第十五話 大女神の始末書
カザマの「スピンロック」、そしてツカサの「常時大爆発」。世界システムの処理速度を激重にし、リアルタイムで地形を削り続けていた二大最優先タスクをすべて安全に回収し、地上の現場作業員として登録を終えた俺たちは、天界のオフィスへと戻ってきていた。
オフィスへ帰還した瞬間、それまで俺の右腕にこれでもかと体を密着させていたエルフィが、いそいそと離れていった。黒縁メガネの奥の瞳を満足そうに細め、スーツの皺をパッパッと伸ばしている。
「ハッ、主任! これにて不良タスクの全工程、無事に終了いたしました!」
ビシッとメガネを上げて報告してきた。
流石に今回は密着されすぎて右半身が凝り固まったが、業務成果としては100点満点だ。
すると、プレジデントチェアにフワリと着地したルミナリアが、あろうことかストッキングの足をブラブラとさせながら、信じられないほど甘いことをのたまい始めた。
『あー、疲れた。でもさぁユウキ、あたし今回、わざわざ埃っぽい現場まで行かなくてもよかったんじゃないかしら? 結局デバッグのコードを打ったのも、ツカサくんと契約交渉したのも全部あんたたちじゃない。あたしは遠くで見てただけだし、やっぱり大女神は現場に出るべきじゃないわよ、うん』
「……お前、本気で言っているのか?」
俺はあまりの反省する態度のなさに、怒りを通り越して本気で引いていた。指示棒を握る手にピキピキと青筋が浮かぶ。
「いいか、ルミナリア社長。普通の会社なら、社長の決済のせいで一発アウト案件が量産され、何年も隠蔽され、最終的に最高執行責任者(COO)が現地へ乗り込んで尻拭いするような事態にまで発展していたら、その会社は社会的に完全に終わりなんだよ」
『うぐっ……』
「だが、ここは神界だ。倒産しないのをいいことに、お前はトップとしての経営責任を1ミリも自覚していない。大女神だろうが最高神だろうが関係ない。会社のコンプライアンスを正常化させるため、今からお前に『始末書』を書かせる」
「えぇぇぇ!? あ、あたし最高神よ!? 誰に対して始末書なんて書くのよぅ!」
ルミナリアが涙目で椅子から飛び上がる。
「お前が食いつぶしている莫大な遺産を残してくれた、先代女神に対してだ。先代に心から謝るつもりで、今回のやらかしの全容と再発防止策を自筆で書き殴れ。書き終わるまで今日は一歩も退社させないからな」
俺が冷酷にそう言い放ち、エルフィがテキパキと「神界指定・始末書フォーマット」の光の用紙をルミナリアのデスクへ叩きつけると、彼女は「うわぁぁん! 鬼! ブラックCOO!」と泣き叫びながら、しぶしぶペンを握りしめた。
◇
数時間後。「うぅ……書けたわよぅ……。これでいいんでしょ」
涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしたルミナリアからしぶしぶ提出された「始末書」のプレートを、俺は冷徹な目で受け取った。
横からエルフィも「どれほどの経営改善の決意が書かれているでしょうか……」と真剣な顔でメガネを覗き込んでくる。
だが、そこに書かれていたテキストを読んだ瞬間、俺たちの動きは完全にフリーズした。
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【始末書】
てんかいのしゃ長 るみなりあ
こんかいは、あたしが作ったチートの「オフスイッチ」をつけ忘れたせいで、ツカサくんの足元をばくはつさせてしまって、ごめんなさい。
じゅかいにいったら、木がいっぱいふきとんでいて、すごくこわかったです。
ユウキくんにアホアホと言われて、とてもかなしかったです。
これからは、ガチャをひく前にちゃんとエルフィちゃんに「ほうれんそう」をしようと思います。
だから、もうおこるのはやめてください。
おわり。
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「……おい」
俺の手に持った指示棒が、怒りのあまりみしりと音を立てた。
「ルミナリア様、これは始末書ではありません……。ただの『小学生の反省文』です……!」
エルフィが信じられないものを見る目で、バインダーを震わせている。
「ルミナリア社長。お前、最高神としての精神年齢の初期化からやり直してこい!! 却下だ、100回書き直せ!!」
『いやぁぁぁ! ごめんなさい! ごめんなさいってばぁぁぁ!』
デスクの上に突っ伏した最高神は、床をジタバタと叩きながら、小学生が「ごめんなさい」を連呼するように涙ながらに許しを乞い始めた。
『あたしが悪かったから! 本当に本当にもう悪いことしないから! もう100回も書くなんて絶対に無理よぅ! だからお願いユウキ、許して! 許してぇ!』
オフィス中に響き渡る大女神の情けない懇願を、俺とエルフィは冷ややかな目で見下ろした。
(第一章 完)
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