<94>悪役令嬢は国と国との摩擦の真っただ中にいるようです
歓迎のパーティなんだし正装した方がいいよねと、シャワーを浴びてさっぱりして頭の中を切り替えたシャーロットは、薄化粧をして持って来ていたカクテルドレスを着て髪を整えた。
確かこの国の婚礼衣装は白地に金の刺繍で、この国の薔薇はオレンジで、赤い薔薇は貴重だから保護してるんだっけ…? 鏡の前の自分が、薄桃色の紗を重ねたカクテルドレスを着て薄桃色のヒールのある靴を履いている様子を眺めながら、これならいいだろうとシャーロットは思った。くるりと回ると花びらのように紗が広がり、膝が見える。
ドレスと同じ素材を使ったハンドバックをテーブルの上において、スズランの香水を吹きかける。髪は自分では結い上げられないので、丁寧に梳いて艶を出して肩に流したままにする。
このホテルの良いところは洗濯のサービスがあるところだわ、とシャーロットはトランクの中を整理しながら思った。おかげで変な汗染みも心配しなくて済んだ。
星が見られなかったのは残念だったわ。シャーロットは大きな窓の前に立つと外の景色を眺めながら口を尖らせる。ホテルが明るすぎて夜空を見るのには向かなかった。夜、外を出歩く機会がなくて、星を見に行くことが出来なかったのも心残りだった。
辺りは夕焼けが始まっていた。朝は着替えながら海から登ってくる日の出を見れたのは良かったと思った。いつもなら、夕焼けを見ながら習ったことを復習している勉強時間だった。それももう、今日で終わった。
海へと沈む太陽を眺めていると時間が程良くなったので、シャーロットは部屋を出た。エリックの部屋の前に立ってドアをノックしようとすると、廊下の奥の方からリュートが歩いてくるのが見えた。白い麻のスーツに白いシャツを着ていた。
「シャーロット、エスコートなら私がしようか?」
リュートはそう言いながら手を差し伸べてきた。リュートとはなんだかんだとエリックに言われながら、毎日基本学校の学食でお昼ご飯を一緒に食べていた。シャーロットと同じくらいの学力のリュートの方が、授業の話がしやすかったからだった。リュートと何も進展はないけれど、仲のいい友達くらいには思えるようになっていた。
「そうね、お願いしようかな。」
シャーロットが手を重ねると、部屋の中からエリックが出てきた。エリックは白い麻のスーツの中に薄桃色の縦じまのシャツを合わせていた。シャーロットは微妙にむず痒く感じる。
「お姉さま、リュートと行くのか?」
「ええ、今そういう話をしていたところ。」
「一応3人で行こう。その方が守れるからな。」
エリックはまだ昼間の軍人達を気にしている様子だった。
「何かあったのか?」
リュートが尋ねると、エリックが不機嫌そうに言った。「港に異国の軍人達が来ているんだ。言葉が通じないから用心したい。さっき街に出た時、絡まれた。」
「そうか、他の学生達にも気を付けるように言った方がいいな。」
「ああ、一応リチャードには話をしておいた。あいつが一番この中で腕が立つだろうからな。」
騎士コースにいるリチャードしか、武芸の嗜みがないということなのだろう。
シャーロット達がホテルを出ようとすると、ちょうどジーナやリチャード達も出かけようとしていた。ジーナは初日のパーティと同じ黒い袖なしのロングワンピース姿だった。他の学生達は白い麻のスーツで、ヴァレントだけ中に淡い青色のシャツを着ていた。
全員で固まるようにして歩いて、坂を上り公主邸を目指した。
「ダニエルとアンドレアは先に行ったわ。」
ジーナが振り返ってシャーロットに言った。「あの二人はずーっと二人きりの世界ね。羨ましいけど、ちょっとだけ、かわいそう。」
「街探検、明日も行くんだろう、シャーロット嬢。」
ジョージがにやりと笑いながら尋ねる。
「ええ、散歩するの。」
シャーロットがリュートの傍で微笑んで答えると、エリックがすかさず、「計画して迷子になるつもりなんだぜ、お姉さまは、」と言った。
