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婚礼の日に、あなたは他の人の隣り  作者: 神宮寺 あおい@受賞&書籍化


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12/21

宣言

 場の空気は荒れていた。

 サミュエルとリリアンは揉めており、フレアがそれを止めている。


 そんな中、一緒に応接室にいながら口を出すことのできないリックベルト夫妻は我慢を強いられていた。


(お父さまとお母さまも、見守るのは限界かしら?)


 隣と斜め横から、かなり不穏な気配が漂ってきているのをフレアは感じる。


「お二人とも、そこまでにしていただきたいわ」


 サミュエルとリリアンのやり取りを再度止めたフレアに、彼らの視線が向けられた。


「二人の間の問題は後で解決してくだされば結構ですので」

「しかしフレア、このことには君にも関係しているだろう?」

「いいえ。私にとってはどちらでもいいことですわ」


 フレアにしてみれば、リリアンが虚偽の診断書をサミュエルに見せていたかどうかは問題ではない。

 リリアンが病弱であろうとそうでなかろうと、サミュエルの行動こそが問題なのだから。


「話がそれてしまっていますわね。今はサミュエル様と私の婚約破棄について、でしょう?」


 フレアの言葉に二人も本来の目的を思い出したのか、いったん言い合いが止まった。


「フレア、先ほどから言っているように、なぜ婚約破棄を望むのかがわからない。君も結婚できるのを楽しみにしていただろう? それに、手続き上はともかく、対外的に私たちはもう夫婦だと思われているはずだ」


 サミュエルが言っていることは間違ってはいない。

 結婚式を中止したとはいえ、理由はサミュエルの体調不良となっているのだから。


(でも、もし結婚も婚約も止めになったとして、その理由には皆さま納得するのではないかしら?)


 それだけのことをサミュエルはしたのだ。

 逆にいえば、フレアは今までよく我慢してきたと言えるだろう。


 そして何より、今のフレアは結婚しなかったことや婚約破棄による不名誉よりも、今後彼らと一緒にいることの方が受け入れ難かった。


「夫婦だと思っている皆さまには、結婚はしておらず、婚約を破棄したとお知らせすればよろしいのでは?」

「フレア、いい加減に我がままを言うのは止めないか」


 たしなめるようにサミュエルが言うのを、フレアは冷静な目でじっと見つめた。


「我がまま? 我がままだとおっしゃいました?」

「そうだろう? 周りのみんなを困らせているのだから」

「困っているのはサミュエル様だけですわ」


(このままでは平行線のままね)


 だからフレアは、再度はっきりと言った。


「サミュエル様、何度も言わせないでください。私はあなたと結婚する気はありません。婚約を破棄してください」


 その言葉にサミュエルは凍り付き、リリアンは驚きに口元を覆った手の陰で笑った。


「先ほども言ったように、原因はサミュエル様にあると公表しますわ。そして当然、慰謝料も請求いたします」


 畳みかけるように続けた内容に、固まっていたサミュエルが驚きに目を見開いた。


「なにを言っているんだ……」


 そして呆然と呟く。


「婚約者である私よりもリリアン様を優先する姿勢や行動。約束を何度も破る行為、極めつけは結婚式をすっぽかしてリリアン様と共に過ごし、何日も帰ってこなかったこと。総じて不貞と呼べる行為を繰りかえしていた点。以上をもって、サミュエル様有責での婚約破棄を求めます」


 流れるようにフレアは言った。


「ちょっと待ってくれ! だから何度も言っているように、私とリリーはそんな関係ではない。事実にそくさない内容には同意できない!」

「事実というのは客観的な視点に基づいて判断するものですわ。サミュエル様がどう思おうと、あなたのしていた行動は不貞と言われても仕方のない行為。違いますか?」


 そしてフレアは応接テーブルに書類と日記帳を置いた。

書類には、サミュエルが今までどれだけフレアよりもリリアンを優先したか、何度約束を破ったか、そういったことが一覧にまとめられている。

さらには詳細な内容も一覧の後ろに付けられていた。


「ご不満であれば、私は裁判にかけてもかまいませんのよ」


 ルアール国では、争いごとが起こり当事者間で解決が難しい時は裁判を起こすことができる。

 ただし、裁判の記録は後々まで残るため、今回のような内容で裁判沙汰になるのは不名誉なことだった。


 それはサミュエルも理解しているはずだ。

 そして、突きつけられた証拠を見れば、サミュエルがその裁判で勝つことが難しいとわかるだろう。


「……本気なのか?」


 今までずっと従順で逆らうことのなかったフレアの突然の反抗に、サミュエルは混乱しているようだった。


「もちろんですわ。こんなことを冗談で言えるわけがないでしょう?」


 そう言ってフレアは晴れやかな顔で笑う。


 何かを吹っ切ったかのようなその笑顔を、サミュエルは呆然と見つめ返したのだった。

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