~イントロダクション~
ユリア「昔々、ある所に、とても仲の良い夫婦がおりました。夫の名前は――」
護 「待った。台詞をくれ」
ユリア「……。了解しました」
護 「僕は、蔡条護。そして、こちらが妻だ」
早理恵「(……偉そうに、たかが辺境の貴族が)……彼の妻の、花雲恭早理恵ですわ」
ユリア「(早速剣呑な雰囲気に……)え~、厳つい容姿の護と、見るからにお姫様な早理恵王女殿下――じゃない、早理恵様――」
護 「おい、貴様、僕は呼び捨てで、彼女は様付けか? 割が合わない」
ユリア「え、だ、だって……早理恵王女殿下は、我が国の王女殿下なんですよ? しかも、あたしは魔族の力を引き継ぐ者として、王族には従う義務があるんです。そ、それなのに、呼び捨てなんて……」
護 「一体何の話をしているんだ? 訳が分からん。おまけに何だ、その『マゾク』って」
由梨亜「ふ~ん、護には、『大人の事情』ルールが適用されないんだ……って、別の問題発生だわ。ユリアさん、早理恵の異母姉である、私が許すわ。どうせこれは劇だもの。早理恵のことは呼び捨てにして。そうじゃないと進まないわ。あと、全員呼び捨てにしちゃって。じゃないと、この男が一々突っ掛かってくるんだもの。それに、このままじゃ私が出れないわ」
ユリア「は……はい、先王陛下――じゃなかった、由梨亜……。うう、変な感じ。おんなじ名前だし……。えっと、進めます。この夫婦は、見た目が釣り合わないながらも、大変仲のよい夫婦でした。やがて、早理恵――申し訳ありません、王女殿下。その奥さんの所に、父親とは似ても似つかない、大変可愛らしい女の子が誕生しました」
由梨亜「(結局無理なのね……)えっと、それが、この私、本条由梨亜よ。親と名字が違うとか、そこは突っ込んじゃ駄目だからね?」
ユリア「……両親は、大変この子を可愛がりました」
早理恵「ああ、何て可愛い女の子でしょう、富実樹御異母姉様――じゃなくて、由梨亜。将来が楽しみですわ。そう思わないこと? あ、あ、あ……っ、貴方!」
由梨亜「駄目ですわ、お母様。お父様に喧嘩腰では」
早理恵「…………っ! 富実樹御異母姉様……っ」
由梨亜「だから、由梨亜よ。それに、お父様は大変厳つい外見だけど、結構小心者なのよ? だから、気遣ってあげないと」
護 「ちょ、ちょっと待って下さい、由梨亜さん」
由梨亜「由梨亜」
護 「……由梨亜。その――僕が小心者っていう設定は、一体どこから引っ張って来た?」
由梨亜「原作から推測した、作者の勝手な想像。……いや、妄想?」
一同 「「「…………」」」
由梨亜「話、続けて。ユリアさん」
ユリア「は、はい……。その、女の子はすくすくと育って行きましたが、ある時、母親が、急に病で倒れて亡くなってしまいました」
由梨亜「はい、早理恵退場」
早理恵「は、早いですわ! 富実樹御異母姉様! ではなく、由梨亜!」
由梨亜「それを私に言われても……。文句は作者に言ってよね」
ユリア「……これで、大丈夫なのでしょうか……。さ、さて、愛する奥さんが亡くなった護は、大変悲しみに暮れました」
護 「……ああ、愛する我が妻よ。何故、亡くなってしまったのだ。この私を置いて、一体お前はどこに行ったのか。ああ、追い掛けられるものなら追い掛けたい。けれど、人なる我が身には、そのようなことはできぬ。ああ、生きている我が身が憎たらしい。死を迎えている身であるのなら、我が生きた至宝を追って逝けたものを(棒読み)。……何っで、こんな台詞がっ……!」
由梨亜「……ちょっと誰よ、この台本作ったの。めっちゃ気障じゃない。聡が言うのならともかく、護に言わせても駄目よ。思いっ切り棒読みなんだから」
聡 「ふ……。よくぞ気付いてくれました。由梨亜さん。確かにその台詞は、僕が直接作者に掛け合い、作らせた台詞なのですよ。ああ、貴女に気付いてもらえるとは、何と素晴らしい! やはり僕達は、運命の赤い糸で結ばれているのだ! 由梨亜さん、今からでも遅くはありません。婚約――っ! ブフッ!」
