破
陽一は夢を見ていた。
幼い頃の夢である。
夢の中の陽一は一人だ。
誰もいない公園に自分だけ残っている。
陽一はうぐいす姫を探していた。
「ねえ! どこにいるの?」
小さい陽一は辺りを見渡した。
小さい頃、毎日それを繰り返していた。
母が迎えに来るまで、ずっと探したのだ。
空は薄墨色だ。
そろそろ母が探し始める時間帯。すると、この日、砂場には女の子の姿があった。
陽一はかけ足で近寄った。
「ねえ」
声をかけると、白いワンピースを着た6歳くらいの女の子が顔を上げた。
髪の毛が異様に長かった。
女の子には牙が生えていた。目は金色で、その女の子は鬼ごっこをしようと言った。
「いいよ。じゃんけんをしよう」
女の子はじゃんけんを知らなかった。
じゃんけんの仕方を教えてあげた。
女の子がじゃんけんに勝った。
「僕が追いかけるから、君は逃げて。じゃあ、十数えるから」
いーち、にー、さーん。
女の子は一瞬、きょとんとした顔でいたが、ハッとして走りだした。
小さい手足をフルに動かして。
十数えた終えた陽一は追いかけた。女の子は手足も短く、すぐに追いついた。
鬼が入れ替わり、陽一が逃げる番になった。
――俺は逃げた。
そう、俺は逃げたんだ。
一目散で逃げた。
鬼が追いかけてくるのが怖くて、必死で逃げた。
家にたどり着いて鍵をかけて、ドアのそばで震えた。
小さい鬼が追いかけてくるのが怖くてたまらなくて。
記憶はそれきりだ。
それ以来、うぐいす姫を探すのはやめた。
あの時の女の子はどうなっただろう。




