表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/29

第二十七話 黒字転換と次なるガバナンス

アキラのアカウント凍結と現場作業員としての登録を終えた後、俺たちは一旦、薄暗い裏路地にある貧乏宿へと戻っていた。


アキラの外出を待つために広げていたホログラムコンソールやバインダー、天界から持ち込んでいたすべての荷物を手際よく回収し、完全にチェックアウトする。その際、夕方の街角で寒さにガタガタと震えていたルミナリアも、ようやくあの目のやり場に困る真紅のビキニから、元の豪奢な大女神のドレスへと着替えを完了させていた。


「よし、忘れ物はないな。エルフィ、天界オフィスへの帰還ポータルを展開しろ」


「ハッ! 了解です、ユウキ主任! 監査出張の全工程を完了、帰還ログを送信します!」


エルフィのコンソール操作により、俺たちはポータルを抜けて住み慣れた天界のオフィスへと帰還した。


オフィスに戻った瞬間、エルフィの手元のデータバインダーから、これまでに聞いたこともないような軽快で大音量なファンファーレのアラート音が鳴り響いた。


ピピピン、ポーン! ♪


「ハッ……!ユウキ主任!財務システムから緊急のポジティブアラートです! アキラ・カネシロの口座から強制回収した十二億円のパケットが、今この瞬間に神界金庫へと完全還流されました!」


エルフィがいつになく嬉しげな声を上げ、黒縁メガネの奥の瞳を歓喜に輝かせた。空中に展開された財務バランスシートのグラフが、真っ赤な赤字の底から、垂直に近い角度で綺麗な右肩上がりの緑色のラインを描いて突き抜けていく。


「算出完了しました! 累積債務がすべて相殺され――我が社の経営状態が、完全に黒字へとV字回復いたしました!」


「フン、他人に泥棒されていた我が社の正当な純利益を取り戻しただけだ。当然の成果だな」


俺は自身のCOOデスクの椅子へ座り、冷徹に腕を組んだ。

先代女神の遺産を切り崩すだけのジリ貧だった赤字暗黒時代は、これにて完全に終了したわけだ。神界金庫が潤沢な資金で満たされたことで、世界システム全体の維持管理費にも莫大な余裕が生まれた。


「素晴らしいです、主任! 金庫の黒字化に伴い、コールセンターの処理プロセッサの増強を承認! これにより、地上からのお祈り(売上)のガバナンス改革がさらに加速します! 信心の回収効率が、従来の30%にまで跳ね上がりました!」


エルフィが、嬉しそうに羽を小さくパタつかせ、バインダーに「財務の健全化、コアシステムへの再投資成功。黒字転換」と鋭い筆致で勝利のログを書き進めていく。ユウキという明確な直属上司の下で、どんな時でも即座にログを取る有能な習性が完全に染み付いている。


すると、ドレスに着替えてすっかり寒さから解放されたはずのルミナリアが、プレジデントチェアに座って胸を張り、そのカラカラに乾いた脳みそからお門違いな要求を吐き出してきた。


『ねえユウキ! 12億円も儲かったんでしょ!? だったらあたしに最高級神聖シルクの新しいドレスを経費で買って頂戴! あたしが貧乏宿で我慢したボーナスよ!』


天界の黒字化やガバナンス改革という経営トップとして最も喜ぶべき偉業を目の前にしながら、こいつの綺麗に空っぽな頭には「会社にお金があるなら贅沢したい」ということしか記録されていない。プレジデントチェアの高級なクッションに深く腰掛け、反省の色など微塵も見られない、責任感ゼロの世襲お嬢様思考全開だ。


「却下だ、無能A。お前の公私混同なドレスなど、我が社の経費規程には1ビットも存在しない。お前がハッカーに売上を垂れ流させていたせいで起きた不祥事の減給処分は、会社が黒字になろうが何一つ帳消しにはならん。大人しく自分のプレジデントチェアの上で始末書の書き直しでもしていろ」


俺がCOO席から一ミリの容赦もなくそう切り捨てると、ルミナリアは「うわぁぁん! 会社が黒字になったのに、社長のあたしだけブラック労働させられてるぅぅ!」とプレジデントチェアの上で膝を抱えてアホそうに大号泣し始めた。


「よし、エルフィ。不要オブジェクトの排除は完了だ。黒字化に甘んじることなく、次なる炎上案件の処理に移るぞ」


「ハッ! 了解です、ユウキ主任! 財務の余裕を活かし、次なる優先デバッグタスクの解析を開始いたします!」


有能なエリート秘書エルフィがシャープにメガネを押し上げ、コンソールへ指を走らせた、その時――。


エンターキーの鋭い打鍵音とともに、管理端末の画面が禍々しい赤に染まった。その瞬間、エルフィの動きがピタリと止まり、その顔からすうっと血の気が引いていく。エルフィは震える指先で、画面に表示された不気味なグラフを指し示し、引きつった声を絞り出した。


「緊急報告!ユウキ主任! 財務の健全化と同時に、これまで一切検知されていなかった『未知の特大エラー波形』が急浮上しました!」

少しでも面白い、続きが気になると思ってくださったら、ページ下部のブックマーク追加と評価で応援していただけると、更新の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