01話 本日は、晴天なり
眩しい……
目の前が明るすぎて直視できない。
そう思っていると、段々と明るさが調整されてきた。
そして、次第に人影が見えてきた。
「おめでとうございます。あなたには新しい命を与えます」
心が安らぐような、優しく上品な声が響き渡る。
だが俺は、その言葉に反応することはできなかった。
辺りを見渡すと、小さな部屋に暖炉が一つ。
パチパチと音を立てて燃えている。
……暖炉?
確か今日は7月7日。
なんで暖炉がついている。
いや、そもそもどこだここ。
「どうやらとても冷静な方で安心しました。記憶に不備があるといけないので、自分のこと、今日の出来事を思い出してみてください」
目の前の少女がそう告げるので、俺は記憶を遡る。
俺の名前は彼方。
年齢28歳。身長普通。顔普通。
ただの会社員で普通の人間。
確か今日はゲームで知り合い、同じチームを組んでいた仲間達とオフ会をしていたはずだ。
ゲーム内での名前もカナタ。
飲み会が終わって外に出たが、梅雨本番ともいえる大雨が降り注いでいた。
電車も止まっていて、とても帰れそうにはなかった。
ただチームメンバーの一人が車できており、全員が同じ方面に住んでいたので、家まで送ってもらうことになったんだっけ……
あれ、その先が思い出せない。
眉間にシワを寄せながら思い出そうとしている姿を確認し、少女が口を開いた。
「彼方さん。あなたは車に乗った後、不運にも土砂災害に巻き込まれて亡くなりました。」
「え……俺死んだの?」
「はい。残念な事に」
土砂災害。その単語を聞いたとき、先程まで曖昧だった記憶がよみがって来た。
山道を走っているとものすごい音がした。窓の外を見ると大きな壁としか思えない、土や木の塊がすぐそこまで迫ってきていて……
俺は声を出すこともできず、目を閉じたのだった。
あー。あのまま死んだのか……
ただ気になることがある。
勿論ここがどこだとか、あなたは誰で死んだのに俺という存在がいることも気になるが…
もう一度自分の周りを確認した俺は少女に問いかける。
「あのー死んだのって俺だけですか? 他の人達が見えないので……」
「現時点ではあなただけです。 ですが、もうそろそろかと」
もうそろそろ?どういう事か考えようとしたとき、周りの床に、4つの青い魔法陣が出現する。
その魔法陣から、先程まで一緒に車に乗っていた仲間たちが姿を表した。
辺りをキョロキョロと見渡している4人。
(まぁそうなるよな。)
とりあえず声をかけよう思い、俺が口を開こうとすると、チームリーダのタケさんが、俺に何もいうなとばかりに手をかざしてきた。
タケさんはそこまで身長は高くないのだが、その筋肉質な体のために手をかざされるだけで威圧感が凄まじい。
「確か俺は土砂災害で車ごとふっ飛ばされて崖の下に落ちたはずだ。そして目を開けたら謎の部屋。……きたなこれ。きた。きたきた! おい、お前ら起きろ!異世界転生だこれ!」
飲み込み早すぎないですか?
