~魔法使いとの出会い~
由梨亜「え~っと? ああ、私も舞踏会に行きたいわ……しくしくしく」
ユリア「見事なまでの棒読みね……。え~、マレイ達に置き去りにされた由梨亜は、ずっと泣いていました」
由梨亜「ああ、今からでも行こうかしら? あっ! 大事なことを忘れていたわ。私、舞踏会に行けるようなドレスも靴も、馬車も従者も、何一つ持っていないわ。持っているのは、ただの木靴と、つぎはぎだらけでぼろぼろの服だけ……」
ユリア「……今度は、見事なまでの情熱の入れようだわ……」
由梨亜「……だったらどうしろっていうのよ……。もう、この先に進みたくない……」
ユリア「ま、まあ……。その点は、同情しますけど……。進めないと、後ろからの殺気が凄いんですよね」
由梨亜「チッ……。いいわ、進めて」
ユリア「はい、先王陛下。――由梨亜は、屋根裏にある自分の部屋で、ずっと泣きじゃくっていました。その時です。知らない声が聞こえました」
麻箕華「もし……。そこの方? 何故、御泣きになられておられるのです?」
由梨亜「え……誰?」
麻箕華「わたくしの名は、麻箕華。魔法使いですわ」
由梨亜「まあ、魔法使いなの? 私、魔法使いって、男の人かお婆ちゃんかと思っていたわ。それが、私よりもずっと若い女の子なんて!」
麻箕華「え、ええ……。いくらあと少しで十七歳になると言いましても、国で重要な役職に――大臣職に就いていると言いましても、わたくしはまだ十六歳ですし……。わたくしも、少し配役が可笑しいとは思ったのですが、籤ですから仕方のないことなのではないでしょうか? 富実樹御異母姉様」
由梨亜「麻箕華も早理恵と同じか……。富実樹御異母姉様じゃなくって、由梨亜って名前で呼ばなきゃ変でしょう?」
麻箕華「あっ……。そうでしたわね。これはお芝居でしたもの。わたくしとしたことが……。鴬大臣失格ですわ」
由梨亜「……それとこれとは関係ないと思うけど……。でも、麻箕華は芝居っ気あるのね」
麻箕華「勿論、富実樹御異母姉様――ではなく、由梨亜さんと長く話せるのであれば、これくらいのことならばいくらでもやりますわ。本当に……何年振りでしょうね。こうして直接御目に掛かれるのは。作者さんに感謝致しますわ……」
由梨亜「……そう言えば、この流れの中で作者に心から感謝したのって、麻箕華だけじゃないかしら? 早理恵が前の後書き欄で、若干それっぽいことも言ってたけど……」
ユリア「……とにかく、話を続けませんか? 脱線が激し過ぎて、ちょっと……」
由梨亜「ああ、そうだったわね。……ん? 次、誰から?」
ユリア「……鴬大臣殿下からです」
麻箕華「ええ。分かりましたわ。――ほら、そんなに御泣きにならないで下さいな。由梨亜。折角の可愛らしい御顔が台無しですわ。ほら、これで涙を御拭き下さいな」
由梨亜「(……何だろう……。護とか聡がこんな台詞を言ったり作ったりするとムカつくのに、麻箕華がにっこり笑って言うと、凄い安心するって言うか、落ち着くって言うか……。何、この差? 人徳の差かしら?)……まあ、魔法使いさん、ありがとうございます……。グス」
麻箕華「いいえ。これぐらいのことは、何でもありませんわ。それより、貴女はどうして泣いておられたのですか?」
由梨亜「あ、あの……舞踏会に、行きたかったんです」
麻箕華「舞踏会? 今日、御城でやっている?」
由梨亜「はい。でも、私……舞踏会に着て行けるようなドレスなんて、持っていないんです。靴も、今履いている木靴しかありませんし、足となる馬車も何も……。それに、招待状がなければ、お城には入れないでしょう? 招待状はお義母様達が持って行ってしまったから、それもなくて、お城には入れないんです」
麻箕華「まあ、それは大変でしたわね。それならば、わたくしも協力できそうですわ」
由梨亜「本当ですか?!」
麻箕華「ええ。そうですわね……。かぼちゃはありますか?」
由梨亜「か、かぼちゃ? はい、お台所に……」
麻箕華「あとは、そうですね……。鼠か何かを、二匹ほど知りませんか?」
由梨亜「えっと……飼ってる(?)鼠が、二匹います」
麻箕華「そうなのですか? では、その二匹の鼠を連れて、台所まで御越し下さいませんか?」
由梨亜「はい。分かりました」
ユリア「そうして、由梨亜は藍南と瑠璃を連れて、屋根裏部屋から台所まで降りました。……あたしの出番がここまでないって、珍しいかも……」
藍南 「『珍しいかも』じゃなくって、本当に珍しいと思いますけど……。ここまでトントン拍子に話が進むのも」
