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第二十五話 差押執行前の夕暮れ

夕方、貧乏宿の一室。

俺たちはプライベートビーチから戻り、個々に着替えを行っていた。俺は日本の男子高校生の制服ブレザーに着替え、エルフィもいつもの黒のタイトなビジネススーツへと着替えを完了させていた。


「ハッ、ユウキ主任! アキラ・カネシロの行動ログに重大な変化を検知しました! 対象が先ほど高級ホテルの敷地を出て、近隣の商業エリアへと移動を開始した模様です!」


ちゃぶ台の上のホログラム画面に、鮮烈なアラートが点滅する。ついにハッカー勇者がホテルの敷地内から外へ出たのだ。


「よし、今すぐ接触する。ポータルを開け、エルフィ」


「了解です! システムエントリー――」


俺たちが瞬時に戦闘体制に入ったその時、部屋の隅の固いベッドの上から「ふえぇ……?」と間抜けた声が上がった。


見ると、ルミナリアが、海水浴の後に着替えるのが面倒くさくてゴロゴロとだらけていた姿のまま――つまり、あの出るところが出まくった抜群のプロポーションを隠すところだけ隠した極小の真紅のビキニ姿のまま、呆然とこちらを見ていた。


『ちょっと二人とも、急にどうしたのよぅ? あたし今、地上の波の音に癒やされて超いい気分でだらだらしてたのに――』


「……置いていく時間が惜しい。無能A、お前も強制連行だ」


「ひゃいっ!?」


エルフィがエンターキーを鋭く叩いた瞬間、俺たちの足元に転送ゲートが開き、着替えをサボっていた最高神もろとも、夕暮れの街中へと一瞬で空間が書き換えられた。



「……ぶ、ぶるぶるぶる! ちょっと、なによここ! すっごく寒いんだけどぉぉぉ!」


転送された瞬間、金髪のロングヘアを両手で抱きしめるようにして、ルミナリアがガタガタと激しく震え出した。

夕方になり、南国のリゾート地とはいえ涼しい夜風が吹き抜け始めた街のど真ん中で、一人だけ「隠すところだけ隠した極小の露出狂ビキニ」のまま立ち尽くしているのだ。はたから見れば寒さ以前に完全に治安を乱す不審者である。


あまりの寒さに耐えかねたのか、ルミナリアは涙目で上目遣いになりながら、俺の袖をちょんちょんと引っ張ってきた。


『う、うう……ユウキぃ……あたし本当に凍えちゃう。ねえ、お願いだから、あんたが今着てるその紺色のブレザーを、あたしに貸してくれないかしら?』


最高神のプライドをどこかへ投げ捨て、寒さをしのぐために上目遣いで可愛くおねだりをしてくるルミナリア。そのあざとい仕草は、大抵の男をイチコロにする破壊力があった。


だが、俺の内心に湧き上がったのは、甘酸っぱい感情などでは到底なく、純然たるイラつきだけだった。

12億円もの純利益をかすめ取られ、神界が大赤字に陥っているというのに、こいつの脳内には危機感が1ビットも記憶されていない。

仕事中に水着のままサボり、着替えをさぼり、挙句の果てに俺の制服を要求してくるその横着さに、俺は苛立っていた。ハッカーの行動ログを追うための集中力を、こんなアホな身内の尻拭いで削られること自体が、俺にとっては最高に理不尽で不愉快極まりなかった。



「断る」



俺は一ミリの迷いもなく、極低温のトーンで冷たく言い放った。


『ええええっ!? なんでよぅ! 嘘でしょ!? そこは普通、男の子なら『仕方ないな』って肩に上着をかけてくれるラブコメシーンじゃないのよぅ! あんたには人の血が通ってないわけ!?』


「お前が仕事中に水着のままサボっていた結果の自業自得だ。お前に回すような俺の防寒リソースはない。大人しくそのままで凍えていろ」


俺が指示棒でピシッとルミナリアの鼻先を指すと、彼女は「うわぁぁん! ばかぁぁ!あほぉぉ!血も涙もないブラックCOO!」と夕暮れの街角で子供のように涙目で鼻水を垂らし喚き散らした。


「ハッ。ルミナリア社長、主任の美しい時間配分を乱した罰として、そのままで耐えてください。自己責任です」


エルフィはカチッとしたビジネススーツの眼鏡をクイと上げ、バインダーを胸に抱いたまま、ルミナリアへ一ミリの同情もない冷徹な視線を向けた。


『エルフィちゃんまで!あたしはただちょっと余韻に浸ってただけなのに、いじめないでぇ! !』

エルフィの言葉にも子供のように涙目で鼻水を垂らし喚き散らすルミナリア。


俺とエルフィはそれを完全にスルーした。


「ターゲット捕捉。前方五十メートル、高級ブティックから出てきた男がアキラです」


エルフィの視線の先、盗んだ金でブランド物の紙袋を大量に抱え、現地の美女を連れて歩くハッカー勇者の姿があった。


「よし、ホテルの外に出た以上、合法的かつ容赦のない強制執行を突きつけてやる」


俺は懐から『神界全権承認印』を取り出し、不敵に口元を吊り上げた。

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