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うぐいす姫 ~鬼と呼ばれた姫~  作者: 春野セイ


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会えた


 気を失ったのは一瞬だったのかもしれない。

 体が燃えているように熱くて、陽一は目を開けた。誰かの膝の上で目を覚まし、焦点の定まらない目をウロウロさせると、晶の心配そうな顔が見えた。


「晶……」


 陽一が名前を呼ぶと、晶が涙をこぼして肩を抱きよせた。


「陽一」

「やっと会えた……」

「今、血を止めている。もう少しの我慢だぞ」

「俺は大丈夫だよ。心配するな」

「心配などしておらぬ」


 晶は涙を拭いたが、白い頬に血がついた。陽一は手を伸ばして拭いてあげようとしたが、自分の腕に感覚がないことに気付いた。そう言えば鬼にちぎられたのだった。

 右腕がなくても気持ちは落ち着いていた。


「お前の綺麗な顔が汚れるから、もういいよ」

「いいわけないっ」


 その時、もうひとつの手が伸びて、陽一の肩に触れた。鬼が悲しげな顔で自分を見ていた。


「あたしも手伝う」

「二人?」

「晶に叱られた。そして、あたしたちはもう一つには戻れない」


 そう言うなり、鬼が泣き出した。


「晶になりたかった。また、あたしは一人ぼっち」


 鬼は、晶になりたかったのか。

 陽一は、鬼の気持ちを知ってかわいそうだと思った。


「俺が友達になってやる。お前は一人じゃないよ」

「ダメだ、陽一。お主は人間。ただ、我らに巻き込まれただけのこと。すぐにお主の家に還してやる。だから、体を治すことに集中しろ」

「俺の腕はないの?」

「そうではない。接合すれば元のように動く」


 晶が必死で言う。しかし、晶の手は震えていて、陽一は自分の体がどんどん冷たくなっていくような気がした。

 その横で鬼はそばでめそめそしていた。


「翁が……翁が死んで以来、あたしは一人ぼっちになった」


 鬼が突然、話し始めた。陽一は、ゆらゆらする頭で声だけを聞いていた。


「人が恋しくて、山を下りる理由を考えた。村人たちの穢れを吸えば喜んでくれる。人のためになることをしようと思った。でも、そのうち穢れを吸い過ぎたのか、心がもやもやしてきた。そんな時、赤猪子と出会った。赤猪子は村人たちから除け者にされていた。あたしは赤猪子を屋敷へ連れてかえり、一緒に暮らすようになった。初めての友達だった。でも、赤猪子をあの男はめちゃめちゃにしようとした。その時、あたしは初めて人間を殺した。気が付いたら食べていた」


 鬼の心を砕いたのが、かつての自分の兄だと思うと、心が痛んだ。


「ごめんな。傷つけてごめん……」

「もうよい、しゃべるな」

「ねえ、晶も陽一もここに一緒にいようよ」


 鬼が、晶の袖を引いて頼む。晶は首を振った。


「それは叶わぬ夢じゃ。我は月へ還り、陽一は地球へ還る。お主は、叔父上と一緒に暮らすのじゃ」


 そして、空中に向かって懇願した。


「叔父上、助けてくだされ」


 そう言うと、ぽっと小さい明かりと共に夜久弥が現れた。


「ここにいたのか」


 そう言ってから陽一を見て顔をしかめた。




「僕がいない間に何があったの」


 夜久弥は、陽一に駆け寄ると膝を突いて怪我の具合を確かめた。


「大丈夫。体はすぐに戻るよ」


 晶に安心させるように言うと、鬼がしゅんと萎れた。


「ごめんなさい。あたしが引きちぎった。だって、お兄ちゃんひどいことを言うんだもん」

「ひどいこと?」

「お兄ちゃんの心はあたしのものにならないって、でも、腕ならあげてもいいって」


 夜久弥がため息をついた。


「陽一くんにとって体の一部分は命と同じくらい大切なんだよ。彼の体は愛情だったんだ。晶もそうだ。過去の陽一郎だって、お前たちを想って自分を差し出したんだ」」

「陽一郎を食べてもお腹は減るばかりだった。あたしは陽一郎が好きだった。もっと話をして理解できる関係になりたかったのに……。差し出された右手は何も語ってくれない。どうしていいか分からなかった」

「君はもう一人じゃない。僕と一緒に生きていくんだ」

「ずっと? 離れない?」

「僕は君を大事にするよ」


 夜久弥が言うと、鬼がはにかんで少しうつむいた。


「ありがとう……。夜久弥」


 陽一の体は夜久弥の力によって腕は完全に再生され、顔に生気が戻った。晶は、膝の上で目を閉じている陽一の額をそっと撫でた。



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