侮辱
陽一は信じられずに、腕の中の晶を抱きしめていた。
甦るって言ったじゃないか。
もう一度会えるって言ったのに。
何で?
陽一は大きく深呼吸をして自分を落ち着かせようとした。しかし、変化のない晶を見て不安でたまらなかった。
「晶さまっ」
舞の声だった。
振り返ると、舞と瑠稚婀、そして月の使者もいる。
舞はもつれる足を必死で動かし駆け寄ってきた。
「晶さま…っ」
膝をついておそるおそる晶に手を伸ばした。
舞の目から涙があふれた。
「晶さまっ」
晶を抱き寄せると、舞は大声で泣き始めた。
「晶さまっ、わたくしも一緒に連れて行って下さいませ」
舞は、気がふれたように叫んだ。
「どういうこと? 晶はもう一度生まれ変わるんだろ?」
「いいえ。いいえ、陽一さま、もう二度と会えないのです」
陽一は衝撃を受けた。
「だって、晶はもう一度、俺の事を捜すって約束したんだよっ」
陽一はパニックになりながら、舞の肩を掴んで揺さぶった。舞は涙を流しながら答えた。
「あなたが手をかけたことによって、お二人の縁は切れました」
「嘘だ…」
陽一は目を閉じている晶の胸に耳を押し当てた。
鼓動が聞こえない。
「俺は信じないっ」
陽一が晶を揺さぶると、背後から強い力に引かれて陽一の体が吹き飛んだ。
「これ以上、婀姫羅を侮辱するでない」
慶之介が言うと、舞の手から晶を抱きあげた。
「連れて帰る」
「待てよっ」
陽一が飛びつこうとしたが、見えない力に押し出された。
「約束したんだ。俺たちはもう一度会うって」
陽一の声はむなしく、晶は慶之介と共に消えてしまった。




