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DEATH TERRARIUM  作者: 美味いもん食いてぇ


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第23話

 道中、九十九も無意識に袋を受け取ってしまっていた自分に気づき悲しくなるが、正直少し楽しかったので何も言わずに持つことにする。


「服を買ったのだから、靴も必要よね」


「嘘でしょ? あ、ならあそこの」


「落ち着きなさい依絆くん。私達は一分で三万を稼ぐ富裕層よ? そうね、高級デパートに行きましょう」


「君が落ち着け。お金はもっと計画的に……って一分で三万? てことはこの前のゲームで、千二百万近く稼いだのか⁉︎」


「ええ。あなたは?」


「八百くらい」


「また私の勝ちね」


「そりゃあれだけ狩っていればそうなるか。……とんでもないな」


「ほら、行くわよ」と先を歩く彼女に苦笑し、九十九は仕方なくその背中についていった。

 デパートで買い物した後、九十九は黒月の要望でとあるエンタメ施設に来ていた。



「やったわ! 見なさい依絆くん、またストライクよ!」


「うん、初めてとは思えないよ。でももう少し優しく投げてもらえると、僕も店員さんも嬉しいかな」


 ドパァアン‼︎ という、おおよそボーリングでは聞かないような爆発音を耳に、九十九が泣きそうな店員に深々と頭を下げたり。


「っ何これ? どうなっているのこのポンコツアーム? 壊れているわよ?」


「クレーンゲームなんてこんな物だよ。角度が大事らしいよ」


「チッ。……依絆くん、アイギスを出しなさい」


「絶対ダメだよ?」


 イカサマをしようとする黒月を止めたり。


「……に、逃げるわよ依絆くん」


「あーあ」


 カンストしてバグったパンチングマシンを横に、唖然とする店員に頭を下げたり。


「……あなた、結構歌上手いのね。ボロクソになじってあげようと思ったのに」


「どうぞ。楽しみだな〜、あれだけ煽っていたんだし、超えられちゃうんだろうな〜」


 カラオケで、ギリギリ勝てなくて悔しがる黒月を笑ったり。一日を遊び尽くし、午後十九時を回った頃。

 九十九はお手洗いを済ませ、ハンカチで手を拭きながら黒月の元へと戻る。


 ベンチに座る彼女は、大量の紙袋と景品に囲まれ、最後にクレーンゲームで取った巨大ぬいぐるみを抱えながら、タピオカミルクティーを啜っていた。


「お待たせ」


「……蛙の卵みたいで気持ち悪かったけれど、案外美味しいわね」

「モチモチが癖になるよね」


 疲れた体を伸ばす九十九は、夜になりかけの空を見上げて苦笑してしまう。


「結局、一日中遊んじゃったなー」


「経験したことないものばかりで、とても新鮮だったわ」


「同じく。僕も満足だよ」


「何満足しているの? 本題はこれからでしょう?」


「へ?」と振り向く九十九に首を傾げ、黒月はぬいぐるみを抱えたまま立ち上がる。


「今日のメインは今後の方針の話し合いでしょ?」


「うん。だから本当にいつやるんだろうなーとは思っていたよ?」


「今からよ」


 ……まぁ、夕食と一緒にって考えれば妥当か。先に言っておいてほしかったが。


「どこでやる? 決めていないなら、個室のある店探すけど」


「あなたの家よ」


「……へ?」


「あなたの家よ」


 というわけで、今僕の部屋には、同年代の女子と愛犬が戯れるという異常な光景が広がっている。……何がどうして、こうなった?


「ふふっ、くすぐったいわよ。お座り」


「バゥ」


「よくできました。依絆くんより賢いわね」


 どうしてこうなった? 黒月の手からご褒美を貰うアゲパンに落胆し、九十九は椅子に座りながら項垂れた。

 言い分は分かる。プライバシーが守られていて、気兼ねなくTERRARIUMの話ができて、親もいない。そう考えると、ここは話し合いに最適な場所だ。何が怖いって、僕は道案内をしていないのだ。僕が黒月さんについていく形で、僕の家に帰ってきたのだ。意味が分からないだろう⁉︎ 何で住所と部屋番号まで特定されているんだ⁉︎ 引っ越すか? いや、まずはダミーの物件を借りて……。