由梨亜「あら、藍南。鼠語は?」
藍南 「~~~~~っっ! ヂュウっ!!」
由梨亜「良くできました。ふふふ……」
ユリア「な、何か不気味……」
麻箕華「ユリアさん? いくらこれが劇で、富実樹御異母姉様の今の御身分がただの一貴族であろうとも、この方はわたくしの異母姉にして、第百五十三代花鴬国国王――つまり、花鴬国の先王陛下にあらせられるのですわよ? 無礼を我慢できるのも、限度と言う物が御座いますでしょう? ねえ? 魔族の力を受け継ぎ、我が花雲恭家に絶対の忠誠と服従を誓う貴女ならば、御理解できるのではないですか?」
ユリア「(こ、怖っ……!)は、はいっ! 勿論です、麻箕華鴬大臣殿下!」
麻箕華「分かったのならば、それで宜しいのですよ、ユリアさん? 第一、富実樹御異母姉様の偽名、マリミアン様の王籍名、更には曾御祖母様の御名とまで同じ音を持つなんて、験担ぎとしては宜しいかも知れませんが、第百五十二代花鴬国国王花雲恭峯慶の第六王女と致しましては、少々気分が宜しくないのも事実なのですわ」
由梨亜「ああ、もう、麻箕華……。落ち着きなさいよ? 名前が被るなんて、よくあることじゃないの」
麻箕華「ですが、富実樹御異母姉様。『ユリア』という名前が被るのですわよ? 花鴬国史上最上の賢王と呼び名の高い、更には史上初の、魔族の力を全て揃え持っていた、あの曾御祖母様の御名なのですわよ?! 曾孫と致しましては、そう易々と容認致します訳には参りませんのですわ」
由梨亜「だから、ちょっと落ち着きなさいって。文句なら後でいくらでも聞くから、話を続けましょうよ。(……でも、麻箕華、由梨亜って呼べって言ったのに、絶対忘れてるわよね……。まあ、今の麻箕華に突っ込むほど、私も命知らずじゃないし、別にいいか……)」
麻箕華「……分かりましたわ。富実樹御異母姉様がそう仰るのであれば……。さあ、ユリアさん、御続けなさいな」
ユリア「は、はい……(何、花雲恭家も本条家も、何かと濃ゆ~いキャラが揃ってる訳……?)え~、台所に降りて来た麻箕華は、おもむろにかぼちゃを持ち上げ、外に出ました」
麻箕華「ほら、富実樹御異母姉様。藍南と瑠璃を連れて、早くこちらへいらっしゃって下さいな」
由梨亜「はいはい……。って言うか麻箕華、素に戻ってるわよ?」
麻箕華「もう、どうでも宜しいですわ」
由梨亜「うん、そっか……。あ、魔法使いさん、こっちが藍南、こっちが瑠璃です」
麻箕華「まあ、大変可愛らしいですわね。それでは、まずかぼちゃから致しましょう。えい!」
由梨亜「わぁ! かぼちゃが馬車に!」
麻箕華「ふふ。喜んで頂けて光栄ですわ。それでは、鼠さんをこちらへ」
由梨亜「はい、どうぞ」
麻箕華「えい!」
藍南 「きゃっ!」
瑠璃 「ヒヒーン!」
ユリア「…………これ、説明した方がいいですか?」
由梨亜「是非とも」
ユリア「……えー、鴬大臣殿下が掛けた魔法によって、藍南は人間の男に、瑠璃は……馬になりました」
瑠璃 「ふふ。ヒヒーン! ヒヒーン!」
藍南 「……あたしは、人間になれたことを喜ぶべきかな?」
ユリア「……喜ぶべきじゃないでしょうか? これで鼠語は話さずに済みますよ」
藍南 「……この、普段のあたしとは似ても似つかない、野太い男の声と厳つい姿でも?」
ユリア「…………(プイ)」
藍南 「うわ……見捨てられた。酷い、唯一の同士だと思ってたのに……」
由梨亜「藍南、その話し方止めて。中身は藍南だって分かってるけど、姿も声も、男なんだもの。それで話し方が女の子って、オカマに見えるわ」
藍南 「オ、オカ……由梨亜、酷い! あたし達友達でしょっ?! 裏切るなんてっ……!」
由梨亜「だから、ほんと止めて……。気色悪くて吐きそう。さすがは魔族の魔法ね。完璧過ぎだわ……。作者も、こんな所だけに花鴬国の設定持って来なくっていいのに……」
ユリア「え~……。す、進めませんか?」
麻箕華「そうですわね。次は、富実樹御異母姉様のドレスですわ。えい!」
由梨亜「うう、気持ち悪っ……って、あれ? ぐ、今度は、別の意味で気持ち悪い……」
麻箕華「ふ、富実樹御異母姉様? 一体いかがなさったのです?」
ユリア「あ、作者からの伝言です。中世ヨーロッパでは、女性はコルセットで胴体を締め付けたりするのが普通で、とある夢の国の映画では、やけにスカートを広げる、クリノリンって言う鳥籠型の下着を着けていたらしいので、それに倣いました。……だそうです」
由梨亜「う、うぐっ……。こ、これ、息苦しいんですけど! 一体、ウエスト何センチにしてんのっ?!」