その言葉を聞いた残りの3人も次々と声を出し始める。
「まじかよ! 絶対これそうっしょ!」
「これは激アツですね」
「や、やりましたね……」
「皆様。まずは落ち着いて話を聞いてくれますか」
あまりにも飲み込みの早い彼らを見て、かなり焦り顔の少女が静かにするようにと呼びかける。
「話を聞いてくれるようで安心しました。皆様の言う通り、これは転生となります。まずは経緯を説明させていただければと思いますが、よろしいでしょうか」
全員の顔を一度見渡し、反論がないことを確認すると少女は今回の転生について説明をしてくれた。
転生先の世界はアリネクレイ。
かつて勇者が魔王を倒し、平和が訪れた世界。
その世界には広大な大陸が一つしかなく、そこに5つの国がある。
デランシア王国、マリーヌ王国、レカモン王国、サンスピーク王国、アンカー王国
魔王を倒し平和を得たはずだったが、それは一時にすぎず、5つの国々は世界を我が物にしようと今度は人間通しで争い始めたのだった。
それを見兼ねた勇者は、二度と争いが生まれぬよう、生命の全てを使い国境に結界を作った。
それから数百年。国通しの争いは終わり、それぞれ長きに渡り繁栄したのだった。
「いや、もう救われてんじゃんその国……」
俺は素直に思ったことを口にすると、少女は悲しそうな顔で答えた。
「ここまでであれば本当に救われていたのですが…実は最近になって魔王が復活してしまったのです……」
「私たちは、その魔王を倒せばいいってことですか?」
状況を理解したのか、5人の中で一番細身でメガネをかけたスレイさんが少女に質問した。
「まぁ単刀直入にいえばそうなのですが」
「ただ魔王を倒せばいい、という事ではなさそうですね」
「はい。アリネクレイでは5つの国の王族が特殊な力をもっていまして、その力を集結させないと、魔王城へのゲートが開きません」
「つまり魔王を倒す前に、人間の争いを止めるか、その力をもつ王族の力を手に入れなければならないのですか」
「そういう事になります」
つまりどこかの国に俺たちが転生し、その国をまとめあげ、国境の結界を解き、他の国にも協力を依頼して魔王を倒しにいけばいいのか。
そう考えていると、リーダーのタケが全てを理解したというような顔をした。
「よし。とりあえずあんたは天使かなんかわからないが、そういった存在だということだな」
「皆様方の世界で言うなれば、そういった存在になります」
「じゃぁ転生先だとか転生にあたって、何か俺たちに力とか与えてくれるのか?」
「転生先の国は皆様方でお選びいただけますが、年齢はアリネクレイにて成人とされる18歳の誰かで、誰に転生するかまでは決められません。またアリネクレイでは個々体にレベルがございますので、皆様にはレベル80の恩恵が与えられます」
「レベル80といっても凄いのかわからないな。その世界のこと、もう少し教えてほしいんだが」
そして少女は先程よりも詳しくその世界について語ってくれた。
アリネクレイでは個々体にレベルと生まれた時に天命を授かるそうだ。
農民・騎士・魔士・魔物使いなど数十種類ほどあるようだが、極稀に○○帝のように帝の文字がつく天命があり、これを授かると人智を超えたスキルを手にすることができる。
個々体は魔力を持っており、レベルや天命によって大きく変わる。
ただし普段やっていたゲームのようにHPなどはなく、どんなにレベルが高くても間違って毒を飲んでしまったり、心臓を刺されれば死ぬ。レベルが上がると生命力は強くなるようで、同じ毒を飲んだり体を切られても生命力が高いほうが死ににくくはなるようだ。つまり1vs1ではレベルが高いほうが圧倒的に有利だが、レベル高位を倒す方法はいくらでもある。
レベル80に関しては転生時に与えられるレベル上限であり、アリネクレイでいうと上位1%には入るが、レベルの上限はなく、ある国には最高レベル120がいるとのこと。
そして種族も異世界というだけあり数十種類の種族はいるが、どの種族もあまり力はなく、どの国も人間を主体で成形されているらしい。
一通りの説明を聞いたあと、高身長で顔立ちの良いチャピオさんが質問をした。
「それ以外に僕達に与えられる恩恵とかはないの?」
「いえ。何でも与えられるわけではありませんが、一人に付き2つ望みを叶えます」
「例えばどんな望みが叶うの?」
「例えばですが、アリネクレイではレベルに応じて装着できる装備が増えていきます」
「つまりレベル80に相応しい装備をもらえるってこと?」
「はい。またこちらから勝手に転生させてしまうので、天命なども決めていただくことが可能です」
「りょーかい。じゃぁみんなで相談してきめようか」
先程まで少女を見ていたチャピオさんが仲間達へ顔を向けると、チームリーダのタケさんが今度はニヤニヤしながらチャピオさんへ問いかける。
「チャピオさん。相談いらなくね?」
「どういうことっすか?」
「転送できる国は決められる。5つの国があって、そしてここに5人いる」
チャピオさんが少し考え、何かを悟ったのか先程までの真面目な顔がタケさんと同じ顔をし始めた。
「あぁ、そうっすね」
「そういうこと。じゃぁ各々欲しい物を伝えてさっさと転生しよう」
……え?どういうこと?全然わからん!
