王立魔導学園の隠者と、黒羽の追跡者
大陸北部に位置する『王立魔導学園』。
そこは、石造りの巨大な尖塔が幾重にもそびえ立つ、魔導の聖域だ。帝国ですら迂闊には手出しできないこの場所に、シュウたちは「身分を隠した編入生」として足を踏み入れていた。
「……シュウ、大丈夫? まだ、腕が熱い……にゃん」
黒い猫耳を不安げに揺らし、ミーニャがシュウの右腕を支える。学園指定の制服に着替えた彼女だが、猫耳と尻尾はどうしても隠しきれず、周囲の生徒たちの視線を集めていた。
「ああ、平気だ。……それより、フィオナ。制服、似合ってるな」
「……あ、ありがとうございます。……でも、わたくしたちがこのような場所に居て、本当に良いのでしょうか」
フィオナは、金髪をポニーテールにまとめ、清楚な学園の礼装に身を包んでいた。亡国の王女である彼女にとって、この学び舎はかつての故郷を思い出させる場所でもあった。
「いいのよ、フィオナ。あのアホ騎士が追ってこれない場所なんて、ここくらいなんだから!」
エレインが、短めのスカートを気にしながらエルフ耳をぴくぴくと動かす。彼女もまた、シュウの右腕を治すための資料を、持ち前の情報収集能力(という名の聞き耳)で探していた。
一行が案内されたのは、学園の最果てにある古ぼけた校舎。
そこには、一人の「自称・天才」が待ち構えていた。
「……ふむ。多重概念合成による、魔力回路のオーバーヒートか。……面白い。非常に、興味深い症例だね」
白衣を羽織り、眼鏡を光らせた少女――学園の異端児、シャロンがシュウの右腕を覗き込む。
彼女はシュウの腕に触れると、恍惚とした表情を浮かべた。
「この腕を治すには、単なる治癒魔法じゃ足りない。……『龍の涙』、あるいはそれに匹敵する高純度の生命エネルギーが必要だよ。……心当たりは?」
「……龍、か。そんな都合よくいるわけ――」
シュウが言いかけたその時。
校舎の窓ガラスが派手な音を立てて砕け散った。
「――いた。……美味しい匂いの、人間。……見つけた」
舞い落ちる黒い羽。
現れたのは、崖の上で一行を見下ろしていた、漆黒の翼を持つ少女だった。
彼女はふらふらとした足取りでシュウに近づくと、その鼻先をシュウの首筋に寄せ、深く息を吸い込む。
「……はぁ。……やっぱり、いい匂い。……お腹、空いた。……私に、何か『食べさせて』」
彼女の背後に見えるのは、伝説の龍族特有の紋章。
エレインのエルフ耳が恐怖で固まり、ミーニャの猫耳が最大級の警戒で逆立つ。
「龍族……!? なんで、こんなところに本物が!?」
シュウは激痛に耐えながら、少女の瞳を見つめた。
それは、飢えに耐えかねた「孤独な捕食者」の目。自分と同じ、世界から浮いた存在の瞳だった。
「……いいぜ。……俺の料理は高いぞ、黒羽の龍さん」
「……何でも、払う。……だから、早く……『おかわり』を」
学園編、開始早々の大波乱。
最強の「食材」にして「仲間」候補との出会いが、シュウの腕を、そして運命を加速させる。




