~舞踏会の支度~
マレイ「うふふふ、由梨亜。そこの掃除がなってないわよ?」
由梨亜「は、はい、申し訳ありません、マレイお義母様」
マレイ「『お義母様』なんて呼ばないで頂戴! 汚らわしい! お前は屑よ、ゴミよ、使用人ですらないわ! そうやって……え~、灰、まみれ? で合ってたっけ?」
由梨亜「合ってますわ、お義母様」
マレイ「だから、お義母様なんて呼ばないでって言ったでしょう! とにかくお前は、そうやって灰まみれになっているのが相応しいわ! ねえ、尚鈷、鈴南?」
尚鈷 「ええ、お母様。こんなのが、戸籍上だけでも『家族』だなんて、怖気がするわ」
鈴南 「は、は、はい……お母様……。ヒッ! も、申し訳ありません、由梨亜様!」
由梨亜「そこで謝ったら、意味ないのに……」
ユリア「それ、貴女が言うことですか……? ……とにかく、あたしはあたしの仕事をする。あれから何年も経ちました。その間に、由梨亜の父親の護が亡くなってしまいました」
由梨亜「はい、護退場ね。あ~、清々した」
護 「待て! 僕は前回の時点で、『これ以降の出番がない』とは定義されていなかったはずだ! なのに、何故今退場なんだっ?!」
ユリア「え~、作者からの伝言です。『本編でも出番が全然なくて、台詞も三つだけだったのが可哀想だったから、出番をちょっと延ばしたんだ。これで許してね』……どうせ、シンデレラの父親が死んでたとか、そういう設定をうっかり忘れてただけだと思うんですけど。あ、それと、シンデレラの父親って、存在感ないし。むしろ薄過ぎて、あれ、いたの? って感じだし。……と、黒のマジックペンで消された下に」
護 「は……?(愕然)」
鈴南 「な、何で分かったんですか……?」
ユリア「……そ、そこは、突っ込まないでくれると嬉しいですねぇ(……まさかこんな普通の人に、『実は諜報活動、骨の髄まで徹底的に仕込まれてます!』なんて言えないよねぇ……)」
由梨亜「取り敢えず、護はとっとと退場してくれる? あ~すっきりしたぁ。いくら劇でも、こんな奴と家族とか、考えるだけで寒気がしたもん」
尚鈷 「ほんとに嫌だったんだね、婚約者候補のこと……。千紗から色々聞いてたけどさ」
由梨亜「勿論よ、当り前じゃない。私には香麻がいるんだから。――さ、ナレーターさん。続きをどうぞ!」
ユリア「はあ……どうしてあたしばっか、こんな役回り……。えっと、続けますね。一家の主が亡くなってからというもの、継母と継姉達の横暴ぶりは、目に余る物がありました。由梨亜を人並みに扱わず、屋根裏部屋に住ませて、全ての家事を押し付けました。服も、みすぼらしい物しか与えませんでした」
尚鈷 「ほらほら、由梨亜! これ片付けなさいよ!」
マレイ「そうよ。それにどうしたの? 掃除しときなさいって言ってたじゃない!」
鈴南 「こ、これ……あ、洗って下さい……」
ユリア「また、一人だけ……」
由梨亜「煩いですよ、ナレーターさん。はい、ただ今!」
ユリア「……ともかく、こうして由梨亜は、美しい娘に成長していきました。けれど、継母達はそれを妬み、更に由梨亜を迫害します。けれど、由梨亜は独りぼっちではありませんでした。それは、屋根裏部屋に住む鼠がいたからです。由梨亜は、青み掛かった黒い体毛の鼠を藍南、栗色の体毛の鼠を瑠璃と名付け、可愛がりました。……面倒臭い状況説明とか、作者、全部こっちに押し付けてんじゃないでしょうね……? いくら文才ないからって、やっていいことと悪いことくらい、区別付かないのかしら? いや、むしろあたしが、強制的に付けさせるか……?」
藍南 「(……怖っ! 作者、さっさと逃げた方いいんじゃないかな……?)え……と! ……くっ! チ、チュウ!」
瑠璃 「チュウ! チュウチュウ! チュチュ、チュウ!」
由梨亜「あら、瑠璃? 元気がいいのね。チュウ!」
瑠璃 「チュウ~! チュウ? チュチュチュチュウ? チュウチュ!」
藍南 「何で、会話が……さすが親子?」
ユリア「…………えっと、藍南さん。あなたの役どころは、鼠その一ですので、人間の言葉はタブーだそうです……。会話に用いられるのは、『チュウ』だけだと……」
藍南 「……はっ? ちょい待って、ユリアさん。……うう、由梨亜とおんなじ名前だから、言いにく! えっと、その決まりって、作者が作ったの? ……だったら、あたしも作者絞めたいんだけど……?」
ユリア「あ、えっと、ですね。この決まりは、作者ではなく先王陛下と瑠璃さんが作った決まりですね」
藍南 「え……由梨亜と、由梨亜のお母さん? が、作ったの? この、とんでもないふざけた決まりを? ……うう、でも由梨亜なら、こんな決まりを嬉々として作りそうな気もするけど……」
ユリア「はい。……って言うか、もしこの決まりを作者が作ったなら、藍南さん、貴女は今も人間の言葉、喋れないと思うんですけど……」
藍南 「ああ、それもそうか……って、やっぱあたし無理! あそこでチュウチュウやってる二人に付いてけないよ! 特に由梨亜! 何で折角人間役なのに、由梨亜までチュウチュウやってんのっ?! 無理! 一般人のあたしにはぜぇ~っったい無理! ユリアさん! いいからもうとっとと進めちゃってっ! あたしが堪えられない!」