俺がどういう事か考え込んでいると、チーム最年少で小柄なピカさんが、俺に耳元で囁いてきた。
「あ、あの……昔からタケさんチームメンバーとも戦ってみたいっていってたから……5人それぞれ違う国に飛んで、誰が魔王を倒すか競争したいんじゃないかな……なんて」
え?そんな理由でハードモードにされても困るんですけど。
せっかく新しい命を貰えるのに、無駄にはしたくない。
すぐさまタケさんへ交渉を開始する。
「タケさん!さすがにどんな事があるかもわからないのにそれはハードすぎます!」
「別に協力しあわないって訳じゃない。一つ一つ国を回ってたら時間がかかるだろうし、それぞれが転生した先の国をまとめ上げて結界破って魔王討伐のほうが効率いいだろ?」
「いや、そうかもしれないですけど危険すぎません?」
「危険かどうかより同じ国でスタートって方が嫌だな。俺はゲーム始めるときに種族とかキャラとか身内でかぶるのが我慢できない」
「そんな理由で死にたくないですよ! そもそも皆さんは色んなゲームしてたりアニメとか小説読んでるかもしれないですけど、俺は皆さんと出会ったあのゲームが初めてくらいですし他の知識だってそんなにないんですよ!!」
「まぁそれはお前がリアルを充実しようとした結果だから諦めろ」
ダメだ。
タケさんはもう心を決めてしまっている。
こうなれば他の3人を説得して、なんとか3人でスタートしなければ。
「他の方はどう思います?」
「私はタケさんと同じ意見です」
「僕も同じかな~」
「あ、自分も……バラバラのところのほうが……面白いかなって」
あ、ダメだこの人達。
ゲーマーってみんなこうなの?命よりも面白さなの?
「そうと決まれば転生順はじゃんけんだ!」
もうどうにでもなれ……という感情しか湧いてこなかった。
じゃんけんの結果、1番はタケさん。続いてピカさん、チャピオさん、スレイさん、そして俺が最後に決まった。
「あの、決まりましたか?」
俺達のやりとりをずっと見ていた少女がもういいかな、といった表情で俺に問いかけてきた。
「あ、決まったんで大丈夫です」
「それでは一人ずつ願いをお聞きして転生を開始します。ただ…」
「どうしました?」
「今更なのですが、アンカー王国に関しては少々問題が……」
嫌な予感しかしない。
「問題というと?」
「はい。最初にお伝えした通り、魔王が復活はしましたが以前のような力はなく、現在は力を溜めている時期です。魔王の力の根源は人々の負の感情であり、負の感情を回収するにはやはり人間を襲うのが一番で……」
「そのアンカー王国って結構やばい状況です?」
「まぁその……はい。アンカー国土のちょうど真ん中あたりに王都があるのですが、西側の3分の1は魔王の配下によって蹂躙されており、王都も魔王の軍勢を止めるのに精一杯となっています。」
「まぁでも止められてるんでしょ?」
「魔王の軍勢は止めておりますが、王都はそちらに注力するしかなく、人々の統治は手がもう届いていないといいますか」
「内乱とかそんな感じ?」
「ご想像されているよりも酷いかと……。東と南に関して言えば盗賊なども増え、都市や街の王都管轄の建物、城なんかも悪い組織に落とされ、奴隷制度ができていたりするので……」
あぁ。俺の第2の人生ここで終わりました。
「タケさん、これ男気じゃんけんでしたっけ?」
「俺はゲーマーだからそんなじゃんけん聞いたことない」
「あーそうですか! 皆さん頑張って世界救ってください!」
「まぁそんなすぐに死にはしないだろ。生きてりゃ助けるって。じゃぁ俺は先にいくわ!」
そういうと、タケさんは少女に耳元で何かをささやき、高らかに叫ぶ。
「デランシア王国!」
「あ……じゃぁ……自分も行ってきますね……レ、レカモン王国で!」
「じゃぁ僕はなんか響きが美人多そうだし、マリーヌ王国決定~」
「私はサンスピーク王国」
そしてその場には俺だけが残った。
あれ、そういえばみんな少女に耳打ちしてたけど……
「あのーすみません」
「なんでしょうか?」
「みんな何を耳元で話してたんですか?」
「皆さん2つの恩恵を伝えていきましたよ?」
あ、終わった。
あの人達根っからのゲーマだからこういうとき何があればいいのか知ってるんだ。ていうか誰も自分がもらう恩恵教えないとかなんで?意味わからないんだけど。
やばい。やばいぞこれ。
何貰えばいいんだ?とりあえず最強の装備とかか?
