第2話【オーディション開幕】
『PRISM×CROSS』は、ゲーム化を目指して制作している男性アイドル作品です。
彼らの物語を一緒に応援していただけたら嬉しいです!
「ここがPRISMプロジェクトのオーディション会場か!俺が一番乗りだぜ!」
朝の静かな会場に、よく通る声が響き渡った。
「えっ?」
受付の準備をしていた私は、驚いて顔を上げる。
開いた扉の前には、一人の青年が立っていた。
社長室で突然プロデューサーに任命されたあの日から、しばらく。
慣れない仕事に追われながら募集の準備を進め、ついに今日、三日間にわたるPRISMプロジェクトの一次審査が始まる。
けれど、まだ受付開始まで三十分もある。
応募者が来るには、いくらなんでも早すぎる時間だった。
「あの、受付はまだ始まっていないんですけど……」
「知ってる。だから一番乗りなんだろ?」
青年は当然のように言い切った。
「一番乗りって、そこまで狙うものなの……?」
思わず小さく呟くと、青年は胸を張った。
「当たり前だ。俺は何だって一番じゃないと気が済まないんだよ」
初対面の相手を前にしているとは思えないほど堂々としている。
緊張している様子もない。
それどころか、まるで自分が合格することを最初から疑っていないようだった。
「あんた、受付の人?」
「今は受付を担当していますが、私は……」
「だったら話は早い。エントリーNo.1、暁月蓮だ!」
私の言葉を最後まで聞かず、青年は堂々と名乗った。
「暁月さんですね。ただ、受付開始まではまだ少し時間があります。あちらで待っていてください」
「ちぇー。せっかく一番に来たのに」
不満そうに唇を尖らせながらも、蓮くんは待合スペースへ向かっていく。
けれど、数歩進んだところで勢いよく振り返った。
「受付が始まったら、真っ先に呼んでくれよ!」
それだけ言うと、今度こそ待合スペースへ向かった。
少し強引で、自信家。
けれど、不思議と嫌な感じはしなかった。
大きな声も、堂々とした態度も、自然と人の目を引きつける。
これが、カリスマ性というものなのだろうか。
やがて受付開始の時間になり、ほかのスタッフも並んだカウンターへついた。
「暁月さん、お待たせしました」
声をかけると、蓮くんは待ってましたとばかりに立ち上がった。
蓮くんは宣言どおり、真っ先に受付を済ませた。
その後も応募者たちが次々と会場へ集まり、空いているカウンターへ進んでいく。
緊張した表情で何度も書類を確認する人。
落ち着かない様子で廊下を歩き回る人。
小さな声で歌いながら、最後の確認をしている人。
年齢も雰囲気も、それぞれ違う。
けれど、全員が同じオーディションを受けるために、ここへ来ている。
この中に、本物の輝きを持つ原石がいる。
そう思うと、受付をしているだけの私まで緊張してきた。
「すみません。受付って、ここで合ってますか?」
「はい。こちらで受け付けてます」
顔を上げると、そこには背の高い青年が立っていた。
その足元には、紙袋が置かれている。
周囲の張り詰めた空気とは対照的に、ずいぶんとのんびりした雰囲気をまとっている。
「お名前をお願いします」
「潮恭一郎です」
「潮恭一郎さんですね。応募書類を確認します」
恭一郎くんから受け取った書類に目を通し、名前を確認する。
「あの、ひとつ聞いてもいいですか?」
「はい。何でしょう?」
恭一郎くんは、足元の紙袋を少し持ち上げた。
「休憩時間って、何か食べても大丈夫ですか?」
「え?」
まさかオーディションについてではなく、食事の質問をされるとは思わなかった。
「休憩時間中なら、大丈夫だと思います」
「よかった。朝早かったから、途中でお腹が空くと思って」
そう言って、恭一郎くんは手にした紙袋へ目を落とした。
これから大事なオーディションを受ける人とは思えないほど、マイペースだ。
やる気がないようにも見える。
けれど、応募書類に不備はなく、必要なものもきちんと準備されていた。
のんびりしていることと、真剣ではないことは、同じではないのかもしれない。
「待合スペースは、あちらです。時間になったらお呼びしますね」
「分かりました。ありがとうございます」
恭一郎くんはゆっくりと頭を下げ、ほかの応募者たちが待つ場所へ向かった。
その先には、腕を組んで座る蓮くんの姿もある。
自信に満ちあふれ、誰よりも目立つ蓮くん。
周囲に流されることなく、自分のペースを崩さない恭一郎くん。
二人だけではない。
今日ここへ集まった全員が、それぞれ違うものを持っている。
私は、その中から原石を見つけなければならない。
肩書きや実績ではなく、その人だけが持っている、本物の輝きを。
『君には、人を見る目がある』
社長の言葉が、頭の中によみがえる。
本当に私にできるのだろうか。
まだ自信はない。
それでも、もうオーディションは始まろうとしている。
「そろそろ審査開始の時間です」
スタッフに声をかけられ、私は時計を確認した。
受付を終えた応募者たちが、期待と不安の入り交じった表情で待っている。
私は一度だけ深く息を吸い、審査室の扉に手をかけた。
ここから、すべてが始まる。
まだ誰にも見つけられていない輝きと出会うための、最初のオーディションが。




