10話 その夜、少女は夢を見た
俺はニーナと名乗った少女を観察した。
髪はボサボサだし、来ている服はボロボロ。
身長は150センチほどだろうが。ガリガリにやせ細ってはいるものの、金髪ショートヘアで顔だちはどちらかといえば良いのではないだろうか。
腕には赤色の奴隷紋。
「お前どっかから逃げてきたのか?」
ニーナは力なく小さく頷いたが、俺を見る目はどこか輝いていた。
「カナタ、どうするの?」
「んーって言っても事情も分からないし、他人の奴隷を勝手に連れてくわけにもなぁ」
ロイと悩んでいると、近くの茂みから二人の男が現れ、荒げた口調で声を上げてきた。
「ガキが何で生きてる! お前らは誰だ!」
俺はロイと顔を見合わせると、面倒ごとだなとアイコンタクトで意思疎通をした。
ロイが落ち着いた雰囲気で言葉を返す。
「あのーどちら様で?」
「黙れ! いいからその女をこっちに渡せ!」
男達は片手に剣を取り出し、こちらを威嚇してきた。
(これってテンプレ的な展開だよね? とりあえずこいつら悪そうな顔してるし殺しとくか?)
ただ、何も事情を聞かずに殺すのも良くないと思った俺はニーナへ確認をしてみた。
「ニーナ、あれってお前の主人?」
またも小さく頷く。
「逃げてきたって言ってたけど、なんで?」
「……このままだと殺されちゃうから」
「ニーナはどうしたい?」
「……死にたくない」
その返事を聞いた時に、俺の行動は決まった。
男達に振り返った俺ははっきりと伝える。
「この子は渡せない」
「誰だか知らねぇけど、そいつは奴隷なんだよ! ニーナその場で死ね!」
男がナイフをニーナの足元に投げ声を上げると、ニーナの体がゆっくりと動き出す。
「い……嫌だ」
必死に抵抗するニーナだが、奴隷の制約には抗えない。
それを見ながら、男達は満足げな顔をしている。
「さっきまでは声が届かなかったが、この距離なら主人の俺には逆らえないだろ」
ニーナの右手がナイフの柄を握り、喉元近くへと徐々に動いていく。
「ほいっとな」
俺はニーナの奴隷紋の上に奴隷鑑を押すと、先ほどまであった赤色の奴隷紋は消え、青色の雷模様に変わった。
「え?」
「え?」
「……え?」
男達とニーナ本人も驚きを隠せない。
「お、お前! 今何をした!」
「え? 何って奴隷の上書きだけど」
「上書きだと?! そんな……そんなことが出来るはず……。ニーナ!今すぐ喉を切れ!」
怒号を上げ命令するも、ニーナが従うことはない。
「よーし、これでお前は今日から俺の奴隷だ。嫌か?」
今度は首を横に振るニーナ。
目の前で起こっている出来事が信じられず固まっているが、確かに今、自分の人生が大きく変わった事を感じ取ったのだろう。
突然涙が溢れ、その場に座り込んでしまった。
「そんなことがあってたまるか! ふざけやがって! 全員この場で殺してやる!」
剣を振り上げた男達が走りだした。
「カナタ! 早くやっちゃって!」
カナタの強さを知っているロイだが、流石に殺意に溢れこちらに向かってくる男達を怖がっているのだろう、かなり慌てふためいている。
戦闘を走っていた男が俺の首目掛けて横一線に剣を振るが、当たるわけもなく最小限の動きでかわす。
剣を空振りしたことでがら空きになった脇腹目掛けてこぶしを振ろうとすると、男の微笑んでいることに気が付いた。
「馬鹿が! 素手の攻撃が俺に聞くものか! スキル、身体硬化!」
「雷体」
グジュウウウウーー
九の字に曲がった男は、言葉を発することなく地面に倒れた。
それを見たもう一人はさらに声を荒げて向かってくる。
「ふざけやがって! スキル! 速度向上!」
通常の2倍ほどの速さをまとった、男の素早い突きが目先まで迫る。
体を回転させながら避け、回転の反動を利用した回し蹴りが男の腹部に決まった。
グジュウウウウーー
男は後ろに吹き飛ぶと、木の幹に体ごと埋まりこんだ。
「ふぅ。一件落着」
ロイの方へ振り返ると、親指を立てて満足げな顔をしていた。
「さて、とりあえず先へ進みながら話を聞くか。 ニーナ歩けるか?」
ニーナは涙目でこちらへ顔を上げると、コクリと返事をするのだった。
シエンタまで7割ほど進んできたところで、辺りが暗くなってきた。
「今日はここで野宿だな」
俺がそういうとロイは座れそうな場所を探し腰をおろすが、ニーナは座ろうともせず、その場に立ちすくんでいた。
「どうしたニーナ? どっか痛むか?」
「ううん。」
特に怪我もしていなそうだが、どうしたのかと思っているとロイが軽い口調でいう。
「奴隷だからって気を使わなくていいんだぞ。」
そういうことかと俺は納得する。
ここまで来る道中でニーナのこれまでの話は簡単に聞いたが、生まれたときから奴隷というのはどれだけ辛いことなのだろうか。
一人でいるとき以外は座ることなど許されていなかったのだろう。
「ニーナ、すぐには慣れないだろうけど、これからは自分の意思でしたいことをしていいんだぞ。座りたいときに座って、食べたいときに食べて、泣きたいときは泣けばいい」
ニーナはゆっくりと地面に腰をおろした。
「さぁ、食事にしよう」
地面に落ちている小枝を広い集め、スキルで発火させ火を焚べる。
俺はパンを取り出しそれを少し温め、ニーナに渡した。
「暑いから気をつけて食えよ」
渡されたパンを無言で一口加えると、ニーナはまた泣き出してしまった。
ニーナは二人の男の間で横になっていた。
左右に首を振り二人を見ると、共に穏やかに眠っている。
普段のこの時間であれば、どこかの部屋で叫ぶ声が聞こえていた。
今日はとても静かだ。
パチパチと音を立てる火の音が心地よい。
ニーナは星がきらめく空を見上げる。
願わくば、ずっとこの時間が続けばいいのにと静かに瞼を閉じた。
一人の女性がこちらに微笑んでいる。
「ニーナ。あなたは生きて。幸せになって」
ニーナは小さく頷く。
その夜、少女は夢を見た。
コロナの関係で仕事など色々あり更新ができておりませんでしたが、落ち着いたのでこれから更新を頑張りたいと思います。
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