030話
何度目かの瓶が虚空に消えた。私はすでに、その場にあった空き瓶をほとんど投げ尽くしていた。それでも、心臓の奥底で燃え盛る羞恥と怒りの炎は、全く衰える気配がない。私の視線は、ずっと床に倒れ伏したまま、時折ピクピクと痙攣しているマレフ=ティオンに固定されていた。彼の周囲には、大量のビール瓶と、そこから溢れ出たビールの水たまりが広がっている。
「いい加減にしろ、このダメ神! あのクソ映像を消せ! あの不名誉な渾名をどうしてくれるんだ! よりにもよって、あんな不名誉な死に方をした体にぶちこまれた上に、『テクノブレイカー』だの、『ギャラクティカオメガリオンソード』だのって、一生陰口叩かれるんだろうが!」
叫びながらも、少しだけ冷静さが戻ってきている自分に気づく。いくら怒鳴り散らしても、この神が肉体的に傷つくわけではないし、私の問題が解決するわけでもない。
その隣で、アラグ=ザインは相変わらずニヤニヤしながらこちらを見ている。初対面に近い相手にこれ以上の八つ当たりは分が悪い。今は様子見だ。だが、この男がここにいることの意義も、頭の片隅で理解し始めていた。
……そう、ただ文句を言いに戻っただけでは、あまりに無意味だ。せっかく戻った世界の狭間だ。何か一つでも、収穫がなければ。
「……で、そこのダラけた神様は、いつになったら起きるんだい?」
私がマレフ=ティオンを指差すと、アラグ=ザインはフッと笑みを消した。
《お前も、少しは冷静になったようだな。いいだろう。こいつは放っておけ。重要な話だ、真面目に聞け》
アラグ=ザインの表情が変わったことで、場の空気が一変する。先ほどのふざけた調子から一転、彼の瞳には冷徹な光が宿っていた。
《お前の肉体についてだが、俺の方でも情報にアクセスさせてもらった。エイジス……まさかエルフの種に、あれほど衝動が肥大化した個体が生まれるとはな。はは、確かにこれは見ものだ。お前が魂を宿す前から、あの肉体は既にその問題、そして『テクノブレイク死』という現象を抱えていた。あれは、肉体の許容量を超えた過剰な活動による、ただのショック死だ》
「見ものじゃねえ! 男の体になっただけでもキツいのに、この肉体とは全く噛み合わない感覚、それに加えて不名誉な渾名までついてるんだぞ! オマエいきなり異世界転生のスタートが黒歴史みたいな渾名持ちからスタートってどうしてくれんだ! 前世がリセットして新しく綺麗にニューゲームが、いきなり囚人から始まるス●イリムより酷いスタートじゃねーか!」
私の言葉に、アラグ=ザインは愉快そうに肩をすくめた。
《フン、エルフという種族からすれば、確かに特異すぎる個体だろうな。本来、あいつらは繁殖能力も衝動も希薄な種族。だからこそ、あのエイジスは、ある意味では種としての『可能性』を秘めていると言える。個体数増加という点では、むしろ喜ばしい変異、ともな》
「種として喜ばしい? ふざけんな! こんな最悪な渾名持ちでニューゲームって、どこまで引きずるんだ? 下手すりゃ棺桶にぶちこまれるまで引きずりまわすんだぞその渾名を!」
アラグ=ザインはフッと鼻で笑った。
《てか別にそれくらい良いだろ? エルフは人間と違ってそういう事で噂名無しなんざしないし、そもそもお前は神の使いとしてエルフどもの間じゃ崇拝される存在だぞ?》
「ん? そうなのか? 確かにお使い様とか言われてたな……」
アラグ=ザインは呆れたように首を振る。
《むしろだ、マレフの代理であるお前に対して、不名誉な死を遂げた同胞の生前の愚行を引き摺らせてしまって申し訳ないくらい考えてると思うぞ? お前のいた誹謗中傷や蹴落とし合いが当たり前の世界じゃない、エルフは違う文化形態をもってるし、お前に対して最大限の理解者であり支援者であり友好的な存在っての再認識したほうがいいぞ?》
アラグ=ザインの言葉に、私の思考が急速に分析し始めた。確かに、転生してからのエルフたちは私を邪険にすることなく、むしろ敬意を払っていた。あの村人たちも、エイジスの不名誉な過去を話題にすることなく、純粋に私を「神の使い」として見ていた。
ダラけきっていたマレフ=ティオンが、むくりと体を起こし、私を覗き込んできた。
『ぐ、ご機嫌は、直りましたか? ビール、まだ、あります、が……』
私はマレフ=ティオンをにらみつけると、顔をぐっと近づけて言った。
「だが、こんな猿みたいな体に入ったってのは正直ショックだ、へぼ神!」
怒りで震える声は、もう笑いどころか呆れを含んでいた。
「そして、これからもこういう馬鹿みたいな事がお前の采配だと起きるんだろうって予想はできた。その都度、ここまで来るのもメンドクサイから、連絡手段をよこせ!」
一拍置くと、私はさらに畳みかけた。
「あれだ、スマフォとかタブレットみたいなもんよこせ! 連絡だけじゃもったいない、娯楽も少しはよこせ! 地球から分捕ってきたデータベースにもお前のデータベースにもアクセスできるやつにして、お前とのメールと音声とビデオ通話機能もつけとけ!」
言葉を切らずに、釘を刺すように続ける。
「ただ、現地民に悪用されると困る。基本私しか操作できない、盗めない、解析できない、忘れても空間収納に戻る機能もつけとけ!」
アラグ=ザインが、面白そうにニヤニヤしながらマレフ=ティオンを見ている。マレフ=ティオンはびくりと肩を震わせた。
『わ、わかりました! 至急、手配させていただきます! すぐそちらの世界へ送りますので、どうかご勘弁を……!』
私は吐き捨てるように言い放ち、白い空間に背を向けた。背後から、マレフ=ティオンの慌てた声と、アラグ=ザインの楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
だが、私にはやらなければならないことがある。この厄介な体と、これから向き合うべき課題、そして世界を巡る新たな可能性が、私を待っている。
この度、執筆に使用していたAIツール(ChatGPT)で、予期せぬ大きなトラブルが発生いたしました。具体的には、Canvasというサービスに約120話分の原稿を保存して作業を進めていたのですが、先日、続きを書いて校正を依頼した際、「追記保存」と指示したにもかかわらず、これまでの原稿がすべて消え、最新の一話分だけが上書きされてしまったのです。
復旧を試みましたが叶わず、これまでの努力が一瞬にして無に帰したことに、正直、絶望的な気持ちになりました。そこから、消えてしまった設定やプロットを思い出しながら書き直し、データもテキスト形式で別途保存し直すなど、復旧作業に追われておりました。
また、この一件で「AIは信用するな」という教訓を痛感し、今後の創作支援ツールとしてGeminiの利用可能性を検討するなど、少々自爆気味にダメージを負った感じです。