ユリア「はあ……。何だろう、先王陛下に言われたら、ちょっと躊躇うようなことも、藍南さんに言われたら、素直に受け取れる……可哀想過ぎて。何、この違い? 普通人か常識外れか、って違いかな?」
藍南 「いいから、早く! さっさとしないと、そこの二人、もう親子のコミュニケーションを鼠語で始めてるんだって! 何、この人外生物!」
ユリア「はい……。益々憐れになってきた……。さて、そんなこんなで日々は流れて、由梨亜やその義姉達が年頃になった頃、お城から舞踏会の招待状が届きました。その内容は、この国の王子であるシュール・リリーシャ・ウィレットが、王太子妃にする娘を探しているので、年頃の娘を集めて舞踏会を開くという物でした。この内容に、継母達は狂喜乱舞しました」
マレイ「ほら、尚鈷、鈴南、ご覧なさいな。招待状よ。王宮の舞踏会の。もし王子様のお目に留まったら、貴女達は王太子妃になるのよ(棒読み)」
尚鈷 「わーい。やったー。楽しみだなー(棒読み)」
鈴南 「そうですわねー、お母様ー。私達、頑張りますわー。必ずやシュール殿下か耀太陛下のお目に留まって、王太子妃になってみせますー(棒読み)」
由梨亜「まー、そんな舞踏会があるのですか。楽しみですねー(棒読み)」
マレイ「まー、何てことを言うのー、由梨亜ー。貴女なんかが舞踏会に行けると思ってるのー。貴女はお留守番に決まってるでしょー(棒読み)」
由梨亜「そんなー。酷いですわー、お義母様ー(棒読み)」
尚鈷 「あらー。何が酷いの、由梨亜ー。貴女なんかがー、お城に逝ける訳ないでしょー(棒読み)」
ユリア「(ん? 何か、若干文字が違った気が……き、気にしちゃ駄目だよね、うん! どうせあたしには関係ないもん! 関係あるのは、壊滅的に籤運が悪い作者だもん! あんな奴を王子役にしちゃった作者だもん!)」
鈴南 「そうよー。貴女はうちに残ってなさいー。掃除に洗濯にー、仕事は色々あるんだからー(棒読み)」
由梨亜「そんなー。私だって、舞踏会に逝きたいー。シクシクー(棒読み)」
マレイ「諦めなさいなー。貴女はうちに残ってるのよー。さあー、尚鈷ー、鈴南ー。ドレスを仕立てに行くわよー(棒読み)」
尚鈷 「はいー、お母様ー(棒読み)」
鈴南 「ただ今参りますわー(棒読み)」
由梨亜「そ、そんなー。私だってー、シクシクー……(棒読み)」
ユリア「……一体何なんだろう、この不思議空間――っと、分かんない人もいると思いますから説明しますね。王子役のシュール・リリーシャ・ウィレットは、先王陛下にとっては父の仇、そしてあたしにとっては主君の仇の糞野郎――おっと失礼、口が滑りました。そして、彼は御歳……え~、何歳だったっけ? 忘れたけど――って、え? そんな物、最初から設定されてない? だったら最初から言えっつうの。ん? ふ~ん、七十代なんだ。あいつ」
尚鈷 「だから! あたしは納得できないの! 何でっ?! あたしはまだ十代なんだよ? ピッチピチのなりたて女子大生なんだよ? なのにな~んで狙う王子が七十代なのっ?! 信っじらんない!」
鈴南 「そうですよ! それに、旦那様はまだ四十代なのですよ? なのに、その子供役が七十代なんて、あべこべではありませんか! この際、役を交換するべきです!」
由梨亜「あら、でも鈴南。そうなると、お父様と私のロマンスになっちゃうわよ? まあ、血は繋がってないけどね。ただ、私の意識としては父親だから……近親婚、ってことになるのかしら? 花鴬国では普通に許されてるけど……」
鈴南 「いいんです、お嬢様! どうせ、これはこしらえごとのお芝居なんです! 親子が恋人役で何が悪いんですかっ?!」
由梨亜「鈴南、切れ過ぎよ……」
ユリア「……もうみんな、役忘れちゃってるよ……。え? 終わらせろ? もう収拾付かないから、ここで一旦ぶちぎって次に回す? ……いいの? タイトル『舞踏会の支度』だけど。……はあ、分かったよ、伝える。え~、次回のタイトルは、『魔法使いとの出会い』だそうです。つまり、そういうことですね。ここまで読んで頂き、ありがとうございました。愛想を尽かさずに、見捨てないで下さい――だそうです。ああ、もう疲れた……」
これ以降の出番がない人達による座談会
早理恵「はい、いらっしゃいませ、護?」
護 「…………酷い。ようやく出れたのに、こんな役なんて……。聡とか早宮とかとは、どっこいどっこいの役だけど……。せめて、端役で良かったから、もっと出番が欲しかった……」
早理恵「(……憐れな。)取り敢えず、どうぞ」
護 「ああ、ありがとうございます……。ゴクゴク。ふう。もうやだ……。ここしか出番がないなんて……」
早理恵「あら、わたくしも同じですわよ? それにしても、その――サトル様? とサミヤ様とは、一体どこのどなたですの?」
護 「ああ、僕と一緒に由梨亜さんの婚約者候補だった奴らだ……」
早理恵「富実樹御異母姉様の、婚約者候補……?」
護 「ああ。早宮は白雪姫の父親役だからこっちに来ないが、聡はこっちのお付きその一だから、いつか来るかもな?」
早理恵「まあ、そうですの……。(それでは、それまでに制裁を考えておかなければなりませんわね……。作者も、意外と粋なことをするものですわ。ふふ。何をしようかしら……? 楽しみですわ)」




