主役を超えろ
ここは、芝居の専門学校だが、教えて貰えるのは一通りの基本だけだ。あとは実績を積み重ね芝居を身体に染み込ませていく。その為に専門の劇場や撮影所も用意されている。トドの詰まり、これからはほとんどが演目ということである。
そして、記念すべき第2回公演は、イッキュー脚本。俺、イケメガネ、アカリちゃんを演者に頑張っていくことになった。
二人と組んで一つわかったことがある。イケメガネもアカリちゃんも意外に真面目だったということである。そしてイケメガネに取り憑いて?いたモノも練習中はいなくなっているのである。
そうそう今回の演目を発表したいと思う。
「テニスの皇女 メキシコ遠征編」
天才テニスプレイヤー 神道 蘭が盗まれた帰りのチケットを賭けて水田 刃と水田 守の兄弟と対戦するというモノ。まっ2・5次元だ。
俺は思い知らされていた。ハイクさんと組んでいた時は違ったがこの二人と組んで分かった。物語が進む速さが違うのだ。二人の半分以下も覚えられない。
俺は役者を知らないわけではない。当たり前だが遅い役者もいるんだ。
「もう少し進まないと逆に話わかんなくないですか?」アカリが言う。
「あっ、そこ、僕、打つ所です」イケメガネが言う。
正直、イラついていた。
「俺だって!」
「赤点さん、ちょっと撮ってきて欲しいものがあります」イッキューが言った。
「あと、あなたにも甘えがあると思います。いくら、現場を知ってるからって常に自分のペースでできると思ったら大間違いだ」イッキューは冷静に言った。
音響室でテニス音、100種撮ってくる。それがイッキューからのおつかいだった。
俺は助かったと思ってしまった。
室に入ると雰囲気で学生ではないような男性が機材を使っていた。俺は椅子に座って待つことにした。
「なんの音探してんの?」男性はイラついて聞いてきた。
「テニスの音を100種類」俺は答えた。
「100?後で来てよ。視線気になるから」男性は言う。
「わかりました」とは言ったがどうするか迷っていた。
「30なら今出来るから、それ持っていけばなんとかなると思うよ」と一緒に探してくれた。
「ソツ、卒業生だからそう呼んで」ソツさんは名乗った。
「赤点です」俺も名乗った。
「一年?二年?」
「一年です」
「その年位なら分かると思うけど君、ずっと雑用だよ」ソツさんは真剣に言った。
「そうならない様に、人の倍頑張ります!」俺はイラついた。
「はっ?何いってんの?倍頑張ってもダメなんだよ。倍頑張ったら、皆の動きが見える様になって、皆が遅く感じるなんて、漫画みたいな話あると思ってんの?ないないない!」手を振るソツ
「そもそも倍頑張るって何?それって前は頑張ってなかったってことじゃん。限界なんだよ今が!限界超えるなんて漫画だけ!」
「これ先輩としてのアドバイス。文句言う奴、ただお前が嫌いなだけ」ソツの言葉には嘘がなかった。
「戻ります」俺は30種を受け取った。
「もう一つアドバイス、残りの70種、お前以外が集めたら、そこからは俺知らない」ソツさんは自分の作業に戻った。
「ありがとうございます」
漫画みたいなアドバイスだった。あの言葉も知っていたような気がする。
「あっ遅かったですね」アカリが言った。
「待っててくれたんだ」成る程。俺は間違ってた。
この娘こそ、引き出しが少なかったんだ。
「イッキュー、脚本を変えてくれ!」
「簡単だ。俺達を勝たせればいい」