「では彼方さん。欲しい恩恵2つを仰ってください」
「時間もらってもいいですか?」
「異世界への転送ゲートはあまり長く開いていられません。最初に転送した方からすでに2分が立っているので、残り30秒ほどかと」
「え?そんなことある?もしかして俺のこといじめてる?」
「いえ、ゲートについて質問がなかったので。残り25秒です。ここで転生できなければ彼方さんの命は本当に消滅しますのでお気をつけ下さい」
ガチでやばい!どうしよう!
事故で死ぬわ最悪な国に転生するは運なすぎだろ!
人は危機的状況ほど冷静になろうとする脳の作用が働く。
今の俺は危機的状況すぎて脳が落ち着きを取り戻してきた。
そして……考えることをやめた。
うん!考えたってわからないし!
もう普通に欲しい物にしよう!
「お金と幸運がほしい!」
「かしこまりました。それではアンカー王国へ転生させます」
俺の平凡だった人生が終わる。
波乱万丈な第二の人生がここから始まるんだ!
段々と瞼が重くなってくる。俺の意識はそこで一度途切れた。
ほんとに一瞬の出来事だったのであろう。
俺の意識はすぐに回復し、ゆっくりと目を開けた。
土の地面が見える。いや、天井か。
体を起こすしてまずは辺りを見回す。
(洞窟……いや部屋か)
見渡す限り土。部屋のようにはなっているが、壁も天井も地面も全てが土のようだ。
洞窟ではなく部屋と判断できたのは小さな小窓と隅に扉があったためで、これらがなければ地底人にでも転生したのかと思っただろう。
部屋と認識はできたが、鼻をつく臭い、そして寒さが嫌悪感をわき立たせる。
(どんな人生送ってるやつに転生したんだよ。ま、とりあえずまずはお約束からか)
アニメを多少なりとも見ていた俺は迷わず呟く。
「ステータスオープン」
レベル:80
恩恵とやらはしっかり受けられているようだ。
そうなると気になるのは恩恵で伝えたお金だが……
所持金:銅貨10万枚、銀貨10万枚、金貨10万枚。
この世界のお金の価値が全くわからないが、とりあえず俺の予想では大金持ちではないだろうかと思う。
いや、絶対にチート級の金持ちだろう。
俺は他の項目も今のうちに詳しく見ておこうと目を凝らした。
レベルの隣にスキルの項目があるが、スキル項目に何も表示がない。その横にスキルポイントが800と表示されているので、これを何かに割り振っていけばいいのだろうか。
とりあえずこの辺は後ででいいか。
あーそういえば天命がどうのとかいってたな。
恩恵で幸運もらったし、それは凄い天命をもらってるに違いない。
ステータスバーにある天命という箇所に触ってみた。
天命:奴隷
俺は静かに顔を上げ、小窓の外へと目をやる。
そして、にこやかな顔で呟いた。
「本日は、晴天なり」
始めまして。
彼方と申します。
小説を書くのは人生始めてなので、書き方としておかしい点ばかりだと思います。
誤字・脱字等なんでも思う箇所があればご指摘頂けると幸いです。
また、面白いと思って頂けたら☆評価を頂けると嬉しいです。
よろしくお願いします。