 九十九が真剣に引っ越しを考えていると、黒月がぬいぐるみを抱きしめながら口を尖らせる。


「ねぇ、お腹空いたのだけれど」


 ……くっ、可愛い。色々と疑問は尽きないが、まずは夕食にしよう。不承不承とリビングへ向かう九十九に、黒月とアゲパンもついていく。


「麻婆豆腐と唐揚げ、どっちが良い?」


「麻婆豆腐と唐揚げが良いわ」


 席に着いた黒月の前に、温められた二品と豚汁、白米がよそわれる。

 彼女は目の前に広がる贅沢な食卓に、思わず唾を飲み込んだ。


 互いに手を合わせ、箸を進める。「……美味しい」と頬に手を当て噛み締めている彼女を笑い、九十九から話を切り出した。


「それで、今後の方針って何? 僕らで話し合うようなことあったっけ?」


「……。最近どう? 訓練は順調?」


「まぁ異能には慣れてきたかな。でもやっぱり、人目が邪魔で思うように検証できないね。あとあれ、宅配サービスが結構危ないことに気づいた」


「分かるわ。時間指定とかないから、あいつらいきなり家に来るのよね。この前試しに拳銃買ってみた時、妹にバレそうで危なかったもの」


 妹いたんだ。と内心驚きながらも、九十九も頷く。


「梱包されているとは言え、宅配ボックスに拳銃入れられていた時は肝が冷えたよ」


 お茶で一息吐いた黒月が、「そこでなのだけれど、」と九十九を見つめた。


「ゲーム用に、私達で家を買わない?」


「え?」と顔を上げる九十九を前に、彼女の瞳が若干泳ぐ。


「か、買うと言っても、住むわけじゃないわよ? ほら、宅配もそこにさせれば良いわけだし、それなりに広い家を買えば、人目を気にせずに訓練もできるでしょう? 知っているかしら? 『購買』には物件も売っているのよ。それもプレイヤーに適したのが」


 物件が売っているのは知っていたが、なるほど、そういう使い方もできるのか。

 真剣に考えていた九十九は、唐揚げを飲み込み、黒月を見つめ返す。


「いや、かなりありだ」


「っ、でしょ?」


「今の僕達の金額じゃ、まだ大した物件買えないだろうけど、ゲーム専用の拠点を作るのには賛成かも。秘密基地みたいでロマンあるし」


「男の子っていつになってもそういうの好きよね」


 九十九は「当たり前だろ」と黒月からお椀を受け取り、おかわりをよそう。


「となると、合わせて二千万くらいは欲しいな」


「甘いわね。私達が全力で体を動かせる広さとなると、最低五千はかかるわよ」


「マジか……。別に使う予定はなかったけど、当分賞金は貯金だな」


「ところで依絆くん、あれからゲームに参加していないの?」


「していないけど、え? 黒月さんしたの?」


「一回だけね。経験者がどれくらい強いか知りたかったし、体が鈍るのも嫌だったから」


「結果は?」


「余裕よ。有象無象もいいところ、警戒して損したわ」


 得意気に麻婆豆腐を頬張る彼女に、九十九は苦笑する。

 良かった。やっぱり黒月さんの強さって異常なんだ。


「だからあなたも、参加したくなったら言いなさい。予定合わせてあげるから」


「……確かに、訓練の成果も試したいし、どんなゲームがあるのかも気になるし、」


「良いわね? 私に言いなさいよ? ねぇ」


「え? あーうん。僕もそう思うよ。おかわりいる?」


「いる」


 白米をよそう九十九の気持ちは、既に次のゲームに向いていた。

 夕食を終えた二人は、ゆったりと雑談しながらデザートを食べ、二十一時半頃をもってお開きとした。


 マンションの前に停まったタクシーに、大量の荷物を抱えた黒月が乗り込む。


「お邪魔しました。また来るわね」


「事前連絡はしてね」


 過ぎ去った嵐を見送り、九十九は「ふぅ、」と疲労を吐き出すように天を仰いだ。

 怒涛の一日だったが、初めての経験ばかりで楽しかった。部屋に戻る道中でスマホを取り出し、アプリを開く。

 ……彼女の話を聞いていて、やっぱり実戦に勝る訓練はないのだと理解した。開催予定のゲームをスライドしながら帰宅し、歯を磨いてベッドに入る。

 電気を消して目を瞑る九十九の表情は、まるで遠足前の小学生のようだった。


 


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