リチャードとジョージに挟まれるようにして歩いているジーナが、驚いて振り返った。
「迷子は計画してなるものなの? 面白そうだからついていくけど。」
「ついていくのか? 迷子になるんだぞ?」
「あの街で路地裏探検するってことでしょ? 楽しい迷子に決まってるじゃない!」
「シャーロット嬢と一緒に街探検に希望の者は手を上げて~。」
リチャードが軽いノリで採決を取ると、その場にいた全員が手を挙げた。
「でしょ? こんな楽しいことを、あの二人は知らないのよ、かわいそうじゃない?」
ジーナが笑うと、先頭を歩いていたヴァレントが言った。
「あなた達といると、思ってもいないところで良いものが食べれますからね。いい勉強になります。」
一番後ろを歩いていたエリックは、全員に聞こえるようにはっきり言う。
「軍人達に気をつけろよ、今、港に寄港している奴らは言葉が通じないからな。」
「まあ、俺がいるから大丈夫だと思うけどな。一応騎士コースだし。」
リチャードが言うと、ジョージが呟いた。
「その時は、お前を生贄に僕達は逃げることにするよ。」
「おい、まずはお前が生贄になるんじゃないのか?」
「二人を生贄にして私達が逃げるから、安心してね。」
くすくすと笑いながらジーナが言うと、先頭を歩いていたヴァレントが突っ込みをいれる。
「生贄って安心なるもんなんですか?」
くすくす笑いながら坂を上っていると、公主邸に着いた。
大きな白い建物の公主邸の白い塀に囲まれた門は開かれていて、屋敷の中の方から賑やかな声が聞こえた。ホテルから見えていた温室は同じ敷地内のあるのか、同じ塀の中にあった。
門番はシャーロット達を見て礼をすると、奥の方へ案内してくれた。すぐさま門が閉じられ、もしかして待っていてくれたのかなとシャーロットは思った。
公主邸は外も中も白い壁で、照明は上からではなく床に置かれた明かりで灯していた。白い壁に下から上に広がる灯りで、何とも言えない異国の情緒が漂っている。案内されて歩く廊下から中庭が見えた。中庭の池の畔に石を加工してできた椅子が何本か立っていて、その一つに、白い麻のスーツを着た祖父が腰かけているのをシャーロットは見つけた。
「おじいさま、何をなさっているの?」
シャーロットが思わずびっくりして問いかけると、祖父は嬉しそうに中庭からやって来た。
「月を見ていたんだ。今日も美しいな、シャーロット。元気にしていたか?」
「ええ、おかげさまで。おじいさまは毎日どこへ行ってらっしゃったのかしら。」
「毎日釣りだよ、釣り。ここはいい漁場があっていい国だなあ。」
学生には学校に行かせて毎日釣りかあ…、優雅だなあ、理事長って…。シャーロットは祖父がまともに仕事をしていると期待してはいけないと思った。
祖父はエリックの隣に並ぶと、一緒に歩き出した。
「明日でこの国とはお別れになるかもしれん。沖に軍艦が見えただろう? 巻き込まれないうちに、帰り支度を始めた方がいいかもしれなんな。」
「帰りの航路に何か問題でも?」
「ああいうでかい軍艦がいると、港が警戒するからな。難癖をつけられることはないと思うが、こっちは軍人を連れて来とらん。」
学生ばかりの旅で、大人は執事二人と祖父だけだった。油断しすぎたのだろう。
「ペンタトニーク公はなんと仰ってるんです?」
エリックの問いかけに、祖父は静かに微笑んだ。
「公がいくら海運王とはいえ、この国は軍事力に劣るからな。期待して無理をさせてはいけないよ、エリック。」
こんな時でも、船が借りられるましなのだろうなとシャーロットは思った。
大広間に通されると、いくつか置かれたテーブルに豪華な食事が並び立食パーティの準備は整えられていて、楽団が緩やかな音楽を奏でていた。中央に、白い詰襟の服に白いズボンを履き首元に大きな青い宝石をつけたペンタトニークと、袖のない白いドレスを着た夫人と、白い麻のスーツを着たブルーノが待っていた。
他には騎士が何人かと基本学校の学校長がいた。今日は騎士団の団長や調整官の官長はいなかった。有事に備えているのだろう。
