迫られる決断
とにかく付いてこいと言われ、せかせかと歩くアレク様の後を追った。
先ほどの会場へ戻ると思いきや、長い廊下の途中でピタリと立ち止まり、こっちだと手を引かれ、脇へ引き込まれた。
暗くて今まで気付かなかったが、途中で横へ折れる廊下と交差している地点があったのだ。
長い一本廊下とばかり思っていた。
「どこへ行くのですか?」
「部屋を押さえてある。話はそこで聞く」
アレク様は相変わらずツンケンしている。
曲がった先は真っ暗闇で、握ったアレク様の手を頼りに何とか転ばずに歩けた。
辿り着いた部屋も真っ暗だったが、アレク様がゴソゴソと動くと、壁掛けのランタンが灯った。
背の低いチェストが2つ並んであるだけの、殺風景な小部屋だ。
「さあ、きっちり説明してもらおうか。変な言い逃れをしようと思うなよ」
仮面を外したアレク様が言った。
ブルートパーズ色の瞳が冷ややかで美しい。けど髭。
髭がやっぱり似合わなすぎて、怪しげな仮面を外した方が不自然という不思議な現象が起きている。
「おい、聞いてるのか? せっかく助けてやったのに、ぼーっとしやがって」
「申し訳ございません。アレク様のご変装があまりに見事で、感心しておりました」
「仮面と髭とカツラで、見事も何もないだろ」
確かに。でもこの態度の変わりようはすごい。
さっきは雰囲気からして別人で、年齢も三十路手前くらいだろうと思ってしまったが、実際のマークス様はまだ二十歳でいらっしゃる。
「それにしても演技派でいらっしゃいますね」
「馬鹿にしてんのか?」
褒めたのにキレられる。
話を逸して時間稼ぎしているのがバレたようだ。
何て答えればいい?
私がここにいる理由。
「マークス様……いえ、アレク様は……」
どうしてここへ?と尋ね返してさっき怒られたばかりだった。
「私を助けてくださったんですか?」
「あのまま連れて行かれて、子爵家の娘だと知られたら、さすがに体裁が悪いだろ。迷惑料だの何だの言われて、ゆすられるかもしれんしな。それは知らんが」
「スティ……私の連れ合いは、大丈夫でしょうか」
「素性がバレたら、あっちのほうがヤバイかもな。あいつ、警ら隊員だろ。スパイだと思われたら、始末されるかもな」
ぎょっとした。
「そんなっ。助けてください。アレク様、いえマークス様なら、助けられますよね? マークス様は、スティーブンのことを知っていらっしゃるんですね」
だから、スティーブンもあっさりと私をマークス様に引き渡したのか。
チャラい髭男をマークス様だと見抜いて。
「面識はない」
「面識のない警ら隊員のことも、一人ひとり覚えてらっしゃるんですか?」
マークス様のことを誤解していたのかもしれない。
にわか羨望の眼差しを向けると、呆れたように返された。
「んなもん、いちいち覚えてる訳ないだろ。親戚なんだろ。助けてもらいたきゃ、洗いざらい話せ。それが出来んなら、あいつを置いて逃げる。こっちもグズグズしてられんからな。騒ぎになる前にここを出る。どうするかすぐに決断しろ。10秒だけ待つ」
10秒!? はっや、と焦ったときにはすでに2秒経過。
「はっ、話しますっ! えっと、ここへ来たのは……私が、来てみたいとスティーブンに頼んだからで。まさかこんな会だとは知らなかったんです、私たち2人とも。本当に知らなくて」
嘘は言っていない。
「話にならんな」とマークス様は吐き捨てるように言い、背を向けた。
「それで通用すると思ってるなら、あいつも大丈夫だろ。帰る」
待ってくださいと慌てて追いすがった。
「もう一度だけ聞く。ここへ来た目的は?」
どうしよう。本当のことを白状するしかないの?
投資詐欺グループのリーダー格が来ると聞いて、探りに来たと。
それを言うと、騙されているお父様のことも話さなくてはいけなくなる。
領主様から工事関係の長官職を授けられ、本来なら公職に専念しなくてはならないお父様が、もっと楽して儲けたいからと副業に手を出していると。
ただでさえ、マークス様には特に嫌われているのに。




