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ばったり再会

かくして私はエノーラのクライアントとなり、エノーラは私の元へせっせと通うようになった。


採寸をし、話し合ってドレスのイメージを膨らませ、それを描き上げるエノーラ。

休憩と称してお茶をしたり、ドレスの素材を探しに一緒に街へ出かけることもあった。


素直で常に一生懸命なエノーラには好感しか持てなかった。

最初は緊張していたエノーラも少しずつ私に慣れてくれた。


今日も一緒に街へ買い物に出て、綺麗な発色のリボンを気に入ったので、色違いで買ってエノーラにプレゼントした。


「そんなっ、私になんて勿体ないです。クレア様とお揃いのリボンなんて」


「この色はエノーラによく似合うわ。貰ってくれたら嬉しいわ。あ、押しつけで気を悪くしたかしら。こういうこと、慣れてなくて分からないの……」


「いえっ、すごく嬉しいです。一生大事に……額に入れて家宝にします。勿体なくて着けられないですもん」


「冗談でしょ。じゃあ貸して」


渡したリボンを奪い取り、エノーラの編み込みしている髪に結んだ。

初々しい春を思わせる若草色のリボンが、風にそよいだ。


待たせている馬車まで戻る途中、ばったり見知った顔に出くわした。

ふわっとした赤毛にくりっとしたつぶらな瞳の、サリーだ。お兄ちゃまの想い人。


「……お久しぶり、サリー。お仕事帰り?」


サリーは「えっと……」と私を見て慌てた顔をした。


「あっ、見習いで来てた人ね。お久しぶり。雰囲気が違ってて、すぐに分からなかったわ。ええ、いま仕事帰りよ。早上がりで」


身分を忍んでエノーラと買い物に来ていたため、いかにも貴族令嬢という出で立ちでなくて良かった。

なのに私のことが分からなかったのか。まあ、3日でやめた見習いのことなど忘れても仕方ない。


しかしサリーの重大な決意の後押しをしたのは、「タマーラ」だったはずだ。

タマーラのお陰で告白する思い切りがついたと、言ってなかったっけ?


「ねえ、例の職場の人とは上手く行ったの? もう長期出張から戻ってきたんでしょう?」


聞かなきゃいいのに聞いてしまった。

道端でばったり会っただけの浅い関係の人間に、再会するなりどプライベートな質問をされて、ムッとするだろうか。


しかし、幸せ真っ只中の乙女というものはひどく寛容らしい。

みるみる破顔して、恥ずかしそうに答えた。


「ええ、そうなの。彼もずっと私のことを好きだったって、逆に告白してくれたわ。奥手な照れ屋さんだから、言えなかったみたい。今は顔を合わせるたびに目線で愛を語らってくるの。まだ職場のみんなには内緒にしてるんだけど、こんなんじゃそのうちバレちゃうわね。お互いの家族への紹介が終わったら、正式に婚約するのよ。まあ彼は有能で忙しい人だから、年内に婚約出来れば良いねって話してるの。うふふ」


はあ、さようですか。

やっぱり聞かなきゃ良かったと、激しく後悔した。


スティーブンともうそこまで話が進んでいるなんて。年内を目処に婚約、か。

奇しくも私と同じだ。

年内を目処に、結婚相手を決めなければいけない。


今のところ誰1人、当てがない。

いや1人――……パーシーがいるけれど、パーシーとの政略結婚だけは避けたい。


パーシーはお金持ちで好青年だが、遊び慣れしたプレイボーイという1面もあるし、そんな彼が唯一本気になる相手はエノーラと決まっている。

割り切った結婚をした後に運命の恋に落ち、苦悩する。それ以上にエノーラのことも苦しめる。


私は私で、パーシーのことをそれほど好きでもないくせに、妻の意地で執着して、泥沼展開へ陥るのだ。


そんな展開は御免だ。

だから運命の2人を独身のまま引き合わせる。

パーシーとのお見合いは、いよいよ3日後だ。上手く話を転がして、パーシーがエノーラに会えるようにしなくちゃね。


そのための下準備は整っている。


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