白い麻のスーツのダニエルと白い膝下丈ワンピース姿のアンドレアは、テーブルの近くに二人並んでカクテルグラスを手に佇んでいた。
「すまないが、予定時刻より早いが、パーティをはじめさせてほしい。」
ペンタトニーク公が申し訳なさそうに言った。
「君達には、少しでもこの国を好きな気持ちのままで帰ってくれることを期待している。今日、学習理解の試験があったと聞いている。では、学校長の方から話を聞こう、」
学校長は優しい笑顔で話し始めた。
「君たちは大変優秀で、この国の子供達が基本学校の1年生で1年かけて学ぶ事をたった3日で納めてしまった。これを評して、1年生の習熟度の記念の単位を差し上げたい。この国ではこれを記念に渡すのだよ。」
毎日授業の内容が濃かったのはそういう訳ね…、とシャーロットは苦笑いをする。
手のひらに収まる大きさのメダルがそれぞれに配られる。この国の文字で、おめでとうと書かれているのは判った。読めるなんて学習の成果だわとシャーロットは思った。
「1年生の単位の獲得おめでとうと書かれている。記念に持って帰ってほしい。」
拍手とともに礼をして、学校長はペンタトニーク公に場を譲った。
「それで、申し訳ないのだが、出航は明日の昼となった。1日早い船になるが、騎士達や息子のブルーノが護衛に付き添う。警備船も一緒だから安心してほしい。」
祖父は微笑むと、ペンタトニーク公にお辞儀をした。
「大変な時に来てしまって悪かったね、ペンタトニーク公。私達は大切にしてもらえて大変感謝しているよ。1日日程が繰り上がることになっても、学生諸君には私の領地で寛いでもらうから安心してほしい。」
「みんな、予定通りにいさせてあげられなくて申し訳なかったね。明日土産を持たせるから、気持ちよく受け取ってほしい。」
祖父はペンタトニーク公と握手をした。学生の誰も文句を言い出すこともなく、素直に事態を受け入れた。シャーロットは仕方ないのかなあとメダルを見ながら考えていた。船も出してもらえて、家に帰れるだけましなのかもしれない。
「では、学生諸君、最後の夜を楽しんでほしい。」
ペンタトニーク公の言葉が終わると、学生達はテーブルへと動き出した。シャーロットもエリックと祖父のところへ行った。
「おじいさま、読み通りになったわね。」
「そうだな。シャーロットとエリックは思い残したことはないか?」
「シャーロットお姉さまは明日迷子になる予定だったそうです。」
「エリック…! 余計なことを。」
はっはっはと祖父は大笑いをする。「シャーロットらしくていいなあ!」
「お母さまにお土産を買いましたから、もう十分です。」
「お前達の父親の分の土産は買ったのか?」
「あ。」
エリックとシャーロットは顔を見合わせる。
「お前達は、薄情な子供だのう…。」
「明日の午前中に買い物に行ってきます。」
シャーロットは項垂れた。
「エリックと二人で行くんだぞ? 用心のために執事も連れて行け。明日の朝ホテルに向かわせるから、連れて行きなさい。わかったな?」
「はい…。」
話を聞いていたのか、ブルーノが近付いてきて言った。
「僕でよければお供します。僕がいた方が安全でしょう?」
「すまんな、よろしく頼む。」
祖父がブルーノと握手をしていると、執事達が慌ただしく広間に入ってきた。ペンタトニーク公と夫人に何かを囁いている。顔つきが険しくなった夫人を宥めるように、ペンタトニーク公が何かを囁いて、執事と部屋の外へ出て行った。
「何かあったのでしょうか?」
エリックが怪訝そうな顔で、祖父に問いかけた。
「さあてな。あいつらが無理難題を吹っかけてきたんだろうな。」
祖父は真顔になって何かを考えるように空中を睨んだ。
シャーロットはエリックの袖を軽く引っ張って、食事に誘った。ついてきたブルーノと3人で食事を始めた。祖父は騎士や夫人と何かを話している。
手に取った皿に取り分けて食べていると、ジーナが寄ってきた。皿を手に食事をしながら、リチャードやジョージ、ヴァレントも同じテーブルに寄ってくる。