由梨亜「はぁ……。こんな奴は、蹴っ飛ばすに限るわ。しかも、出番なんかまだまだじゃない。たかがお付きその一のくせして」
早理恵「富実樹御異母姉様……かっこいいですわ……」
ユリア「……これ、どう収拾したらいいんですか? はぁ……勝手に進めろって、作者も勝手なこと言うなぁ……。じゃ、進めますよ? もう……。ええっと、護は、妻を亡くした悲しみに暮れながらも、貴族である為、妻を娶らざるを得ませんでした。そこで、二人の子供を持つ未亡人と再婚しました」
マレイ「由梨亜、あたしが貴女の新しいお母さんのマレイよ」
由梨亜「はい。宜しくお願い致します、マレイお義母様」
マレイ「(ノリノリだわ、女王様。じゃ、こっちもはっちゃけていいよね?)あたしは貴女の母親なんだから、何でも言うことを聞くのよ? そしてあたしに従い、敬いなさいな!」
由梨亜「はい、お義母様!」
ユリア「……どこの体育会系部活よ。マレイったら、ノリノリなんだから……。さて、この母親は、二人の娘を持っていました。二人とも、由梨亜よりも年上でした」
尚鈷 「初めまして、由梨亜。貴女のお義姉さんの、金谷尚鈷。あたしの方が上なんだから、ちゃんと言うこと聞きなさい?」
由梨亜「(ムカつく、尚鈷のくせに!)……はい、尚鈷お義姉様」
鈴南 「わ、私も、義姉の鈴南です……。よ、宜しくお願いします、お嬢様……」
由梨亜「ちょっと鈴南、私をいじめる役なのに、そんなおどおどしてどうするのよ。それに、お嬢様って……。お父様も言ってたでしょ? これは遊びなんだから、はっちゃけちゃって。ね?」
鈴南 「は、はい、お嬢様――ではなく、由梨亜」
由梨亜「そう、その調子よ、鈴南お義姉様!」
鈴南 「お、お義姉様……ああ」
ユリア「あ、倒れちゃった……。本当に、これでいいのかな……? はぁ……。あたしだけが、唯一の常識人っぽくなっちゃってるし……。それに、あたしナレーターだから、ずっとこの調子でやってかなきゃなんないし……。最初の通り、瑠璃さんが良かったなぁ……。そしたらあたし、小人その二だったし……」
由梨亜「それを言っても仕方ないわよ、ナレーターさん。それに、あのお母様が入ってきたら、それこそ大変よ? 本気で収拾つかなくなっちゃうし、私だってはっちゃけたいのに、もしここでお母様が入ってきたら、私が収拾付けなくちゃなんないじゃない」
ユリア「…………凄いお母さんですね」
由梨亜「そうよ。凄いの。……正直、お母様が鼠役で、ほっとしてるわ」
ユリア「……と、取り敢えず、これでイントロダクションはお終いです。次は……え? 『舞踏会の支度』? いきなり舞踏会になるんですか? あ、はぁ……そうですか。一気に進むんですか」
由梨亜「ああ、そっか。シンデレラって地球連邦のお伽噺だから、花鴬国にはないのよね……。にしても作者、何っでこんな話選んだのかしら……? 私の相手役は、あのシュールだし……。香麻が良かったのに。――やっぱ、一回絞める……?」
ユリア「あ、ちょ、先王陛下、落ち着いて下さい! ああ、もう! 何であたしばっかこんな役なのっ?! とにかく、イントロダクションはこれにて終了! 次回をお楽しみにっ!」
これ以降の出番がない人達による座談会
早理恵「……って、わたくしだけじゃない。……え? 次回からも、この座談会には出させてもらえるのですか? ……って、これだけではつまらないではありませんか。もっと、この後に出番はないのですか? は? わたくしがこの話を知らないから、そんな勝手なことが言えるのだ、ですって? おふざけも大概になさいませ。……やはり、富実樹御異母姉様に御願い致しまして、一度この方を絞めて頂きましょう。……はい? 謝るから止めてくれ、ですって? 今更遅いですわ。精々後悔なさると宜しいのです。……一人で喋るのも、つまらない物ですわね。それでは、また」