第1話【PRISM PROJECT】
『PRISM×CROSS』は、ゲーム化を目指して制作している男性アイドル作品です。
彼らの物語を一緒に応援していただけたら嬉しいです!
春の午後。
窓の外では、咲き始めた桜が春風に揺れていた。
そんな穏やかな景色とは裏腹に、私は緊張しながら社長室の前に立っていた。
突然、社長から呼び出されたのだ。
何か失敗しただろうか。
頭の中で今日までの仕事を振り返ってみても、呼び出されるような心当たりはない。
私は意を決して、社長室の扉をノックした。
「失礼します」
「入りなさい」
扉を開けると、社長はいつもと変わらない様子で、机の前に座っていた。
「そこに座ってくれ」
「はい……」
言われるまま、社長の向かいに腰を下ろす。
机の上には、一冊の分厚い企画書が置かれていた。
黒い表紙には、銀色の文字で大きく書かれている。
『PRISM PROJECT』
「今日、君を呼んだのはほかでもない」
社長は企画書に手を置き、まっすぐ私を見た。
「君に、このPRISMプロジェクトを任せたい」
「……はい?」
言われた意味が分からず、思わず聞き返す。
「このプロジェクトのプロデューサーを、君に任せる」
「えっ……私がですか?」
「ああ」
社長は当たり前のように頷いた。
「ちょっと待ってください。私、プロデューサーの仕事なんてやったことありません。今までだって普通のスタッフとして働いていただけで、アイドルのプロデュースなんて……」
「これから覚えればいい」
「そんな簡単に言わないでください!」
思わず声が大きくなる。
社長は少しも動じることなく、私を見ていた。
「私には無理です。もっと経験のある人に任せたほうがいいと思います」
「経験だけで選ぶなら、君をここへ呼んではいない」
「だったら、どうして私なんですか?」
社長は少しだけ間を置いてから、口を開いた。
「君には、人を見る目がある」
「人を見る目……?」
「肩書きや実績ではなく、その人間が持っているものを見る目だ。君自身は気づいていないようだがね」
そんなことを言われても、自分に特別な才能があると思ったことなんて一度もない。
ましてや、その才能だけでアイドルをプロデュースできるとは思えなかった。
「それでも、いきなりプロデューサーなんて無茶です」
「無茶を承知で頼んでいる」
社長の声が、それまでよりも低くなる。
「君も知ってのとおり、三年前、うちの最大の稼ぎ頭であり、事務所の屋台骨でもあった《LIEBE’siX》が解散した。それ以来、会社の業績は右肩下がりだ」
その名前を知らない人は、ほとんどいない。
六人組の男性アイドルユニット、LIEBE’siX。
全盛期には、テレビや雑誌で彼らを見ない日はないと言われるほどの人気を誇っていた。
そんなLIEBE’siXが解散した翌年に、私は事務所で働き始めた。
だから、私は彼らと一度も会ったことがない。
それでも、彼らがこの事務所を支えていたことも、どれほど多くの人を魅了していたのかも知っている。
今では六人とも、それぞれの才能を生かし、個人で活躍している。
「LIEBE’siXがいなくなってから、新しい柱となる存在を育てられていない。売り出しているタレントたちも、思うような結果を出せていない。このままでは、会社の存続さえ危うい」
「それは……」
会社の経営が苦しいことは、私もなんとなく感じていた。
以前より仕事の話が減り、事務所全体から活気が失われている。
表向きには何も変わっていないように見えても、働いていれば嫌でも分かってしまう。
「そこで、このPRISMプロジェクトを立ち上げることにした」
社長が企画書を私の前へ差し出す。
「大規模なオーディションを開催し、これまでにないアイドルを発掘する。事務所の再起を懸けたプロジェクトだ」
私は目の前の企画書へ視線を落とした。
「コンセプトは、本物の輝きを放つ最高のアイドル。まだ誰にも見つけられていない、アイドル業界を揺るがすほどの人材を探し出す」
社長の指が、表紙に書かれた『PRISM』の文字をなぞる。
「磨かれる前から、その内側に本物の光を宿している。そんな、宝石のような輝きを持つ原石を見つけてほしい」
「私に、そんな人を見つけられるでしょうか」
「見つけてもらわなければ困る」
社長は迷うことなく言い切った。
「そして、いつか彼らを超えるアイドルを育ててくれ」
「彼らって……」
「LIEBE’siXだ」
あれほどの人気と実力を持っていた六人を超える。
それがどれほど難しいことなのか、プロデュース経験のない私にだって分かる。
「やっぱり、私には……」
「これは社長命令だ」
断ろうとした私の言葉を、社長が遮った。
「本日付で、君をPRISMプロジェクトのプロデューサーに任命する」
「そんな強引な……!」
「君なら見つけられる。私が探しているのは、すでに完成された人間ではない。まだ誰も、その輝きに気づいていない原石だ」
社長はもう一度、私の目をまっすぐに見た。
「見つけてくれ。本物の輝きを持つ、最高のアイドルを」
窓から差し込んだ春の光が、企画書の銀色の文字を照らした。
『PRISM PROJECT』
その名前が、今の私には眩しすぎるほど輝いて見える。
こうして私は、何の経験もないまま、新人プロデューサーになった。
まだ名前も、顔も知らない。
どこかにいるはずの、宝石のような輝きを秘めた原石を探すために。