「なんだか大変な雰囲気よね。何が起こってるのかしら。」
ジーナはデザートばかり盛られた皿を突いて食べている。
「大人達が何とかするさ。」
エリックが肉をフォークで差しながら答えた。
「食べられるうちに食べておかないと、このパーティまでも早いお開きになるかもしれないぞ。」
「それは困る。」
リチャードとジョージは慌てて皿にめぼしいものを取り分けていく。
リュートを探すと、隣のテーブルでもくもくと食事している様子が見えた。シャーロットは安心して、何かの魚のカルパッチョを食べた。
近くにあったサラダを食べていると、廊下を軍靴を踏み鳴らす音が響いて、何人かの軍人がペンタトニーク公と広間に入ってきた。軍帽を被ってはいなかったが、昼間宝飾店にいた軍人達だった。広間を見渡して人数と顔を確認した軍人達は、シャーロットと目が合うと、ペンタトニーク公に何かを言ってシャーロット達の方へやって来た。
「今日はここでパーティをやっていると聞いてね。私達も参加させてもらおうとやって来たのだ。」
ジーナがのぼせたような顔で、茶金髪の柔らかそうなくせっ毛のシュトルクを見つめていた。パッと見た目は綺麗な顔の軍人さんだもんなーとシャーロットは思った。性格がちょっと苦手だけど。
男子学生達の表情は強張り、エリックがシャーロットの前にそっと歩み出た。シャーロットも食べていたフォークと皿を傍のテーブルに置いて、エリックの陰に隠れる。
「君達はパーティなのに、食べてばかりで踊らないのか?」
ブルーノが答えた。
「今日は、この国の食事を楽しんでもらうのが趣旨の集まりです。あなたの国では踊らないとパーティではないのですか?」
「これはこれは。この国の王子様ではないか。国によって文化が違うものだから、そういう考えもあるだろう。では、私は、異国の姫と私の国のやり方でパーティを楽しませてもらうとするか。」
そう言うと、エリックの陰に隠れていたシャーロットの手首を掴んで引っ張り出した。
「あなたの国では、歓迎の舞踏会をするのだろう? 異国の姫君。私達を歓迎してほしい。」
ちらりとエリックを見上げると、無言でシュトルクを睨んでいた。シャーロットは覚悟を決めて、猫をしっかり被った。面倒臭い弟が何か余計なことを言い出さないうちに、私にできる事をしよう。
「ここの国と私達の国では文化は違いますが、いい思い出を作って帰ってほしいという思いやる気持ちは伝わってきます。私は、この国の皆さまのやり方は好ましいと思います。」
意識して柔らかい声を作り、優しく微笑んで、シュトルクを見つめた。
「ただの旅行者の私で宜しければ、一曲お相手しますわ。」
シャーロットの差し伸べた手を取ると甲にキスをして、シュトルクはシャーロットを見つめた。二人は広間の中央に歩み出ると、お互いに礼をした。楽団の指揮者が状況を読んだのか、楽団は軽快なワルツを演奏し始める。
しっかりとシャーロットの腰を抱くシュトルクに身を預けながら、シャーロットは軽快にステップを踏んだ。カクテルドレスで踊るのは初めてだった。恥ずかしいなどと躊躇っていられなかった。
軍服のシュトルクは、優雅な身のこなしでさりげなくシャーロットをリードしてくれる。シュトルクからはほのかに、シダーとミントが混ざったような爽やかな香りがしていた。大人な印象の割に、子供っぽい強引なところがある人ね、とシャーロットは思った。
「あなたはどこの国に行っても、いつもこういうやり方をするのですか?」
シャーロットが囁くと、シュトルクは耳元で囁いた。
「いいや。舞踏会自体が嫌いだから、軍人なんかをやってるんだよ?」
「嫌いなまま、この国でもおとなしくお客さんをしていればいいのに。」
シュトルクはシャーロットの瞳を見つめて微笑んだ。
「お客さんのままだと、君とは踊れないだろう?」
踊りながら、シャーロットは部屋の中を観察していた。他の軍人達は食事をせずにじっと立って、シュトルクの指示を待っている。目的は食事ではなく、難癖をつけにここに来たのだろうとシャーロットは思った。