ユリア「……ご、五十四、だそうです」
由梨亜「……私、ウエスト六十なんだけど……?」
ユリア「え、え~、補足です。当時のヨーロッパ貴族は、もっと細い、五十センチ未満のコルセットを着けるのが普通だったから、これでも手加減してます……?」
由梨亜「こ、これで手加減っ?! 嘘でしょっ?! くっ……息が……。そ、それに何これ?! この――クリノリン? って奴! 歩けないわよ! 第一こんな大きかったら、扉も通れないじゃない!」
ユリア「え~っと、それについても補足が。……そのクリノリンも、大分手加減しているそうです。最盛期だと、裾の周囲が五、六メートルもあったらしい、と。ちなみに、このクリノリンのせいで起きた事故――主に火災により、何千人も死んだそうです」
由梨亜「さ、最後の情報は、聞きたくなかった……」
藍南 「由梨亜……死なないでね。はい、ガラスの靴」
由梨亜「ありがと、藍南……。う、ハイヒールには慣れてるけど、このガラス、靴ずれしちゃいそう……」
ユリア「……要するに、お姫様は楽じゃないってことですかね?」
由梨亜「待って、ユリアさん。私も王女様だったし、女王だったけど……こんな苦労はしなかったわ」
ユリア「それでは、中世ヨーロッパの貴族は……で?」
由梨亜「ええ。それが適当じゃないかしら? ……って、ん? こんな所にメモが。ふむふむ……は? 何ですって?(グシャ)」
麻箕華「富実樹御異母姉様? 今握り潰された紙には、一体何が?」
由梨亜「……作者からで、『本当は、クリノリンほど裾が大きくならないパニエとか、もっとずっと楽なバッスルとか、更にはクリノリンは取り除いちゃって、その下のペティコートだけでも良かったけど、面白そうだからクリノリンにしちゃった。ごめんね』……って書いてあるわ」
瑠璃 「ヒヒーン! ヒヒーン!」
藍南 「え~っと、由梨亜のお母さん、何て言ってるの?」
由梨亜「……『いいじゃない! 面白いんだから!』……お母様、それで迷惑をこうむるのは、私なんだけど?」
瑠璃 「ブルル……ヒン?」
藍南 「……何と?」
由梨亜「……『確かにそうだけど……そろそろ長さやばいんじゃないかしら?』」
藍南 「由梨亜……頑張って」
由梨亜「うん……。麻箕華。招待状頂戴」
麻箕華「は、はい……どうぞ」
由梨亜「ありがと……。お母様、藍南、行きましょ……。ぐ、これは、こうして、えっと……こう、かしら?」
藍南 「……どうしたの?」
由梨亜「この、クリノリンとコルセットって……座りにくいのよ! やけに場所も取るし! 藍南、お母様馬車に繋いだ?」
藍南 「うん、繋いだけど……これ、普通の会話で聞いたら、相当シュールだよね……母親繋ぐとか。DV?」
由梨亜「もう、どうでもいいからさっさと行くわよ! そしてさっさと終わらせる!」
麻箕華「あ、富実樹御異母姉様。うっかり台詞を忘れておりましたわ。十二時までには、帰って来て下さいな。十二時には、魔法が解けてしまうので」
由梨亜「ええ。分かったわ、魔法使いさん」
麻箕華「それでは、いってらっしゃいませ」
ユリア「そうして、由梨亜は舞踏会に出掛けて行きました。以上、終了。次回はまんまで『舞踏会・前編』だそうです。次回をお楽しみに~……。もう、疲れた」
由梨亜「……私とユリアさんは、絶対に最後まで出番があるから、それまで頑張りましょうね……」
ユリア「……はい、先王陛下……」
これ以降の出番がない人達による座談会
早理恵「……いらっしゃい、麻箕華」
麻箕華「早理恵御異母姉様……わ、わたくし、折角富実樹御異母姉様と御会いできましたのに、も、もう出番がないなんてっ……! 酷過ぎますわ!」
早理恵「ええ、そうね。でも、こう考えたらどうかしら? わたくし達兄弟の中でこの劇に参加できるのは、わたくし達以外には、富瑠美御異母姉様と杜歩埜御兄様と些南美と柚希夜だけですわ。後の八人は、富実樹御異母姉様と会えないのです。柚菟羅や苓奈などの例外はおりますが、わたくし達は恵まれているのですわ」
麻箕華「そ、そうですわよね……。わたくし、そう思うことに致しますわ、早理恵御異母姉様!」
護 「(……何だろう、この姉妹の会話。入れない……)」
早理恵「それでは、存在感の薄い護のことなどは放って置きましょう! わたくし達は、ここで頑張るのです、麻箕華!」
麻箕華「はい、早理恵御異母姉様! ……と言うよりも、こんな方がおられたのですね。わたくし、知りませんでしたわ」
護 「(ひ、酷い……。って言うか、今回、一言も喋ってないんじゃないか……?)」