~舞踏会・前編~
シュール(以下シュー)「ふ、ふふ……ふはははははは! とうとう来たぞ! 私の時代が!」
睦月 「……あ~、お付きその二から提案だ。俺は王子のお付きだ。……そうだな? 涼斗」
涼斗 「ああ、お付きその三として肯定するよ、睦月」
睦月 「ここで、人に傅かれることに慣れていると思われる、お付きその四の、由梨亜のお父さんに訊きたいんだが……」
峯慶 「……何だい? 富実樹の友人である、睦月君」
睦月 「……お付きが主をぶっ飛ばすのは、ありですか?」
峯慶 「……通常の場合は、厳罰物だが……今回の場合は、花鴬国第百五十二代国王花雲恭峯慶として、許可しよう。……睦月君、我が娘と、その婚約者の代わりを、今君に委ねる」
睦月 「実の父親からの許可が出て、安心したぜ……。んじゃ、遠慮なくっ!」
ドゴッ! グガッ! ドカッ!
シュー「グハ……う、ゲフ……」
峯慶 「良くやったね、睦月君。だが、もっと徹底的にやっても良かったのではないかな?」
睦月 「はあ、俺もそう考えたんですけど、こいつって、もう歳が歳でしょう? この糞爺をあんまり痛め付け過ぎて死なれても困りますし。のちのちの楽しみがなくなりますよ」
峯慶 「ふむ……それもそうか。だが、こ奴は今でも現役の大臣だから、大丈夫かとも思ったが……そうか、確かに老人と言えば老人だな。私の亡くなられた父上くらいの歳だ」
睦月 「そうですよ。いくら今のご時世が平均寿命百歳越えでも、これぐらいになったら充分身体が言うこと利かなくなりますし。……って言うか、おいくつなんですか? 父親が七十代ってことは……四十代くらい?」
峯慶 「ああ。私は今年で四十六になる。まだ四十五だがな。ふむ……考えてみると、私が宗賽大臣に謀られて意識不明となった後、父上の花雲恭籐聯が崩御なされた訳か。……とんだ親不孝となってしまったな。今でも私は意識不明の重体だし……」
ユリア「あのぉ……峯慶陛下。そろそろ、お話に戻れと、作者が煩いんですけれど……」
峯慶 「む……そうか。致し方ないだろう。私も彼女によって創り出された生命だからな。言うなれば創世者だろう作者の言うことは、(一応)聞かねばならないだろう」
ユリア「って言うか……作者が、峯慶陛下の口調が書きにくいから、あんまり喋るなって言ってます……」
峯慶 「…………(絶句)」
ユリア「何か、あたしみたいな砕けた口調とか、陛下や先王陛下みたいな女性の堅苦しい口調とか、峯慶陛下以外の男性の堅苦しい口調は書き慣れてるらしいんですけど、峯慶陛下みたいに、高貴な男性の少し砕けた感じって、すっごく書きにくいらしくて……。おまけに、第Ⅱ部と第Ⅲ部で、全然出てないじゃないですか。だから、頭が阿呆な作者は、すっかり峯慶陛下の口調を忘れてしまったらしくて、なるべく喋らないで~、って懇願されました……」
峯慶 「…………」
睦月 「あ、あ~? めんどくせぇから、さっさと進めてくれねぇか? ユリアさん」
ユリア「あ、はい。了解しました。……そこに潰れてる宗賽大臣は、そのままで……」
睦月 「いい。な、涼斗」
涼斗 「あ、ああ……。(さ、逆らえねぇよ!)」
ユリア「じゃ、じゃあ、状況説明から。……ここは王子の控え室です。部屋の中には、王子のシュールと、お付きの睦月、涼斗、峯慶陛下がいらっしゃいます」
涼斗 「……お付きなのに、陛下?」
ユリア「突っ込まないで下さい。他のお付き役である聡とレイシャは、他の所で出します。……だそうです。理由は、聡がいるとうざいし人数多過ぎて絡ませにくいからで、何でレイシャもかと言うと、一人だと若干可哀想な気もしないでもないから、だそうです。……あの、そろそろ起きればいいんじゃないですか? 宗賽大臣。台詞ですよ」
シュー「(忌々しい小娘がっ……!)まあ、良かろう。ふ……涼斗よ。今宵の舞踏会には、国中の美姫が揃っているそうだな。私の、花嫁候補として!」
涼斗 「……はい、殿下」
シュー「ふふふ……どんな娘が揃っているのか、楽しみだな」
ユリア「ここで、場面が変わって――」
峯慶 「ちょっと待ってくれ。……台本によると、私達の出番は、ここだけのようだが……?」
ユリア「はい。ここで、峯慶陛下と睦月さんと涼斗さんの出番は、お終いだそうです」
睦月 「……俺は、もう何も言わないぞ。涼斗、お前もだろう?」
涼斗 「あ、ああ……。別にいいよ。特に興味もなかったし。睦月もだろ? 由梨亜のことは心配かもしんないけど、千紗がこっちに出て来ない時点で、お前――」
睦月 「ああ、激しくどうでもいいな」
涼斗 「出たよ、やっぱこうだよな……。一体何回、この調子で惚気られたことか」
睦月 「ん? 何か、言ったか? 涼斗? なぁ?」
涼斗 「い、いや、何も……。(怖ぇ……!)」
睦月 「んじゃ、俺らの出番終わり~! あとは高みの見物でもしようぜ。涼斗。……えっと……由梨亜の遺伝子上の父親さんも……」
峯慶 「……実に新鮮な呼び方だな。まあ、仕方がない……。それが運命だと言うのならば。ああ……いくら仕方のないこととはいえ、私が富実樹と現実世界で再会できるのは、一体いつなのだろうか……」
ユリア「え、え~、っと、飛ばします! 所変わって、ここは馬車を降りた先王陛下の所です!」
由梨亜「ユリアさん……なんか、自棄になってない……?」
ユリア「もういいです! 色々と吹っ切ります! どうせ、もう本編じゃあ出番なんてっ……!」
由梨亜「……もう面倒臭いから、スルーしていい?」
ユリア「ええ、どうぞ……。宗賽大臣とかにやられるとムカつきますけど、先王陛下でしたら……」
由梨亜「じゃあ、遠慮なくスルーするわね。ああ……それにしても、何て素敵なんでしょう! とても立派なお城。私なんかじゃ気後れしちゃうわ」
藍南 「いいえ、お嬢様。魔法使いさんが用意したドレスも靴も髪型も、全部お似合いですよ。白いから、花嫁いしょ――」
瑠璃 「ヒヒーン!」
グシッ!