「君はいくつだ、シャーロット。」
「9月で16歳になったわ。」
「私は22だ。まだ結婚はしていない。」
「そう。」
私も結婚はしてないけど婚約者がいるのよね~と、シャーロットは思った。学校が始まれば、やっとミカエルに会える。きっと、この人も婚約者やそれに近い立場の女性がいるはず。一夜限りの現地妻になどなりたいとは思わない。
「ここへはいつまでいるんだ?」
シャーロットの瞳を、シュトルクの水色の瞳がじっと見つめる。明日まで、と言いかけて、シャーロットは黙った。日程を言ってはいけない気がした。
もうじき、曲が終わりそうだった。
「この国の舞踏会の決まりは知らないけど、私の国では、1曲で交代するのよ?」
「ああ、私の国でもそうだ。2曲踊れば秘密の関係、3曲踊れば公然の仲だ。」
「では、もうおしまいね?」
シャーロットが微笑んでくるりと回って立ち止まろうとすると、シュトルクがシャーロットの体を引き寄せた。
「もう一曲。なんならこのまま、私の国に連れて帰ってもいい。」
「そういうのはいらないわ。」
微笑んだままシャーロットはシュトルクの体を両手でそっと押して、腕の中から抜け出した。
距離を取って淑女の礼をすると、「王子様、お相手ありがとうございました、」と伝えて微笑みかけた。
「ああ、ありがとう、」
ぎこちなく笑みを作って、シュトルクも礼をした。そのまま、軍人達とペンタトニークの傍に行ってしまう。夫人の傍にいた祖父が、シャーロットを見て小さく頷いた。
冷静な足取りでシャーロットがエリックのいるテーブルに戻ると、ブルーノに手を掴まれた。リュートやヴァレントまでいて、学生達は同じテーブルに集まっていた。
「シャーロット、何かされなかった?」
「な、何も?」
ブルーノが掴む手首の方が痛い気がする。
「離して、ブルーノ。大丈夫だって判ったでしょ?」
シャーロットが微笑むと、ブルーノはシャーロットの手首を擦った。
エリックが不機嫌そうに尋ねてくる。
「お姉さま、何を話してたんだ?」
「年?」
首を傾げたシャーロットに、ジーナはくすくすと笑いだした。
「シャーロット嬢はお姫様なのに、こういうところが面白いわ。あんな場をうまく切り抜けられる度胸があるのに…!」
「ジーナも踊ってもらえばいいじゃない。」
シャーロットが口を尖らせると、ジーナは慌てて首を振った。
「だ、ダメよ、私、ステップ踏めないもの。足、踏んでしまうわ、きっと。」
「そうなると、ジーナは生きて国に帰れないだろうな。」
リチャードがニヤニヤしながら言った。
「この旅行の参加者に、お姫様がいて助かったな。」
ジョージがしみじみと言うと、ジーナが頷いた。
「そうね、ただの旅行に釣られてきたのが私達みたいな庶民ばかりだと、きっと大変なことになってたわ。」
うんうんとリチャード達は頷いた。
「明日の迷子の計画の中止は残念ですが、公爵領でのおもてなしが実は僕は楽しみなんです。」
ヴァレントが嬉しそうに言うと、ジーナ達はうんうんと頷いた。
「国内きっての観光地だものね。高級スパや療養地が沢山ある領のおもてなし、想像するだけでときめいちゃうわ。」
おもてなしが何かで盛り上がる話を尻目に、シャーロットはそっと抜け出して食事を再開した。無性に甘いものが食べたい気分だった。
デザートを取り分けていると、リュートが心配そうにやって来た。手にしていた炭酸水のグラスを手渡してくれる。
「あっちにコーヒー風味のチーズのデザートもあったよ、シャーロット。」
「あら、美味しそうね。貰ってこようかな。」
シャーロットは強張っていた表情を解すように、小さく微笑んだ。何気ないリュートの気遣いが嬉しかった。
「無事でほっとした。」
リュートは優しく微笑んだ。
「ええ、私も、ちょっとほっとしてるわ。」
シャーロットは炭酸水を口に含んだ。思っていたよりも口の中はカラカラで、私、緊張していたんだわと思った。
ありがとうございました




