安全な場所
うぐいす姫は、陽一を寝かせるとすぐに赤猪子を呼んだ。
赤猪子が暗闇から現れると、眠っている陽一に術をかけて宙に浮かせた。
「おばば、陽一を安全な場所へ連れて行け」
赤猪子は静かに尋ねた。
「姫はこれから何をなさるおつもりで」
「云ったはずじゃ、これで終わりと」
「お一人で戦うのか」
赤猪子が目を吊り上げて云う。
「今さら何を云う」
うぐいす姫も負けじと赤猪子に向き直った。
赤猪子は、うぐいす姫を強く見つめて話し出した。
「かつて、わしは村人から石女と罵られ、孤独に追いやられていた。しかし、姫だけがこのわしを必要と仰せになり助けてくだされた。あの時からわしにとって姫は命の恩人。何があってもお助けすると心に決めておった。そのわしが姫を見殺しにするとお思いか?」
赤猪子のしわくちゃの顔から涙がこぼれ、きらりと光ったかと思うと彼女は持っている力を解放した。
とたん、年若い少女に変わり鋭い目を外へ向けた。
長い黒髪が風に揺れて、白い肌は上気している。
うぐいす姫は顔をこわばらせた。
「おばば、何をするつもりじゃ」
うぐいす姫が問うと、赤猪子の手に大きな薙刀が現れた。
「わしも共に闘う」
「よせ。お主は父上が唯一愛した女性。我にとって家族も同然じゃ、おばばを助けるのは筋と云うもの」
しかし、赤猪子はうぐいす姫の云うことを聞かず、結界の方へ向き直った。
「陽一郎殿を神殿へ。ここはわしに任せて行きなされっ」
「赤猪子っ」
うぐいす姫が云ったが、赤猪子は見向きもしなかった。
頑固で高潔な志を持つ赤猪子にはもう何を云っても聞かない。
うぐいす姫は、陽一を連れて踵を返すと奥の神殿へと走った。
――おばば、陽一を寝かせたらすぐに戻る。
心で叫んで、走った。




