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逆プロポーズの行方

家では3日3晩、お父様とお母様が言い争いを続け、ヒステリックに喚き散らすお母様にげんなりしたお父様は、書斎に引きこもってしまった。


お母様はドア越しに文句を垂れたり、すすり泣いたりしていたが、急に吹っ切れたようで、隠居へ向けて段取りを始めた。


不動産屋を呼び、引っ越し先候補の物件資料を取り寄せて、まんざらでもない様子で眺めている。

どうやらプチ旅行気分のようだ。


私はそんな家からそっと抜け出して、スティーブンと会った。


スティーブンがあのパジャマパーティーに参加していた件は、いつの間にか無かったことされていた。

どうやらマークス様が揉み消してくれたようだ。

今まで積み上げてきたスティーブンの経歴に、私のせいで傷がつくようなことにならずに済んで、心からほっとした。


マークス様、神様、本当にありがとうございます。

ファーストキスを奪われた件に関しては、これでチャラにしても良いです。

と私はマークス様を許すことにした。


「それにしても、よく分かったわね。あれだけの変装をしていて、マークス様だって」


「いや、まさかマークス様だとは分からなかったよ。ただ、警ら隊の身内の者だとは分かった」


「どうして?」


「あのときマークス様が仰った言葉でピンときた。『君だけトマトオムレツが大きいなんてズルい』ってね。あれは、警ら隊員の寮内で使われる、冷やかし言葉なんだ」


「どういう意味?」


「警ら隊員……特に訓練生は自由がないから、異性と出会いがなくてね。接点があるのは、寮の食堂で働いてる女性くらいでさ。そこで可愛くて若い女性がいようものなら、そうやって冷やかされるんだ。まあそのくらいしか、冷やかされる要素がない生活を送ってるって意味だよ」


「へぇーなるほど」


確かにスティーブンが訓練生だった頃は、寮から私用で外出するにもいちいち届け出が必要で、実家に帰省することも滅多になかった。

外で遊ぶことがなければ、異性と出会う機会も無いのだろう。


思った通りの真面目な生活ぶりだ。

だからスティーブンには交際している女性もいなくて、ずっとフリーなのだ。

と勝手に思い込んでいて、一度も確認していないことに今さら気づいた。


「あの、じゃあ、スティーブンも恋人を作る機会がない感じなのかしら?」


ええい、この話の流れでさりげなく聞いてしまえ。


「うん、まあそんな感じかな……」


よっしゃあぁ、思った通り!

胸のうちでガッツポーズを決め、ポーカーフェイスで平静を装ったまま、さらなる追撃をした。


「じゃああの、今回の件だけど、その、私がお婿さんをもらって、お父様の跡取りにっていう話。ちょうど良いわよね」


「え?」


「スティーブンに決まった相手がいないのなら、私にもいないことだし、マークス様もスティーブンが適任じゃないかと仰ってるそうだし、だったらそれで良いんじゃないかしらって思うんだけど」


言い訳がましい口調でつらつらと述べた。

だって恥ずかしい、わー恥ずかしい!

これって逆プロポーズじゃん。


恥ずかしさに負けてはならぬと、必要以上にビジネスライクな態度で迫ると、スティーブンは目を見開いて、ポカンとした。


「……え? なにちょっと待って。俺がクレアと結婚して、子爵家の婿に? なんでそうなるんだ。もっと他に適任者がいるだろ」


出てきたのは否定の言葉だった。


「いないの。いたらこんなことお兄ちゃまに言ってないわよ」


頭ごなしに否定されたショックで、こちらの口調もきつくなる。


「1人も? 色んなパーティーに出て、何人か目ぼしい相手を見つけているもんだと思ってた」


「お兄ちゃまと違って、確かに私には沢山そういう機会はあったわ。でもあいにく、私とお父様の理想に叶う方とはご縁がなくて。そりゃあまだまだこれから、時間さえあれば、良い巡り合わせがあるかもしれないわ。けど、もう時間がないの。1年以内に婿をとって、お父様は隠居するようにって命じられたんですもの」


「そうか……そうだよな」


お兄ちゃまはすっと真剣な顔つきになって、同情めいた眼差しで私を見つめた。

考えを巡らせているようだ。


「他にもっといい人がいればいいんだが……もし本当に俺でも良いと子爵が判断なさるのなら、ありがたく引き受けさせてもらうよ。でもクレア、時間さえあったらという希望はまだ捨てなくていいぞ。まだ1年もある。今から良い人に出会って、心から愛する人と結婚できるなら、当然そのほうがいい。駄目なときには俺がいるから。君は安心して、今できるだけのことはしてみればいい」


「……スティーブン……」


好きとこの場で言えたなら、どんなにいいか。

でも言えない。スティーブンのこの表情から言葉の端々から伝わってくるからだ。


お兄ちゃまは私のことを全くそういう対象として見ていなかったのだ。

もしかして両思いではと自惚れていたが、全くそうじゃなかった。


ただ親戚のお兄ちゃんとして可愛がってくれていて、妹のように思ってくれているのだ。

そして姉の嫁ぎ先の本家が存続の危機にひんしていて、自分の力が必要とされるのならば、謹んで協力するという話だ。


家族愛はあっても、恋愛感情はない。

これじゃあ、私の回避したかった『政略結婚』そのものだ。


がんじがらめの政略結婚じゃなくて、地味でも愛のある恋愛結婚がしたいという私のささやかな望みは、やはり叶わないのか。


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