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不意打ちウインクにズッキュン

苺農家を営むロニー・グーチは、イメージしていたほど年寄りではなかった。

アラフォーといったところか。


しかしベンから聞いていた通り、少し偏屈な感じで、私が提案する『新しい苺の栽培方法』には懐疑的だ。


「日光の力を最大限活用するために、ガラス張りの『苺ハウス』で育てる……?」


「ええ。日当たり抜群、鳥の被害も防げます!」


にっこり営業スマイルを見せる私の隣で、トリスタン様もお口添えくださった。


「費用は全てウェストブルック家が持ちます。農家の自己負担金はありません。苺の出来不出来に関わらず、委託の報酬を受け取れます」


「出来、不出来に関わらず? はっ、馬鹿言ってくれるなよ。うちはねえ、王室への献上品の苺を作ってるんだよ。うちが不味い苺なんて作れるわけないだろ。名がすたる」


トリスタン様相手に話しているとは知らないグーチさんの暴言にぎょっとした。

慌てて何らかのフォローを入れようと思ったが、当のトリスタン様は怒るどころか、嬉しそうに笑ってみせた。


「じゃあ決まりだ。私達と一緒に、もっと美味しい苺をたくさん作りましょう。そして王室へ献上するだけではなく、どんどん売りましょう」


「売る!?」


グーチさんがぎょっとした顔をした。


「冗談じゃない。そんなことされちゃ価値が下がる。王室へ献上する、数の少ない希少な苺だからってことで、伯爵家へ高く買い取ってもらってんだ」


やっぱりそこがポイントか。

予想通りの反応を得て、


「それ以上の利益になりますよ」


私はここぞとばかりに、にやっと悪い顔をした。

持参した試算表を見せながら、現在の「希少な量の苺を伯爵家へ高く買い取ってもらう場合」と、新規プロジェクトの「より美味しい高級苺をたくさん作って、栽培委託料をもらう場合」を比較してもらった。


「どうです? お得でしょう。もし思うように苺の増産が上手くいかなかった場合でも、今まで通り王室献上品の分の苺は伯爵家に買い取ってもらえますし。グーチさんには何一つ損な話ではありません」


話を聞くうちにグーチさんの顔つきがみるみる変わっていくのが見て取れた。

よし、もう一押しだ。ていうか、もう十分押したのに。ここまで良い条件で、決断を渋る意味が分からない。


もやっとして更に詰め寄ろうとする私に、トリスタン様がそっと手を置いた。


「私達からの説明は以上です。この件を引き受けるかどうかの返事は要りません。応募制ですので、希望する場合のみ、3日以内に役場へ申し出てください。最後に何か、聞いておきたいことはありますか?」


トリスタン様の柔和で冷静な口調に、はっとした。

しまった、熱くなりすぎていた。

今すぐ即決させてやろうと熱が入るあまり、余裕をなくしていた。

押して駄目なら引いてみろ、ですわね。


「あのう……」とグーチさんがすがるようにトリスタン様を見た。


「もし、その苺ハウスで作った新しい苺を王室へ献上するようになれば、うちの名前は廃れますよね……。『グーチが作った苺』ではなく、伯爵家に栽培を委託されて作った苺、になるわけですから」


そこか!

お金以上に気になるもの――名誉だ。

独自の栽培方法にこだわって、王室への献上品に選ばれるほどの苺を作ってきたというグーチさんの誇り。


「それは……」困ったどうしようとトリスタン様を見やった。


トリスタン様は私達の困り顔を見て、思案顔をした。


「ではこうしましょう。委託栽培農家には、その苺に名付けする権利を与えて頂けるよう、上へ掛け合ってみます」


「名付け?」

「苺は苺でしょう」


「いえ。特別な苺には特別な名を。『王室御用達』や『リズノール産特級』などという煽り文句と共に、農産物自体に洒落た呼び名を付けると宣伝効果があると、とある方から教えてもらいました。例えば『太陽の奇跡』という果実や『黒いダイヤ』という海産物など。私達が作る新しい苺にも、そのような呼び名を付け、売り出しましょう。とある方の受け売りですが」


ね、と言ってトリスタン様が私にウインクを飛ばした。

確かに言った!私が言った。苺増産プロジェクトのプレゼンをしたとき、ゆくゆくはと苺のブランド化についてもお話したんだった。


トリスタン様が本当に私の話をよく聞いて覚えて下さっていたこと、そして機転を効かせて話をまとめて下さったことに感動を覚えた瞬間、不意打ちウインクでズッキュン。

駄目だ、完璧すぎる。

こんなん惚れてまうやろー!と胸のうちで茶化すしか、消化する術を持たぬ私でした。


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