けわい(気配)
晶は、陽一の気配をさぐることができる。
二人はすぐに見つかった。
流れるプールのそばにいて、晶たちを探していたようだった。
陽一と目が合うと、なぜか睨まれた。
晶は足がすくんだ。
どうしてだろう。せっかく舞と二人きりにしてやったのに、なぜ、睨まれるのか。
「晶さまっ」
舞が飛びついてきた。
「泳がなかったのか?」
舞の体はすっかり乾いていた。
「晶さまが心配で…」
「大丈夫だと申したのに」
「晶ちゃんがアイスクリームを食べたいって言うから、食堂に行こうよ」
朋樹が言って、四人はプールから少し離れた食堂へ向かった。
「流れるプールは楽しかったぞ」
晶が言うと、舞は首を振った。
「わたくしは少し疲れました」
「そうか」
食堂は人で賑わっていた。
カウンターに行き、晶は抹茶バニラアイスを他の三人はソフトドリンクを注文した。
晶の隣に朋樹が座り、話しかけている。晶は軽く頷いて、朋樹に笑いかけた。
陽一は舞と話をせず、朋樹と晶の様子を見ていた。
「アイスクリームが好きなんだね」
朋樹の声が耳に入って来た。
「好きじゃ」
晶が髪をかけ上げるしぐさを見ると、陽一はどきりとした。
さっと目を逸らして、舞を見た。
「舞ちゃん、泳ぎに行こうか」
「せっかく来たのだから、舞も泳ぐといいぞ」
晶が提案すると、舞はしおらしく頷いた。
「はい」
その後、プールで少し遊んだ後、四人は帰ることにした。
駅に着いて、朋樹が家まで送ると申し出た。
「ここでよい」
「夜、メールしてもいいかな」
「かまわぬぞ」
晶が頷くのを見て、陽一はいらいらした。
「俺も舞ちゃんと連絡を取りたいんだけど」
「陽一さま、わたくしも晶さまと一緒に使いますので、ご連絡下さいませ」
「でも…」
「我は人の物を見る嗜好はない」
晶がそっけなく言ったが、陽一は憮然としたままだった。
「何だ、何を怒っておるのだ?」
「べ、別に怒ってないけど」
どきりとして、陽一は晶と目を合わせられなかった。
まさか晶に、朋樹と仲良くするな、などと言えるはずがない。
「じゃあな」
陽一は朋樹の肩を突いて促し、晶たちと別れた。
二人が見えなくなると、朋樹は大きなため息をついた。
「晶ちゃん、女神さまだ…」
「はあ? どこが」
「まあ、お前は舞ちゃんを見てればいいんだよ」
「朋樹、お前、うぐいす姫に会いたかったんだろ」
陽一がイラついて言うと、朋樹はにこっと笑う。
「うん。でも、もういいんだ」
「えっ」
朋樹の変わりように陽一の方が驚く。
「どうしてっ」
「僕はきっと、晶ちゃんのような女の子を探していたんだと思う。じゃあな」
朋樹はそう言うと自分の家に帰った。
陽一は少しの間立っていたが、ようやく歩きだした足取りは重かった。