藍南 「ゲフ……あ、お花畑が見える……」
由梨亜「まあ、瑠璃。乱暴は駄目よ? 本当は私のお母様だから、花嫁衣装なんて言葉が気に入らなかったのかも知れないけれど……馬の蹄で蹴られたら、か弱い人間はすぐ死んじゃうわ」
瑠璃 「ヒヒーン! ブルっ!」
由梨亜「あ、いいえ、お母様。別に、手加減したことは疑ってないわ。だって、藍南だってこうして生きてるし!」
藍南 「生憎、瀕死ですよ……」
ユリア「……戻していいですか?」
由梨亜「どうぞ」
ユリア「え~、綺麗なお城に見惚れながら、由梨亜はお城の中に入りました。魔法使いにもらった招待状も、怪しまれることなく、すんなりと大広間に入ることができました」
由梨亜「さすが麻箕華、私の異母妹だわ。ふふ、うふふ……異母姉として、鼻が高いわね」
ユリア「……あの、ご機嫌な所を申し訳ないのですが、台詞を……」
由梨亜「……チッ。まあ、とても広いわ。それに、とても沢山の人がいて……私なんか、目立たないわ。この際だから、雰囲気だけ楽しみましょう! 私は壁の花でいいわ」
ユリア「そう言って由梨亜が壁際によると、広間の前に、侍従らしい恰好をした少年がっ……?! レイシャ!」
レイシャ(以下レイ)「あ~! やっほ~っ! ユリア~、そこにいたんだぁ~っ!!」
ユリア「れ、レイシャ、あんた……男装?」
レイ 「ん~ん~! 身体ごと、性転換中~! まるごと男だよ~!」
ユリア「あ、なんか、目眩がする……」
由梨亜「……大丈夫? ユリアさん。私、藍南が男になってもそうびっくりしなかったんだけど……」
ユリア「だ、だって……! はしゃぐのがだ~いすきなぴっちぴちの典型的な今時の女子大生が、ですよ? ノリッノリで性転換しちゃったんですよ! 藍南さんはまだショック受けてたからいいんですけど、レイシャ、絶対に何か仕出かしますよ……」
レイ 「んっふ~。さっすが一緒に暮らしてる仲はあるね~。ま、楽しみに待っててね~! ユリア、ぶっ倒れないよおに~!」
ユリア「せ、先王陛下! あたし、ちょっとかえっ――くっ! 身体が……動かない!」
由梨亜「ユリアさん……諦めましょう? ユリアさんはナレーターっていう名の進行役ですから」
ユリア「さ、サラッと言わないで下さい……! イケニエなんか、やだっ……!」
レイ 「あはは~! 怯えてるユリア、おっもしろ~い! んじゃ、次回予告はあたしから! 次回は『舞踏会・後編』! ふっふ~! ジジイの王子と女子大生のお姫様のダンスにご注目だね~! うふふ! あ~楽しい!」
ユリア「ちょっとレイシャ! あたしの台詞盗んないでよ! って言うかキモ! 激しくキモい!」
レイ 「んもう、酷いなぁ~。こ~んな可愛いあたしを捕まえて、キモいだなんて~!」
ユリア「やめい! 鳥肌が消えない……! オカマかお前はっ~!」
レイ 「オカマで結構~! んじゃ、次回も宜しくぅ!」
これ以降の出番がない人達による座談会
峯慶 「ああ、富実樹……。配役がもう少し違えば、この常世とも言うべき世界で相見えることもできただろうに……」
早理恵「御父様!」
麻箕華「御父様……? 本当に、本当に本物の御父様なのですかっ?!」
峯慶 「ん……? まさか、早理恵、麻箕華? 御前達……!」
早理恵「御父様!」
麻箕華「御父様ぁ……」
睦月 「……感動的な親子の対面だな、涼斗」
涼斗 「ああ……。う、俺、何か涙出て来た」
睦月 「ったく……涙腺弱いなぁ、お前」
涼斗 「わ、悪かったな、泣き虫で!」
護 「全くだ。男としてなってないな」
睦月 「てめぇの意見は聞いてねぇんだよ、この図体ばっかでかい野郎が!」
ガン! ドゴッ! ゲシッ!
護 「ぐっ……はぁっ……!」
睦月 「てめぇは最初っから気に入らねぇんだよ、蔡条護!」
涼斗 「あ、あ~? 睦月、あんまりやり過ぎないようになぁ……。う、唯一の常識人か。辛いよ、俺……」