縁生(えんしょう)
俊介の腕で眠っている晶は弱々しく見える。
陽一は心配そうに見つめてから、俊介を見た。
「あ、晶は大丈夫?」
「大丈夫だ。疲れて眠っている。穢れを吸い込むのは初めて見たが…」
俊介はすぐにでも安全な場所へ移動したかった。
この少年は晶の居場所を教える格好の獲物なのだ。
「陽一、できればもう姫さまと会うのをやめてくれぬか」
「えっ」
陽一はショックを受けた顔をした。
「ど、どうして?」
「そなたが近づくと、姫さまを狙う敵に見つかる。そなたも見ただろう、姫さまの鬼の姿を」
「う、うん…」
「鬼を憎む人間はたくさんいる。我々はハンターと呼んでいるが、そなたが転生をくり返すと同時に、ハンターも時代ごとに力をつけて甦った。そなたが何を受け取ったのか知らないが、ハンターは超人的な力を持っている。どこにいても、そなたを通して姫さまを追い続けるであろう」
「で、でも俺たちは運命の相手…」
「そなたの記憶は18歳になれば消える」
「嘘…」
陽一は頭を殴られたような気がして、一歩後ずさりした。
「何で?」
「そなたは普通の人間だ。巻き込みたくない」
陽一は首を振った。
「い、いやだ…」
「え――?」
俊介が顔をしかめた。
「いやだ。俺、晶がどうして鬼になったのかを知りたい。もっと、晶のことを知らなきゃいけないんだ」
俊介は真顔になり、陽一を睨んだ。
「そなたは好いている女子が危険にさらされてもよいと申すのか」
晶が好きかどうか、はっきり分からない。
ただ、気になる。
晶をこのまま放っておくことはできないし、自分はうぐいす姫を知りたい。
陽一はぐっと目を上げた。
「あんたは晶を守るためにここにいるんだろ」
陽一の剣幕に俊介がうろたえた。
「そうだが…」
「俺は、晶に危害を加えたりしない。けど、限られた時間の中で、できることがあればそばにいたいんだ」
俊介の腕の中で晶がぴくりと動いた気がした。
「分かった…」
俊介が静かに答えた。
「我々もできる限り援護しよう」
陽一の胸はドキドキしていた。
自分がこんな事を言うなんて思わなかった。
けれど、晶と二度と会えなくなるなんて、絶対嫌だった。
「早く行って。晶の顔色が悪いよ」
「すまぬな」
俊介が言うが早いか、はっとすると目の前から消えていた。
「消えた…」
取り残された陽一は茫然としていたが、あたりを見渡すと、すぐに踵を返して家に向かった。
「晶を守る方法を考えなきゃ」
次第に早足になってくる。
何があっても、俺は晶のそばを離れないからな。
決意して、陽一は家に向かって走った。




