、どうやら一度はそのうわさが広がったものの、ある時を境に急に広がらなくなり、今ではそのようなうわさも耳にしなくなってしまいまして。」
その答えに伯爵は顔に血管を浮かべ怒りをあらわにする。
「どういうことだ!貴様言ったではないか、街でうわさが広まれば商人たちが瞬く間に国中にその噂を広げ、あの領に足を運ぶものはいなくなると。」
「も、申し訳ありません。予想以上に噂の広がりが悪く、むしろ最近では新たなうわさが国中に広がっていまして。」
「なんだその噂とは、わしの耳には入っていないが。」
「そ、それがですね・・・。」
執事が言いよどんでいると伯爵は机をたたき執事を怒鳴りつける。
「良いからさっさと話さんか!」
「はっ、はい。どうやら、男爵の治めている街ではクレハ商会という名の商会が人気のようでして、その商会の経営者は男爵のようです。その店で取り扱われている醤油なる調味料は黒い液体で見た目は悪いですが大変美味であると。
その話を聞きつけた商人たちがアルケーの街を訪れ、そこから国中に話が広がったようです。見た目は悪いですが味はとても良いので、男爵の考えることには間違えはないという噂が商人たちの中で広がっているようです。
噂自体も本当のことなので、消えることなく広まり続けています。どうやら、以前に広めた噂を商人たちが確認しようとアルケーの街に足を運んだ際に例の調味料が目に留まり、一気に広がったようです。今では貴族でさえ、それを手に入れることが難しいとのことです。」
執事の話に伯爵の堪忍袋の緒はついに切れてしまう。机の上に置いてあったグラスを執事に向かって投げつける。グラスは執事にあたり地面に落ちて割れてしまうが頭部にグラスが当たった執事も頭からは血を流している。
「なんだと!それでは、あの小娘のためにワシが手を貸したみたいではないか!貴様が必ず成功するというから任せたというのに、なんたる様だ。これではワシの羊皮紙が売れないではないか!ワシの財が増えないではないか!貴様、この責任をどう取るつもりだ。」
「申し訳ございません。お許しください。」
執事は深々と頭を下げ伯爵に許しを請う。最終的に執事の案を実行に移させたのは伯爵本人であるがそんなことは彼には関係ない。目の前の執事が失敗した。ただそれだけなのだ。
「よいか、今すぐあの娘をつぶせ!何としても潰すのだ、ワシの領地は大半が羊皮紙で売り上げを占めているのだぞ!今の状態が続けばどうなるか分からんのか、この愚図が!」
伯爵は癇癪を起こし何度も執事を殴りつける。殴りなれていないのか、伯爵は拳の痛みに気づき執事を殴るのをやめる。
「なんとしてでも潰せ!この際、多少の黒いことは気にせん。売り出しているのは見たこともないような黒い液体なのだろう。そんな怪しげなものを食べてしまって体調を崩さないわけがない。もしかすれば中身は毒かもしれんな。」
伯爵は怪しい笑みを浮かべながらクレハへの復讐をたくらむのであった。
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