帰路にて
グーチさんの苺農園からの帰り道、馬車に揺られながら、トリスタン様と話し込んだ。
話題は当然、今後の苺プロジェクトの進め方についてだ。THEビジネス会話。苺のような甘酸っぱさは皆無だ。
「そろそろデイヴィー子爵にも話を通した方がいいね」とトリスタン様が仰った。
「苺ハウスの建設に関しては、子爵の管轄になるだろうし。父と兄にもにちらっと話してある。なかなか興味深そうだったよ。私に一任してくださるとのことだ」
リズノール伯とご嫡男のクリストファー卿のお墨付きとは、心強い。
トリスタン様の言うとおり、いずれはお父様にも話を通さなくてはならない。なら早い方がいいのだろう。
お父様は公共の工事、建設業を管轄する部署の長なのだ。
といってもほぼ家でグダグダしていて、実際に働いているのは大勢の部下たちだけど。決済書に署名をするくらいはしているのだろう。
トリスタン様の提案で、父宛に呼び出し状が届けられることになった。
3日後に城へ出向くようにとの命令だ。
グーチさんへ伝えた応募期限日も3日後だ。もしグーチさんから応募がないようなら、他の苺農家へ話を持っていく手筈になっている。
「あなたにも同席願いたい。子爵とは別便で、少し早めに先回りして来てもらえませんか」
「はい、それは結構ですが……」
「不安ですか?」
私の表情から胸中を察したらしいトリスタン様が仰った。
「子爵の却下した話を娘が勝手に進めていると知って、怒られるのではないかと?」
「……はい、仰るとおり心配です」
お父様は、女子供は出しゃばるなというお考えの持ち主だ。
「トリスタン様の前で叱責されるようなことはないと思いますが、家に帰ってから何と言われるか……」
「大丈夫だ。子爵の面子を保てるよう、上手く話をつけようと思う。元々は子爵の案だったということにしても良いだろうか? 手柄が子爵のものになるが、それで丸く収まるなら。あなたの希望は? あなたの希望に沿おう」
トリスタン様ああぁ! なんてお優しい。
親子関係まで気遣ってくださるなんて。
「父の手柄にして下さると有り難いです。お気遣い、沁み入ります」
そう、私の目的は実家の没落回避なのだから、私個人の手柄や面子はどうでも良いのだ。
怪しい投資話などではなく、真っ当な方法でお父様を儲けさせて、借金をしなくても済むように。
領主様のお城へ戻ると、待っていたグローリアが嬉々として現れた。
グローリアは我が家のメイドで、私つきの侍女だ。外出には必ず付き添ってくる。
グローリアの前は、ヴェネッサというメイドが長年私のお世話係だったが、3年前に結婚して夫の転勤に伴って、退職してしまった。
一回り年上のヴェネッサを幼児の頃から姉のように慕っていた私は、「私は結婚はせずにお嬢様に生涯を捧げます」と常々言っていたヴェネッサが、あっさり運命の恋とやらに落ち、私よりも男を取ったことがショックで、しばらく荒れていた。
ヴェネッサ本人にも酷いことを言ったし、その後釜でやって来た新しい侍女にも冷たく当たった。
あんた達にヴェネッサの代わりが務まるかよ!と反発したのだ。ええ、そんな青臭い時期もありました。今になって思えば、若気の至りだ。
そんなこともあり、ヴェネッサの後に来た新しいメイドは続かず、2人続けてすぐに辞めてしまった。
そして3人目でやって来たのが、このグローリアだ。
グローリアは変わった娘だ。
妙にサバサバしていて、よく分からないことをよく喋り、とにかくメンタルが強い。丈夫だ。
仕事がよく出来るわけでもなく、よくヘマをするが、全くへこたれない。
そのあっけらかんとした態度が最初は気に食わず、心をへし折ってやると意地悪く当たったが、グローリアのメンタルの強さにこちらがギブアップ。
それにグローリアは変わっているし、仕事も適当だが、どうも憎めないキャラなのだ。
「次々と新しい侍女が辞めてしまうのでは世間体に響く」とお母様に注意を受けたこともあり、結局私はグローリアを受け入れた。
グローリアの話は相変わらずトンチンカンで仕事ぶりも適当だが、わりと仲良くやっている。
「クレア様、お帰りなさいませー、クレア様っ。ここの図書室、凄いんですよ〜! 自由に閲覧していいって言われたんで、白百合の騎士シリーズ、3巻まで読んじゃいました。続き読みたいんで、また連れて来て下さいね!」
あー、はいはい。そりゃあ良かったですわ。




